- 更正すべき理由がない旨の通知処分取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成18年(行ウ)第603号,第604号,第606号,第607号)(東京高判平成21年03月11日)
裁判所名:
事件番号:平成20(行コ)110
土地及び建物を譲渡したことに伴う譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額を他の各種所得の金額から控除する,いわゆる損益通算を廃止する旨の租税特別措置法31条1項後段の規定(平成16年4月1日施行)を同年1月1日にさかのぼって適用する旨を定めた所得税法等の一部を改正する法律(平成16年法律第14号(以下「改正法」という。))附則27条1項の規定は租税法律主義を定めた憲法の規定に違反すると主張してした,所得税の更正をすべき理由がない旨の通知処分の取消請求につき,所得税に関する法規が暦年の途中で改正され,これがその年分の所得税について適用される場合,所得税の納税義務が成立する暦年の最初から改正法の施行までの間に行われた個々の取引のみについてみれば,改正法が遡及して適用されることになるとしても,所得税の納税義務が成立する暦年の終了時においては改正法が既に施行されているのであるから,改正法が遡及して適用され納税義務の変更をもたらすものであるということはできないというべきであるが,租税法規を暦年当初に遡及して適用することによって納税者に不利益を与える場合には,憲法84条の趣旨からその暦年当初への遡及適用について合理的な理由があることが必要であると解され,立法府の判断がその合理的裁量の範囲を超える場合には,暦年当初への遡及適用は憲法84条の趣旨に反するとした上,土地等又は建物等の長期譲渡所得について損益通算制度を廃止することは,同所得に分離課税方式が採られていたこととの整合性を図り,かつ,損益通算がされることによる不均衡を解消して適正な租税負担の要請にこたえ得るものとして合理性があり,同措置を全体として早急に実施する必要性があったこと,前記租税特別措置法31条1項後段の規定の適用時期が遅くなればなるほど,それまでの間に含み損を抱えた不動産の安値での売却が促進される具体的な危険があったと認めることができること,平成16年1月1日以降の土地又は建物の譲渡について損益通算ができなくなることを納税者においてあらかじめ予測できる可能性がなかったとまではいえないことなどからすれば,前記附則27条1項には,合理的な理由があり,立法府の合理的裁量の範囲を超えるところはなく,憲法84条の趣旨に反しないとして,前記請求を棄却した事例
- 詐欺被告事件(東京高判平成21年03月06日)
裁判所名:
事件番号:平成20(う)1168
マンション販売会社の代表取締役が,その販売したマンションの構造計算書の計算結果が虚偽であり,建物の安全性が建築基準法に規定する構造計算によって確認されていないことを認識しながら,マンション居室の買主から残代金の支払を受けた行為は,買主に対し建物の安全性に重大な瑕疵がある旨を告げるなどして残代金の支払請求を一時的にでも撤回すべき作為義務に反するものとして,不作為による詐欺罪に当たる。
- 在留特別許可処分義務付け等請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成19年(行ウ)第227号)(東京高判平成21年03月05日)
裁判所名:
事件番号:平成20(行コ)146
出入国管理及び難民認定法50条1項に基づく在留特別許可は,退去強制事由が認められ退去させられるべき外国人について,特別に在留を許可すべき事情があると認めるときに,法務大臣等が恩恵的処置として日本に在留することを特別に許可するものであるところ,同法24条に列挙されている退去強制事由に該当する外国人には,自己を本邦に在留させることを法務大臣に求める権利はなく,同法49条1項所定の異議の申出は,行政事件訴訟法3条6項2号所定の「行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求」には当たらないから,前記許可をすることの義務付けを求める訴えは,同項1号所定の非申請型義務付けの訴えであると解するのが相当である。
- 地域振興協力費返還履行請求控訴事件(原審・横浜地方裁判所平成17年(行ウ)第49号)(東京高判平成21年02月26日)
裁判所名:
事件番号:平成20(行コ)253
市が,市内の自治会に対して地域振興協力費の名目の下に公金を支出したことは地方財政法4条1項等に違反するとして,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,市長個人に損害賠償の請求をすることを前記市長に対して求める請求及び支出負担行為を専決した同市の区長個人に賠償命令をすることを市長に対して求める請求につき,前記支出は,経費としての対価性及び必要最小限度の原則の要求に反するから,同法232条1項所定の経費として支出することは許されない部分があるが,当該部分の支出が同法232条の2所定の寄附又は補助の支出としての法律上の要件を満たす場合には,結局,支出の全額について,普通地方公共団体として法律上支出し得る金員であったということができ,支出に係る区分を一部誤ったという瑕疵が支出自体を違法ならしめるほどの実質的な瑕疵といえなければ,その支出を違法ということはできないものと解されるとした上,前記部分の支出は,公益上の必要性の存在及びその交付金額の判断につき,裁量権の逸脱又は濫用があるということはできず,違法とはいえないとして,前記各請求を棄却した事例
- 所得税更正処分取消等請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成18年(行ウ)第747号)(東京高判平成21年02月26日)
裁判所名:
事件番号:平成20(行コ)318
シンガポール共和国において設立された外国法人の株式を保有する者に対し,前記法人が租税特別措置法(平成14年法律第79号による改正前。以下同じ)40条の4第1項の特定外国子会社等に当たるとして,前記法人の課税対象留保金額を同人の総収入金額の額に算入してされた所得税の更正処分のうち確定申告額を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分につき,一方締結国の企業の利益については,原則としてその一方締結国のみが課税することができる旨を規定する「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とシンガポール共和国政府との間の協定」7条1項は,企業がその事業活動等を行うことによって得た利益に対する課税権限の分配を定めたものであって,企業がその利益を配当等によって移転した場合に,それに対して課税することは,同項の対象ではないというべきところ,租税特別措置法40条の4は,本来,特定外国子会社等から我が国に居住する株主に利益移転がされるのが当然であると解される場合であるにもかかわらず,それがされていないときに,本来あるべき利益移転があったものとみなして,そのあるべき利益移転によって株主である我が国の居住者が得たとみなされる所得に対して課税するものであって,これが,シンガポール法人が事業等によって得た利得に対して課税するものでないことは明らかであるから,同条は前記協定7条1項に反するものではないとした上,前記法人は,同法40条の4第3項に規定する適用除外要件を満たさないなどとして,前記各処分をいずれも適法とした事例
- 太田市恩賞随意契約損害賠償住民訴訟控訴,同附帯控訴事件(原審・前橋地方裁判所平成16年(行ウ)第40号)(東京高判平成21年02月24日)
裁判所名:
事件番号:平成20(行コ)275
1 市の住民が,市の優良工事を施行した請負人を表彰し,恩賞として随意契約の締結権を付与する制度に基づく複数の随意契約の締結ないしこれに基づく公金の支出が違法であるとして,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,市長個人に損害賠償の請求をすることを市長に対して求める訴えにつき,監査請求の対象とされた財務会計行為である前記契約は,一般住民に分からないよう秘密裡に行われたものではなく,市の担当部署に問い合わせれば,その概要が判明し,情報公開請求をすればさらにその詳細が判明するものであること,現に前記住民は,情報公開請求をしてその都度直ちに資料を入手し,前記契約の存在及び内容を具体的に知ったこと等の事情を考慮すると,前記契約についてその締結時から1年以内に普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査を尽くしても客観的にみて住民監査請求をするに足りる程度にその存在又は内容を知ることができなかったと認めることはできないから,監査請求期間を徒過したことについて同法242条2項ただし書所定の正当な理由がないとして,前記訴えのうち,前記契約の締結から1年を経過した後に住民監査請求をした部分を却下した事例
- 法人税更正処分取消等請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成18年(行ウ)第496号)(東京高判平成21年02月18日)
裁判所名:
事件番号:平成20(行コ)116
架空外注費を計上して会社の金員を詐取した従業員に対する損害賠償請求権の額を,詐取された架空外注費の額を損金に算入する事業年度と同じ事業年度の益金に算入しないでされた法人税の確定申告に対する更正処分につき,不法行為による損害賠償請求権については,通常,損失が発生した時には損害賠償請求権も発生,確定しているから,これらを同時に損金と益金とに計上するのが原則であるが,税負担の公平や法的安定性の観点から,通常人を基準にして,損害賠償請求権の存在,内容等を把握し得ず,権利行使が期待できないような客観的状況にあって未だ権利実現の可能性を客観的に認識することができない場合には当該事業年度の益金に計上すべきであるとはいえず,また,損害賠償請求権が全額回収不能であることが客観的に明らかである場合には,貸倒損失としてそのような状態になった時点の属する年度の損金に算入することができるとした上,前記詐取は,経理担当取締役が預金口座からの払戻し及び外注先への振込み依頼について決裁する際に前記従業員が持参した正規の振込依頼書をチェックしさえすれば容易に発覚するものであったこと等を考えると,通常人を基準とすると,当該事業年度当時において,前記従業員に対する損害賠償請求権の存在,内容等を把握できず,権利行使を期待できないような客観的状況にあったとはいえず,また,当該事業年度当時,前記従業員に全く弁済能力がなかったとはいえず,前記損害賠償請求権が全額回収不能であることが客観的に明らかであったとはいえないから,前記損害賠償請求権の額を架空外注費を損金に算入する事業年度の損金に計上することは許されず,益金の額に算入すべきであるとして,前記更正処分を適法とした事例
- 執行停止申立事件(本案・当庁平成21年(行ノ)第6号)(東京高判平成21年02月06日)
裁判所名:
事件番号:平成21(行タ)5
建築主事による建築確認処分の取消しを求める訴えを提起し,認容判決の言渡しを受けた者らがした同処分の効力停止を求める申立てにつき,前記の者らは,前記処分に係る建築物の倒壊,炎上等により,その生命又は財産等に重大な損害を被るおそれがあるところ,前記建築物の建築等の工事は完了間近であり,工事が完了すると,前記処分の取消しを求める訴えの利益は失われ,同訴えは不適法なものとして却下されることになって,前記の者らにおいて前記建築物の倒壊,炎上等により損害を被ることを防止することができなくなることからすれば,前記処分により生ずる重大な損害を避けるため,前記処分の効力を停止する緊急の必要があると認められ,かつ,本案について理由がないとみえるときに当たらないことは明らかであるとして,前記申立てを認容した事例
- 証券取引法違反被告事件(東京高判平成21年02月03日)
裁判所名:
事件番号:平成19(う)2251
投資顧問業者から特定の会社の株式買収の提案を受けた会社の代表取締役らが,被買収会社に対する一応の調査と買収資金の調達に関する一応の目処を踏まえた上,被買収会社の株を相当割合保有している上記投資顧問業者に対し上記買収に関する会議を設定することを了承したなど判示の事情の下では,上記了承は,公開買付け等の実施につき,それ相応の実現可能性があるものとして平成18年法律第65号による改正前の証券取引法167条2項にいう「公開買付け等を行うことについての決定」に当たる。
- 横浜市立保育園廃止処分取消請求控訴事件(原審・横浜地方裁判所平成16年(行ウ)第4号)(東京高判平成21年01月29日)
裁判所名:
事件番号:平成18(行コ)169
横浜市保育所条例の一部を改正する条例(平成15年横浜市条例第62号)の制定によって市立保育所が廃止民営化されたことにつき,条例の制定は,普通地方公共団体の議会の固有の立法作用に基づく行為であって,一般的抽象的な法規範を定立する立法作用としての性質を有するものであり,当該条例に基づく行政庁の具体的行為が介在しなければ,特定の個人の権利義務ないし法的地位に直接具体的な影響を及ぼすものではないから,それ自体は抗告訴訟の対象となる処分に当たらないというべきであり,地方自治法が条例をもって普通地方公共団体の施策の基本的事項を定めることと規定していることに基づいて普通地方公共団体が条例を制定した場合も,当該条例は特定の個人の権利義務ないし法的地位を直接定めるものではないから同様であるとして,前記条例の制定が,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらないとした事例