主 文
本件控訴を棄却する。
理 由
本件控訴の趣意は、弁護人提出の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用し、これに対して次のとおり判断する。
ところで所論は要するに原判決の事実誤認を主張するものである。然し乍ら、本件記録を精査し、原判決を仔細に検討勘案するも、原判示事実は、原判決挙示の照応証拠により優にこれを証明することができ、原判決にはいささかも事実誤認の違法は存しない。所論によれば、被害者たるA記者については、業務たる取材活動がなく、従つて同記者に対する業務妨害は成立しない旨主張するのであるが、原審証人A、同B、同C、同D、同Eの各供述を綜合すれば、Aがその所属するF新聞G支局社会部の記者として、支局長の命により原判示第一、現場にその業務としての取材の為出向き、同僚の同社のB記者が、新聞報道の為め撮つた写真(フイルム)を装填した写真機を被告人等より奪取されようとするのを救わんとして協力応援したことを認むるに充分であつて、斯かる行為は、右Aの新聞記者としての業務たる取材活動と不可分の関係にあるものと認むるを相当とし、従つて右所為を妨害するにおいては業務妨害が成立するのは当然であつて、所論は到底採用し難い。又所論によれば、被告人等の本件行為は警察官等の不当な公務執行に対する正当防衛であり、仮に公務執行が適法であるとしても、被告人等から見れば違法な公務執行と考えられた警察官の所為に対し防衛の為めに已むを得ずしてなされた誤想防衛である旨主張するのであるが、原判示警察官の公務執行が適法であつそ不当でなかつたことは原判決挙示の照応証拠により優にこれを認めることができ、記録を精査するも、右公務執行が不当であつたと認むべき資料は毫も存しない。従つて本件被告人等の所為を以つて正当防衛とは到底認め難く、而して被告人等はこれが公務の執行であることを認識して敢えて判示所為に及んだものであること、その挙示する証拠により明白であるから(違法な公務執行と考えた旨の主張は単なる弁解に過ぎないものと認める)、固よりこれを以つて誤想防衛とも認めることはできない。
論旨は総べてその理由がない。仍つて刑事訴訟法第三九六条に則り主文のとおり判決する。
(裁判長判事 工藤慎吉 判事 草間英一 判事 渡辺好人)