被告人Bの弁護人松本重夫の控訴趣意第一点、被告人Cの弁護人筒井清五郎の控訴趣意第一点について。
原判決の認定した被告人Bの判示第二、の収賄、被告人Cの判示第三、の(二)の贈賄の事実も亦、原判決引用の証拠によりこれを認めるに足り、記録を精査検討しても原判決の右事実の認定が所倫のように誤認であることを窺うことができない。
所論の被告人B、同Cの原審公判廷における供述は、原裁判所が原判次引用の証拠に徴し措信し難いものとして事実認定の証拠に引用しなかつたものと認められ、原判決の引用する被告人Cの昭和二八年二月二〇日附検察官に対する第三回供述調書、被告人Bの同年二月二三日附及び同年三月三日附各検察官に対する供述調書は、原審第九回公判調書によれば被告人C、同B及び同被告人等の原審弁護人が同公判期日において証拠とすることに同意したものであることが認められるのであつて、しかも原審第七回公判調書中証人Dの供述調書によると右被告人等の検察官に対する供述調書は、いずれも同被告人等が検察官に対し任意にした供述を録取したものであることが認められ、又その証明力が著しく低い等証拠とすることを相当としない事由は認められないのであるから、原判決が右供述調書を証拠に引用していることは相当である。所論の被告人Cの昭和二七年二月一九日附、昭和二八年二月一三日附各司法警察員に対する供述調書、被告人Bの昭和二八年二月一五日附、同年二月二一日附各司法警察員に対する供述調書はいずれも原判決が判示第二、及び第三、の(二)の事実認定の証拠に引用していないことは原判決の証拠理由自体によつて明らかであり、又原判決の引用する被告人Cの昭和二八年二月二〇日附検察官に対する供述調書記載の供述と被告人Bの同年二月二三日附検察官に対する供述調書記載の供述との間には所論指摘の点において符合しないことが認められるが、被告人Cが原判示趣旨の下に現金一万五〇〇〇円を被告人Bて供与し、被告人Bがその情を知りながらこれを収受したとの主要な事実については相一致していることが認められるのであるから、両者の供述間における所論のようなくいちがいは、必ずしもその双方の信憑力を失わしめるものということはできない。次に原判決は判示第二、として被告人Bが被告人CからEの更正決定を受けた昭和二五年度所得税を減額して貰いたい趣旨で提供されるものであることの情を知りながら現金を収受した旨を判示しているに止まり、Eに対する更正決定について再調査を請求できる期間内に右現金を収受したもののように判示しているものでないことは判文上明らかでおる。
そして所得税法第四八条第一項は更正決定の通知を受けこれに異議ある者の再調査請求期間を通知を受けた日から一ケ月と規定しており、原判決の引用する被告人Cの昭和二八年二月二〇日附検察官に対する供述調書、被告人Bの同年二月二三日附及び同年三月三日附各検察官に対する供述調書によれば、Eの受けた昭和二五年度所得税についての更正決定は、被告人C、同B間に原判示現金一万五〇〇〇円の授受のあつた昭和二六年七月頃当時既に同条第一項による再調査請求期間を徒過していたことを認めることができるのであるが、原判決の引用する被告人Bの昭和二八年二月一五日附司法警察員に対する供述調書、足立税務署長作成にかかる被告人Bの履歴書謄本、昭和二五年一二月一五日附税務署処務細則によれば、被告人Bは大蔵事務官で、昭和二四年九月から昭和二六年八月まで足立税務署に直税課所得税係として勤務し、個人所得につさ課税標準の調査、所得見積額竝に予定納税額の更正及び決定、審査に関する事務を担当していたものであることが認められ、前記被告人C、同Bの各検察官に対する供述調書、原審第八回公判調書中証人Fの供述記載、当審証人F、同Gの当公廷における供述によれば、昭和二五年度分所得税更正決定に対する再調査請求については昭和二六年五月九日附の東京国税局長の通達があり、管内各税務署長はこれに基いて法定期間経過後更正決定に対する再調査請求があつた場合においては、再調査請求は所得税法第四八条第五項第一号に依り不可抗力による期間の不遵守が認められると旨を除き、これを却下するが、更正決定に顕著な誤謬があると認められるときは期間の経過にかかわりなく適正な税務執行に遺憾なきを期するため、その誤謬訂正を行うべきものとしていたものであつて、この税務署長の職務は前記税務署処務細則により税務署直税課所得税係の所管事務に属していたので、所得税係は法定期間経過後の再調査請求については、単に期間の不遵守が不可抗力によるものかどうかを調査するたけでなく、更正決定に請求人申告のような顕著な誤謬があるかどうかを引調査するため必要赤るときは、その実質調査をした上これて意見を附し所管課長を経て税務署長に申達しその決裁を受けることなつていたことを認めることができる。従つて前記期間東京国税局管内の足立税務署直税課所得税係として勤務していた被告人Bは、同署管内の納税者であるEの個人所得額の更正決定に対する再調査請求があつた場合には、その更正決定に対する再調査請求期間経過後においても、請求人申告にかかる顕著な誤謬の有無を調査しこれに意見を附して同税務署長に申達する職務を有していたものであり、この職務は国税局長通達及び税務署処務細則に根拠を有するものといわねばるらない。しからば被告人Bが被告人CからEの更正決定を受けた昭和二五年度所得税を減額して貰いたいとの趣旨で提供されるものであることの情を知りながら現金を収受したのは、その職務に関し賄賂を収受したものに外ならないから、原判決には所論のような事実の誤認はなく、論旨は理由がない。
(その他の判決理由は省略する。)