除去命令処分取消等請求控訴事件 - 東京高判平成27年06月10日(消防判例)

東京高等裁判所(東京都)

事件番号:平成27(行コ)50

目次

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平成27年6月10日判決言渡
平成27年\(行コ\)50号除去命令処分取消等請求控訴事件

主文
1(1)第1審被告の控訴に基づき,原判決中,主文第2項を取り消す。

(2)第1審原告の前記取消にかかる部分の請求を棄却する。

2第1審被告の本件控訴中その余の部分を棄却する。

3第1審原告の本件控訴を棄却する。

4     訴訟費用は,第1,2審を通じて,これを4分し,その1
を第1審被告の負担とし,その余を第1審原告の負担とする。

事実及び理由

第1    控訴の趣旨
(第1審原告)
1    原判決を次のとおり変更する。

2    処分行政庁が平成26年1月15日付で第1審原告に対してした消防法5
条の3第1項に基づく除去命令処分(25京予第413号)を取り消す。

3第1審被告は,第1審原告に対し,200万円及びこれに対する平成26
年3月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(第1審被告)
1    原判決中,第1審被告敗訴部分を取り消す。
2第1審原告の第1審被告に対する請求をいずれも棄却する。

第2    事案の概要(以下,特に注記しない略語は原判決の例による。)

1    本件は,第1審原告が,原判決別紙2(原判決46頁)物件目録記載の本件建物の5階にある居室を賃借した上,本件建物の5階通路部分に木製本棚等を,7階塔屋部分にスチール製ロッカー等を設置していたところ,処分行政庁が,第1審原告に対し,平成26年1月15日付で,消防法5条の3第1項に基づき,前記本棚,ロッカー等について除去することを命ずる本件処分をしたことから,第1審原告が,第1審被告に対し,本件処分は法律上の要件を欠く違法な処分であるなどと主張し,本件処分の取消しを求めるとともに,本件処分が第1審原告に対して発せられたことを公示する本件標識を貼付したことによって第1審原告の信用が毀損されたと主張して,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料及び訴状送達の日の翌日である平成26年3月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。


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    2     原判決は,本件処分のうち,第1審原告が5階通路部分に設置した本件本棚
    及びこれに収納されている本件書籍について除去を命ずる部分は,法定の要件を満たすが,第1審原告が7階塔屋部分に設置した2台のロッカーのうち,南東側ロッカーについて除去を命ずる部分及びこの2台のロッカー内に収納されている本件冊子について除去を命ずる部分は,法定の要件を欠き違法であるとして,南東側ロッカー及び本件冊子について除去を命じた部分の取消請求を認めるとともに,本件標識のうち,前記違法な除去命令を公示した部分は,国家賠償法上違法であり,その貼付により第1審原告の信用が毀損され精神的苦痛を被ったとして,慰謝料10万円の損害賠償請求を認めたが,その余の第1審原告の請求をいずれも棄却した。これに対し,第1審原告及び第1審被告の双方が控訴をして,第1記載のとおりの判決を求めた。

    3     関係法令等の定め,前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,当審
    における主張を踏まえて以下のとおり付加訂正するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2事案の概要等」の1項から4項(原判決2頁20行目から19頁8行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

    (1)   原判決9頁16行目末尾に「また,本件各ロッカーの引き戸に使用されているガラスは,透明で容易に破壊することが可能な材質であるから,放火する意思を持った者が,本件建物に侵入した上本件階段室の塔屋階に到達し,本件各ロッカーのガラスを通じて可燃物である本件冊子を発見すれば,心理的にも物理的にも放火の障害となりうる事情は存在しないから,放火される具体的危険性(可能性)が存在する。」を加える。


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      (2)   原判決10頁5行目末尾に改行の上,「また,本件処分時には,本件
      建物の5階の通路部分に本件本棚等が現に存置されているのであるから,この本件本棚等で放火等によって火災が発生した場合,あるいは,本件建物の各階の居室内等で火災が発生した上,防火戸の管理が不適正であったりした場合などに,階段室を経由して延焼し,本件塔屋階部分の本件各ロッカーのガラスが熱によって破損し,中に収納されている本件冊子が延焼する具体的危険性(可能性)が認められる。」を加える。

      (3)   原判決10頁10行目「そして,」の次に,「火災時に発生する煙等が
      避難者の視界を妨げ避難の支障となること及び火災時において避難者に通常の心理状態で行動することを期待できないこと等を考慮すると,」を加える。

      (4)   原判決10頁13行目末尾に「また,そもそも,本件のように,建物の
      唯一の屋内階段の階段室内に相当量の可燃物を存置し,また,容易に移動できないロッカー等の固定物を存置して避難経路の幅員を狭める行為については,火災時に発生する煙等が避難者の視界を妨げること及び火災時において避難者に通常の心理状態で行動することを期待できないことに鑑みると,その存置自体が「消火,避難その他の消防の活動」を阻害する具体的な危険のある行為というべきである。」を加える。

      (5)   原判決13頁22行目「常駐しており,」の次に,「これらの者がエレ
      ベーターの扉の開閉音を聞いたり,5階通路部分を通ったりすることで,」を加える。

      (6)   原判決15頁6行目「発生することはな」の次に,「く,仮に発生した
      としても,自動火災報知機が設置されているのであるから,それが鳴ることで,火災に気付いた何者かが早期に本件建物の屋上の扉を開ければ,本件階段室内に熱や煙が充満することはな」を加える。


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        (7)     原判決19頁3行目の冒頭に「(1)」を加え,同頁8行目末尾に改行の上,
        次のとおり加える。

        「(2)     処分行政庁は,第1審原告の弁明を聴取した後,東京消防庁予防部査察課と協議を行い,助言を受けた上で本件処分をなしたものであって,必要かつ十分な注意義務を尽くしているのであるから,国家賠償法上の違法はなく,また,上記のような協議と助言を経たことに鑑みると本件処分にあたっては処分行政庁が相当な根拠をもって消防法5条の3第1項所定の除去命令の要件を満たすと判断したといい得るから処分行政庁に過失もない。

        (3)    また,仮に本件処分のうち,本件冊子及び南東側ロッカーについて除
        去命令を発した部分が国家賠償法上違法であり,処分行政庁に過失があったとしても,その余の除去命令部分が適法であり,第1審原告が,消防法上の命令を遵守しない者であることには相違がないところ,本件標識には,適法な除去命令部分と違法な除去命令部分が併せて表示されているのであるから,本件標識の貼付が,第1審原告の社会的評価を低下させることはなく,また,仮にこれがあるとしても,損害賠償をもって慰謝しなければならないほどの損害は,第1審原告には発生していないというべきである。」
        (8)     原判決43頁20行目「甲18」を「甲26」に改める。

        (9)     原判決44頁22行目「の」を「その」に改める。

        第3     当裁判所の判断

        1     当裁判所は,第1審原告の請求は,本件処分のうち,南東側ロッカー及び本件冊子の除去を命じた部分の取り消しを求める限度で理由があるが,その余の請求には理由がないと判断する。その理由は,以下のとおりである。

        2     争点1(本件処分が消防法5条の3第1項の要件を満たすか否か)について
        は,以下のとおり補足訂正するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第3当裁判所の判断」の「1 争点1(本件処分が消防法5条の3第1項の要件を満たすか否か)について」(原判決19頁10行目から34頁13行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。


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          (1)   原判決29頁17行目「常駐していること」の次に,「など」を加える。
          (2)   原判決30頁11行目「熱と」を「一酸化炭素や」に変更し,12行目
          「できるから」の次に(乙36)を加える。

          (3)   原判決30頁20行目「熱」を「一酸化炭素」に改める。

          (4)   原判決30頁21行目末尾に,次のとおり加える。
          「また,書籍を積載した本棚が燃焼する場合,発熱が小さく火災が発見されにくい状況であっても,煙汚染が進行することが認められるから(乙36の1),本件建物の各階の階段室内に火災報知機が設置されていることを考慮しても,本件本棚等が「消火,避難その他の消防の活動に支障になる」物件にあたるとの前記認定は左右されない。」
          (5)   原判決32頁5行目「を考慮すると」を「からすれば,本件各ロッカー
          の引き戸に使用されているガラスが,透明で容易に破壊することが可能な材質であることを考慮しても」に改める。

          (6)   原判決32頁9行目から19行目を次のとおり変更する。
          「また,上記(2)で認定説示のとおり,本件建物は鉄骨造りで,本件建物の各居室は入口防火戸で仕切られていること,本件塔屋階には居室がないことから,本件建物の各居室から火災が発生したとしても,本件塔屋階に設置されている本件各ロッカーにまでその火炎が到達することは容易ではなく,更に,本件本棚等が放火等によって燃焼した場合にも,大きな発熱を伴う燃焼状況にはなかなか至らないと推認されるから(乙36の1),本件各ロッカーにまで火炎が到達することは,絶無ではないにせよ,容易に想定することはできない。そして,本件各ロッカーはスチール製で不燃性のものであり(上記(2)),本件各ロッカーのガラスが熱によって破壊されるためには,火炎がガラスに接触するなどして,加熱側ガラス面上の温度差が70度以上に達することが必要と考えられること(乙32,33の1)からすると,本件建物の各居室から火災が発生したり,本件本棚等が放火等によって燃焼した場合を想定しても,本件冊子について,火災の延焼・拡大に至る危険が具体的に認められるとまではいえない。」
          (7)   原判決33頁3行目「発生した火災」の次に,「や本件本棚等が放火等
          によって燃焼したことによって発生した火炎」を加える。


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            (8)   原判決33頁24行目末尾に,「なお,火災時に発生する煙等が避難者
            の視界を妨げ避難の支障となること及び火災時において避難者に通常の心理状態で行動することを期待できないこと等を考慮しても,火災発生時に認められる一般的な危険を超えて,南東側ロッカーが存在することで,火災時における避難,消火などの消防活動の支障が生じる具体的危険があるとまでは認められない。」を加える。

            3     争点2(国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求の成否)について

            (1)   本件処分を前提としてされた本件標識の貼付は,本件冊子及び南東側ロッカーの除去を求める部分に限って国家賠償法上も違法であり,処分行政庁に過失があるが,その理由は,以下のとおり付加するほかは,原判決34頁15行目から26行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。

            原判決34頁26行目末尾に「なお,処分行政庁内部で協議をし,助言を受けたというだけでは,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くしたとも,処分行政庁が相当の根拠をもって本件処分をしたのであるから処分行政庁の判断には過失がないともいうことはできない。」を加える。

            (2)   本件標識の貼付は,本件処分の内容を公示することにより,一般人をし
            て,弁護士である第1審原告が消防法上の命令を遵守しない者であるとの印象を与えるから,職務上法令順守が求められる第1審原告の社会的評価を一定程度低下させることは否定できない。しかし,本件処分のうち,本件本棚等の除去を命ずる部分は,前記説示のとおり適法であるのだから,本件標識のうち,この適法な処分に係る公示は,いずれにしろ行われざるを得ず,したがって,第1審原告が消防法上の命令を遵守しない者であるとの印象を与えることは避けられない。そうすると,本件標識に,本件処分のうち適法な処分に関する公示と並列して,違法な処分に関する公示が含まれているからといって,そのことにより,本件処分のうち適法な処分のみが公示された場合と比較して,第1審原告の社会的評価が低下したとは認めるに足りず,損害賠償をもって慰謝しなければならないほどの損害が第1審原告に生じたとは認められない。


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              (3)   したがって,第1審原告の第1審被告に対する国家賠償法1条1項に基
              づく損害賠償の請求は理由がない。

              第4    結論
              以上によれば,第1審原告の請求は,本件処分のうち,南東側ロッカー及び本件冊子の除去を命じた部分の取り消しを求める限度で理由があるが,その余の請求には理由がないところ,これと異なる原判決は,その一部が不相当であるから,第1審被告の控訴は,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償の請求の一部を認容した原判決の取り消しと,その取り消しに係る第1審原告の請求の棄却を求める限度で理由があるからこれを認容し,第1審被告のその余の控訴及び第1審原告の控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。

              東京高等裁判所第23民事部
              裁判長裁判官                夫


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                裁判官若 林辰繁
                裁判官新 谷晋司


                  裁判所名

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