法人税更正処分等取消請求控訴事件 - 東京高判平成27年05月13日(国税判例)

東京高等裁判所(東京都)

事件番号:平成26(行コ)347

目次

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平成27年5月13日判決言渡
平成26年\(行コ\)347号法人税更正処分等取消請求控訴事件

主文

1   本件控訴を棄却する。

2   控訴費用は,控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1    控訴の趣旨

(主位的)

1    原判決を取り消す。

2    被控訴人の請求をいずれも棄却する。
(予備的その1)原判決主文第1項ないし第4項を次のとおり変更する。

1    処分行政庁が被控訴人に対し平成16年6月29日付けでした被控訴人の平成9年4月1日から平成10年3月31日までの事業年度の法人税の更正(ただし,平成19年7月9日付け異議決定による一部取消し後のもの。以下「本件更正1」という。)のうち納付すべき税額508億7211万9300円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(ただし,上記異議決定による一部取消し後のもの。以下「本件賦課決定1」といい,本件更正1と併せて「本件更正等1」という。)のうち過少申告加算税の税額2億4972万5000円を超える部分を取り消す。

2    処分行政庁が被控訴人に対し平成16年6月29日付けでした被控訴人の平成10年4月1日から平成11年3月31日までの事業年度の法人税の更正(以下「本件更正2」という。)のうち納付すべき税額485億8414万4800円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(以下「本件賦課決定2」といい,本件更正2と併せて「本件更正等2」という。)のうち過少申告加算税の税額1億6353万9000円を超える部分を取り消す。

3    処分行政庁が被控訴人に対し平成16年6月29日付けでした被控訴人の平成12年4月1日から平成13年3月31日までの事業年度の法人税の更正(以下「本件更正3」という。)のうち納付すべき税額マイナス(還付金の額に相当する税額)16億1275万2821円を下回る部分及び過少申告加算税賦課決定(以下「本件賦課決定3」といい,本件更正3と併せて「本件更正等3」という。)のうち過少申告加算税の税額1462万2000円を超える部分を取り消す。

4    処分行政庁が被控訴人に対し平成16年6月29日付けでした被控訴人の平成13年4月1日から平成14年3月31日までの事業年度の法人税の更正(以下「本件更正4」という。)のうち納付すべき税額66億6500万8100円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(以下「本件賦課決定4」といい,本件更正4と併せて「本件更正等4」という。)のうち過少申告加算税の税額175万7000円を超える部分を取り消す。

(予備的その2)原判決主文第1項,第2項及び第4項を次のとおり変更する。

1    本件更正1のうち納付すべき税額499億6892万5500円を超える部
分及び本件賦課決定1のうち過少申告加算税の税額1億5940万6000円を超える部分を取り消す。

2    本件更正2のうち納付すべき税額478億0184万0700円を超える部
分及び本件賦課決定2のうち過少申告加算税の税額8530万9000円を超える部分を取り消す。

4    本件更正4のうち納付すべき税額66億6649万9000円を超える部分及び本件賦課決定4のうち過少申告加算税の税額190万6000円を超える部分を取り消す。

(主位的,各予備的共通)訴訟費用は,第1,2審を通じ,被控訴人の負担とする。

第2    事案の概要等

1    事案の要旨
本件は,自動二輪車及び四輪車の製造及び販売を主たる事業とする内国法人である被控訴人が,その間接子会社であり,ブラジル連邦共和国(以下「ブラジル」という。)アマゾナス州に設置されたマナウス自由貿易地域(以下「マナウスフリーゾーン」という。)で自動二輪車の製造及び販売事業を行っている外国法人であるaLtda.(以下「a社」という。)及びその子会社との間で,自動二輪車の部品等の販売及び技術支援の役務提供取引(以下「本件国外関連取引」という。)を行い,それにより支払を受けた対価の額を収益の額に算入して,平成10年3月期(平成9年4月1日から平成10年3月31日までの事業年度をいう。以下,他の事業年度についても同様である。),平成11年3月期,平成13年3月期,平成14年3月期及び平成15年3月期(以下,これらの各事業年度を併せて「本件各事業年度」という。)の法人税の確定申告をしたところ,処分行政庁から,上記の支払を受けた対価の額が租税特別措置法(平成10年3月期,平成11年3月期及び平成13年3月期については平成13年法律第7号による改正前のもの,平成14年3月期については平成14年法律第79号による改正前のもの,平成15年3月期については平成18年法律第10号による改正前のもの。以下,これらの改正前のものを包括して「措置法」という。)66条の4第2項1号ニ及び2号ロ,租税特別措置法施行令(平成10年3月期,平成11年3月期及び平成13年3月期については平成13年政令第141号による改正前のもの,平成14年3月期及び平成15年3月期については平成16年政令第105号による改正前のもの。以下,これらの改正前のものを包括して「措置法施行令」という。)39条の12第8項に定める方法(以下「利益分割法」という。)により算定した独立企業間価格(以下「本件独立企業間価格」という。)に満たないことを理由に,措置法66条の4第1項の国外関連者との取引に係る課税の特例(以下,この特例に基づく税制度を「移転価格税制」という。)の規定により,本件国外関連取引が本件独立企業間価格で行われたものとみなし,本件各事業年度の所得金額に本件独立企業間価格と本件国外関連取引の対価の額との差額を加算すべきであるとして,本件更正等1ないし4並びに,平成16年6月29日付けでされた被控訴人の平成14年4月1日から平成15年3月31日までの事業年度の法人税の更正(ただし,平成17年4月27日付け更正による一部取消し後のもの。以下「本件更正5-1」という。)及び過少申告加算税賦課決定(ただし,同日付け変更決定による一部取消し後のもの。以下「本件賦課決定5」といい,本件更正5-1と併せて「本件更正等5-1」という。),さらに平成18年3月28日付けでされた被控訴人の平成14年4月1日から平成15年3月31日までの事業年度の法人税の更正(以下「本件更正5-2」という。)を受けたため,処分行政庁の所属する国を被告として,本件更正等1ないし本件更正等5-1並びに本件更正5-2(以下「本件各更正等」という。)の一部又は全部の取消しを求める事案である。ただし,被控訴人は,本件更正5-1と本件更正5-2については,選択的に取消しを求めている。

被控訴人は,処分行政庁がした本件独立企業間価格の算定(本件では,利益分割法のうちの残余利益分割法を用いている。)は,a社及びその子会社(以下「a社等」という。)がマナウスフリーゾーンで事業活動を行うことにより享受している税制上の利益(以下「マナウス税恩典利益」といい,その基礎となる税制度を「マナウス税恩典」という。)が,本来a社等が事業活動を行う市場の条件に基づくものであるからa社等に帰属すべきものであるのに,それが被控訴人にも配分されるべきものであることを前提としている点で既に誤っており,また,そのほか,被控訴人の貢献を過大に評価していて本件独立企業間価格の算定が高額に過ぎるなどとして,本件各更正等は違法である旨主張している。

本件の当事者等及び本件国外関連取引の概要は,原判決別図(b㈱取引関係図)のとおりであり,また,本判決の本文及び各別紙において用いる略語のうち主要なものは,原判決別紙1(略語一覧)のとおりである。

原判決は,本件各更正等は,マナウス税恩典利益がa社等に属することの影響を考慮せずに残余利益分割法を適用して算定した本件独立企業間価格に基づくものであるところ,本件国外関連取引の対価が独立企業間価格に満たないとの立証があるとは認められないから,その余の点について判断するまでもなく違法であるとして被控訴人の各請求をいずれも認容したので,これを不服とする控訴人が,原判決を取り消して被控訴人の各請求を全て棄却することを求めて控訴した。なお,控訴人は,当審において,残余利益分割法の適用における必要な差異調整を行うなどすると,本件各更正等を一部取り消すことになるので,そのように原判決を変更することを求めるとの予備的主張1及び2を追加した。

2    法令等の定め,前提事実,課税処分の根拠,争点及び当事者の主張の要旨
法令等の定め,前提事実,課税処分の根拠,争点及び当事者の主張の要旨は,下記のとおり原判決を補正し,下記第3の2のとおり控訴人の当審における補充主張及び予備的主張並びにこれらに対する被控訴人の反論を摘示するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第2事案の概要」の1ないし5に記載のとおりであるから,これを引用する。

(原判決の補正)

(1) 16頁17行目,同18行目,170頁17行目及び同18行目の各「過少申加算税」をいずれも「過少申告加算税」に改める。

(2) 324頁5行目の「通常の事業状況にない」を「関連会社との取引割合の大きい」に改める。

第3    当裁判所の判断

1    当裁判所も,原審と同様に被控訴人の各請求はいずれも理由があると判断する。その理由は,下記2のとおり控訴人の当審における補充主張及び予備的主張並びにこれらに対する被控訴人の反論を摘示し,下記3のとおりこれらに対する判断を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第3当裁判所の判断」に説示するとおりであるから,これを引用する。

2    控訴人の当審における補充主張及び予備的主張並びにこれらに対する被控訴人の反論
(1) 控訴人の当審における補充主張
①残余利益分割法の基本的利益の額の算定における検証対象法人と比較対象法人との間の事業活動を行う市場の類似性の判断は,総費用営業利益率に基づき行われるべきところ,マナウス税恩典利益の享受の有無は,総費用営業利益率に重要な影響を与えるものではない。仮に与えているとしても,重要な無形資産の寄与によるところが大きいものである。したがって,マナウス税恩典利益の享受は,本件におけるa社等と本件のブラジル側比較対象企業との間の市場の類似性を否定するものではない。

ア原判決は,要旨以下のとおり判示する。マナウス税恩典利益を享受する法人は,その輸入税(連邦税)及びICMS(州税)の負担が減免され,それにより売上原価が低減して,利益を増大させることができる。そうするとマナウス税恩典利益を享受している検証対象法人と,マナウス税恩典利益を享受していない比較対象法人とでは,市場の類似性はない。

本件でも,マナウス税恩典利益の享受がa社等の営業利益に大きな影響を及ぼしたことは明らかであるのに対し,控訴人がブラジル側比較対象法人としたブラジル側比較対象企業は,いずれもマナウスフリーゾーン外で事業をしており,マナウス税恩典利益を享受していないのであるから,両者の間に市場の類似性はなく,a社等との比較可能性を欠く。

控訴人が,そのことについて何らの差異調整をしないまま,ブラジル側比較対象企業に基づきブラジル側基本的利益を算定し,本件独立企業間価格を算定したことは誤りである。

イしかし,上記判断には誤りがある。まず,残余利益分割法は,基本三法が使えない場合に適用される最後の手段(ラストリゾート)であるから(措置法66条の4第2項1号ニ及び2号ロ),その基本的利益の算定において,比較対象法人に求められる比較可能性の程度は,基本三法におけるそれより緩やかなものであり,検証対象法人と比較対象法人との間の市場の類似性を否定する理由となる差異は,比較の信頼性に重要な影響を与えることが客観的に明らかな差異に限られるべきである。

ウ基本的利益の額の算定上,事業活動を行う市場の類似性の判断は,マナウス税恩典の利益の多寡や営業利益に占める割合ではなく,総費用営業利益率で判断すべきである。そして,以下の理由から,マナウス税恩典は,ブラジル側比較対象企業の総費用営業利益率に重要な影響を与えることが明らかであるとはいえない。

(ア) マナウス税恩典は,輸入税やICMSの減免により売上原価の低減をもたらすものの,その低減額は,部品の輸入割合の多寡や,アマゾナス州以外の州からの部品や原材料の購入額の多寡といったような事業形態等により大きく異なるものである。

(イ) マナウス税恩典は,各種拠出金等の支出を伴う。また,マナウスはブラジル北部の,アマゾンの奥地にあり,主要な大都市が集中するブラジル南東部はもちろん,ブラジル第3の人口を有する都市のある北東部からも遠隔の地にあって,マナウスフリーゾーンで操業することにより物流コスト及び保険料(物流コスト等)の増加がもたらされる。これは総費用営業利益率を低下させる。

a社等の物流コスト等の割合が高くないとしても,それは事業規模が大きいため大量輸送により費用効率が高められたためであり,重要な無形資産を有さず,一定の事業規模を達成できない法人には当てはまらない。

(ウ) マナウス税恩典利益を享受する企業は,中長期的な視点から,通常,市場シェアの拡大や維持を目指すという目的で,それを販売価格の低減に用いることが合理的に予測される。すなわち,マナウス税恩典利益は消費者に移転されることになり,これも総費用営業利益率を低下させる要素となる。現に,マナウス税恩典利益を享受している企業の最終製品は,そうでない企業の製品より約3割は安いとされている。

マナウス税恩典利益は事業規模に応じて増加するものであることから,現にa社等も,インフレーションが進む中でも販売価格を据え置くなどして,本件製品の販売量を増加させる事業戦略を採用してきた。

(エ) 控訴人が現実に調査したところによると,マナウスフリーゾーン内に所在する法人であっても,その総費用営業利益率が,マナウスフリーゾーン外の法人のそれを常に下回っている例があることが判明した。

また,マナウスフリーゾーン内に所在する各法人において,法人ごと,事業年度ごとに総費用営業利益率は千差万別であり,規則的な影響はなかった。

さらに,マナウスフリーゾーン内に所在する法人と,そうでない法人との間で,それぞれの総費用営業利益率の中位値の較差もわずかであった。

エ仮に,マナウス税恩典が総費用営業利益率に重要な影響を与えているとしたら,それは,重要な無形資産の寄与によるものであり,基本的利益の算定における検証対象法人と比較対象法人との間の市場の類似性を否定するものではない。

すなわち,マナウス税恩典利益の多寡は,その仕組みから事業の規模と正の相関関係にあるところ,重要な無形資産を有しない法人の製品が,短期的にはともかく,長期にわたって市場からの支持を受けて事業の規模を拡大維持することはできない。重要な無形資産こそが,事業の規模を拡大維持させ,享受するマナウス税恩典利益を増加させ,もって総費用営業利益率の向上に重要な影響を与えるものである。

現に,マナウス税恩典利益を受けて自動二輪車市場で事業を行い,かつ重要な無形資産を有しない企業の1つは,平成17年から販売台数及び販売シェアを急速に伸ばしたものの,平成21年には大幅に販売台数が落ち(ただしこの年は自動二輪車の総生産台数が大幅に減少している。),自動二輪車の総生産台数が増加傾向になった後も同社は販売台数を減らしたという事実がある。

以上のとおり,重要な無形資産の存在が,マナウス税恩典利益の拡大,ひいては総費用営業利益率の向上に重要な影響を与えている以上,マナウス税恩典利益は,残余利益分割法の性質上残余利益として観念すべきであり,その反面,マナウス税恩典利益を基本的利益の算定において考慮して,検証対象法人と比較対象法人との間の市場の類似性を否定することは相当でない。

②当審における予備的主張1及び2上記①のとおり,本件においてマナウス税恩典利益の享受の有無につき差異調整をする必要はない。

しかし,控訴人は,予備的に,以下のとおり総費用営業利益率の差について差異調整をするなどした上での,本件各更正等の一部取消しの主張をする。

ア予備的主張その1
(ア) マナウス税恩典利益の影響を受けている状態のa社等の総費用営業利益率(X)と,そうでない状態の総費用営業利益率(Y)から,マナウス税恩典利益がa社等の総費用営業利益率に与えている影響度(Z)を求める。

Xは,a社等の営業利益(=売上-総費用)を,総費用(=原価+販売管理費)で除した数値である。

Yは,上記の「(営業利益=売上-総費用)/(総費用=原価+販売管理費)」の数式において,売上に関しては,その増加要因としてICMS税額免除及びICMS税減免があり,低減要因として各種拠出金等(FMPE等)があり,また,原価において,その増加要因として物流コスト等があり,低減要因としてICMSみなし仕入税額控除及び輸入税の軽減があるので,これらの影響を排除して計算した数値となる。

Zは,XをYで除した数値とする。このZを,マナウス税恩典利益を受けていない状態である本件のブラジル側基本的利益率に乗じると,マナウス税恩典利益を受けている状態のブラジル側基本的利益率となる。この差異調整後のブラジル側基本的利益率に,a社等の総費用から重要な無形資産の価値の指標となる費用の額を控除した額を掛け合わせると,差異調整後のa社等の基本的利益の額が算出される。

(イ) 以上に基づき計算すると,原判決主文第1項ないし第4項は,前記第1の「予備的その1」のとおり変更されるべきである。

(計算過程は別紙1-1及び同1-2のとおり)
イ予備的主張その2
仮に,被控訴人が原審で主張する,マナウス税恩典利益の全額を,ブラジル側基本的利益の額に加算する方法(なお,これは,残余利益分割法における差異調整として法令の規定に整合しないものである。)を採用したとしても,前記第1の「予備的その2」のとおり,原判決は一部変更されることになる。

(計算過程は別紙2-1及び同2-2のとおり)
ウ被控訴人の反論に対する再反論
控訴人の予備的主張1及び2は,違法な理由の差し替えに該当しない。

課税処分取消訴訟の訴訟物は処分の違法性一般であり,当該課税処分によって確定した税額(租税債務)が,総額において租税実体法によって客観的に定まっている税額を超えていないか否かを審理の対象とするものであって,処分時と異なる理由を控訴人が主張しても,処分の同一性は失われず,青色申告者に対する更正処分に更正の理由の付記を求めた法(法人税法130条2項,所得税法155条2項)の趣旨に反しない理由の差し替えは認められる。

本件でも,残余利益分割法を採用していること,比較対象法人として,同一のブラジル側比較対象企業を用いていることには変わりなく,予備的主張1及び2で控訴人が主張した事実関係は,本件各更正等における事実(ブラジル側比較対象企業の基本的利益の額の算定)と直接関係する,いわば本件各更正等の延長上にある。また,いずれも,「国外関連者から支払を受ける対価の額が独立企業間価格に満たないこと」という同一の課税要件事実に係るものである。さらに,予備的主張1及び2は,差異調整をすべきであるという被控訴人の各主張に対応するものである。

よって,控訴人の予備的主張1及び2は,理由付記を求めた法の趣旨を害さず,適法な理由の差し替えとして許容されるべきものである。

(2) 被控訴人の反論

ア控訴人の上記①の補充主張は,おおむね原審でした主張の繰り返しにすぎず,理由がない。

イ控訴人の予備的主張1及び2は,違法な理由の差し替えに該当するものであって許されない。

残余利益分割法において,検証対象取引と比較対象取引との間に差異がない旨の主張と,差異が存在するが調整することができるとの主張は,異なる課税要件事実に係るものであり,基本的な課税要件事実の同一性があるとはいえない。

被控訴人は青色申告書による申告の承認を受けた法人であり,課税処分の具体的根拠の開示を受けて,不服申立ての便宜が図られるという手続的な権利を保障されているところ,このような理由の差し替えは,上記手続的権利の保障の趣旨を没却するから,許されるべきではない。

ウ予備的主張1に係る差異調整は不適切なものである。すなわち,控訴人の主張する差異調整は,a社等の全体の総費用及び営業利益について,すなわち,重要な無形資産の寄与に係る残余利益に係るものも含めて算定したa社等の総費用営業利益率を算定してなされている。これでは,重要な無形資産を持たないブラジル側比較対象企業の基本的利益についての適切な差異調整たり得ない。

また,控訴人が用いた物流コスト等の費用の証拠(甲133)は,物流コスト等の影響を考慮してもマナウス税恩典利益の影響が大きいことを証明するために保守的に(被控訴人に不利に)算定された内容のものであり,適切な差異調整に用いることができるほど精密なものではない。

予備的主張2についても,被控訴人の原審における主張は,マナウス税恩典利益がブラジル側比較対象企業の比較可能性を否定することの論証のためにしたものにすぎない。また,控訴人は,被控訴人が上記論証で加味した物流コスト等や人件費の較差について適切な差異調整を行っていない。

3    前記2の各主張に対する当裁判所の判断
(1) 上記主張①について

ア残余利益分割法においては,基本三法に比較して,比較対象法人に求められる比較可能性の程度は緩やかであるとしても,また,総費用営業利益率により市場の類似性の判断をしたとしても,マナウス税恩典利益は,本件のブラジル側比較対象企業とa社等との比較可能性に重大な影響を及ぼすものであり,適切な差異調整をすることなくなされた本件各更正等は違法であり取り消されるべきことは,前記引用に係る原判決の説示及び後記当審における説示のとおりである。

イマナウスフリーゾーンで操業することは,物流コスト等の増加をもたらし,また,各種拠出金等を負担することになって,これが総費用営業利益率の低下をもたらすことは,控訴人の主張するとおりである。しかし,以下に述べるとおり,これを考慮しても,マナウス税恩典利益は,a社等の営業利益を大きく増加させることは,原判決が説示するとおりである。

(ア) 各種拠出金等の額は,ICMS税軽減額の6パーセント(中小企業奨励金,FMPE),ICMSみなし仕入税額控除額の1パーセント及び輸入品のFOB価格の2パーセント(観光・地方開発事業基金,FTI)並びにICMSみなし仕入税額控除額の10パーセント(アマゾナス州立大学奨励金,UEA)であり,これらは,マナウス税恩典利益の概ね10パーセント程度にすぎないと概算される。

(イ) 物流コスト等の増加分については,a社等において,多くともマナウス税恩典利益の3分の1未満であると推認することができ(甲133,253),マナウス税恩典の総費用営業利益率に対する重要な影響を否定するとはいえない。

なお,控訴人は,事業規模が大きくなると,物流拠点等のインフラ設備を備えることにより物流コスト等を低減させることができるが,事業規模が小さいとそうではないので,一般的にいって,大都市から離れているマナウスフリーゾーンで操業している企業の物流コスト等は,総費用営業利益率をより低下させる旨主張する。

しかし,物流コスト等が,一般的に物流量に比例することは明らかであって,本件において,事業規模の大きい企業(a社等)とそうでない企業とで,物流コスト等により総費用営業利益率に顕著な差が生じると認めるに足りる証拠はなく,事業規模が小さくとも,その物流コストはマナウス税恩典利益の総費用営業利益率を押し上げる効果を大きく減殺するものではないと推認することができる。また,仮に控訴人が主張するような傾向があるとしても,残余利益分割法においても,比較対象法人の事業規模の類似は重要な選定要素の1つであり,そのことについての差異は(可能であれば)調整が図られるべきであるから,a社等の実情を1つの間接事実として,マナウスフリーゾーンで操業することの物流コスト等の総費用営業利益率における割合は大きくないと認定できるとの前記結論は左右されない。

(ウ) 控訴人は,通常,事業者は販売シェアを拡大維持するために,販売価格の低下という事業戦略を採用し,マナウス税恩典利益はそのために用いられるから,総費用営業利益率の増加をもたらさない旨主張する。

しかし,事業者は利潤を追求しそれをできるだけ増加させようとするものであり,商品が市場で競争力を維持している限り,常に価格を低く設定するという事業戦略を採用するとはいえず,また,マナウス税恩典利益の全てを販売価格の低下に用いると認めるに足りる証拠はない。この点,改訂移転価格ガイドライン(乙70)においても,「ある市場に浸透しようとしている又は市場シェアを伸ばそうとしている納税者は,同一市場の比較可能な製品よりも低い価格を一時的に設定するかもしれない。」としており,低価格戦略は一時的なものであると考えられるとの認識が示されている。なお,マナウス税恩典利益を享受して事業者が生産する最終製品の価格が,そうでない製品より約3割安いとする見解(甲255,乙28)は,平成15年当時のものであり,かつ,対象製品の限定がないものであって,本件製品に当てはまるとは認められない。

a社等が,インフレーションが進む中でも販売価格を維持していたとしても,平成9年以降は,おおむねインフレ率に見合うように販売価格が引き上げられており(乙27),a社等の各事業年度において,マナウス税恩典利益の大部分が販売価格の低下に用いられているとは認められず,反面,総費用営業利益率の向上に寄与しているといえる。

(エ) 控訴人は,マナウス税恩典利益の有無は,一般的に総費用営業利益率に影響を与えない旨主張し,これに沿う証拠であるとして,マナウスフリーゾーン内にある複数の企業の総費用営業利益率に関する証拠として乙第169号証を提出する。

しかし,同証拠で掲げられている企業は,事業分野が多種多様であり,また,その事業規模や財務内容は必ずしも明らかでない。控訴人が自ら主張するとおり,マナウス税恩典利益の額は,部品の輸入割合の多寡や,アマゾナス州以外の州からの部品や原材料の購入額の多寡といったような事業形態等により大きく異なるものであるから,本件でも,被控訴人と事業規模や事業形態が類似する企業の平均値をもって論ずるべきであって,そうでない資料(乙169)に基づく分析結果をもって,本件におけるマナウス税恩典利益が,総費用営業利益率に重要な影響を与えるものではないと認めることはできない。

ウ控訴人は,マナウス税恩典利益が総費用営業利益率に重要な影響を与えているとしても,それは,重要な無形資産の寄与によるものであるから,残余利益として観念すべきであり,基本的利益の算定における検証対象法人と比較対象法人との間の比較可能性(市場の類似性)を否定するものではない旨主張する。

確かに,マナウス税恩典の仕組み上,事業規模が大きくなれば,マナウス税恩典利益の額が増加するという相関関係が一般的に認められるのであり,また,販売量の拡大維持は,単に低価格であるだけでは達成できず,製品の品質や,知名度(市場における高い評価)等に大きく影響されることがあると認められるから(乙171参照),マナウス税恩典利益の中には,販売量の維持拡大に寄与する重要な無形資産の寄与が含まれている場合があるということができる。しかし,他方で,事業規模の維持拡大には,それに必要な人的物的資本の投下や,事業の拡大をするという経営判断が必須であり,それら自体は重要な無形資産とはいい難い。そうすると,マナウス税恩典利益には,重要な無形資産の寄与による残余利益ではない部分,すなわち基本的利益が多く含まれていることもまた明らかである。

そうすると,仮に,マナウス税恩典利益のうち,重要な無形資産が寄与している部分が存在し得るとしても,それを直接把握することは困難ないし事実上不可能であり,そもそも,基本的利益に係る部分は,基本的利益の配分について考慮すべきであるから,本件でも,残余利益分割法にしたがって,マナウス税恩典利益を含む分割対象利益から,重要な無形資産を有しないブラジル側比較対象企業を選定し算定したブラジル側基本的利益と,日本側基本的利益を各控除し,残余利益を分割して独立企業間価格を算定すべきである。また,このようにすれば,比較可能性のあるブラジル側比較対象企業を選定し,適切な差異調整を行うことによって,マナウス税恩典利益に対する被控訴人及びa社等の重要な無形資産の寄与が大きい場合には,重要な無形資産を有さないブラジル側比較対象企業の営業利益は低く算定されることになり,a社等の基本的利益の額も少なく算定され,その分残余利益の額が増加して,マナウス税恩典利益のうち重要な無形資産の寄与に係る部分は,残余利益として被控訴人及びa社等に適切に分割され得るのであって,正に残余利益分割法の趣旨に沿う結果がもたらされることになるとも考えられる(しかしながら,本件で,適切な差異調整が行われたとはいえないことは,前記のとおりである。)。逆に,マナウス税恩典利益を残余利益と観念して,比較対象法人の選定において考慮しないことは,マナウス税恩典利益に含まれる基本的利益に係る部分の配分を誤ることになり,相当でない。

エ以上のとおりであるから,控訴人の上記主張①は理由がなく,採用することができない。

(2) 上記主張②について

ア控訴人の各予備的主張の適法性について(適法な理由の差し替えに該当するか。)控訴人は,当初は,本件各更正等において,ブラジル側比較対象企業がマナウス税恩典利益を享受していないことについて,差異調整を行う必要はないと主張していたものである。

これに対し,当審における控訴人の予備的主張1は,この差異調整を行うというものである。しかし,「本件国外関連取引の対価が独立企業間価格に満たないこと」という同一の課税要件事実に属し,ブラジル側比較対象企業の基本的利益の算定に直接関連するものであるとしても,マナウス税恩典が差異調整を要しないものであるとする場合と,差異調整を行うとする場合とでは,主張立証の対象となる事実が相当程度異なることになるのであるから,納税者としては,新たな攻撃防御を尽くすことを強いられ,かつ,その負担は軽くないというべきである。

また,予備的主張2についても,被控訴人に物流コスト等や人件費較差について新たな攻撃防御を強いることになる。

したがって,理由付記を求めている法の趣旨に照らすと,予備的主張1及び2は,いずれも違法な理由の差し替えに該当し許されないと解すべきである。

なお,仮に,控訴人の予備的主張1及び2が適法な理由の差し替えとして許容されるとしても,いずれも理由がないものであることは下記イ及びウのとおりである。

イ予備的主張1について控訴人の主張する予備的主張1は,a社等における残余利益及びそれに係る費用も含めた総費用営業利益率をもって,マナウス税恩典利益の享受の影響度を算定し,それをもってマナウス税恩典利益を享受する場合のブラジル側基本的利益率を差異調整して,a社等の基本的利益を算定するというものである。

しかし,この差異調整には,次のような問題がある。(ア)残余利益分割法によると,重要な無形資産を有しないブラジル側比較対象企業の基本的利益から,a社等の基本的利益を算定すべきである。

しかし,控訴人の予備的主張1では,残余利益も含めたa社等の総費用及び営業利益を一括して総費用営業利益率を算定し,それを,マナウス税恩典利益がない場合の総費用営業利益率で除した数値で差異調整を行っていて,それによると,基本的利益の算定に含まれるべきでない残余利益及びその発生に係る費用が計算式に混入していることになり,基本的利益の差異調整として許容される範囲の較差になっているとの保証がない。

(イ) また,a社等におけるマナウス税恩典利益の享受の影響度を,ブラジル側比較対象企業にそのまま当てはめることができるとの前提に問題がある。控訴人が主張するとおり,マナウス税恩典利益の多寡は,部品の輸入割合の多寡や,アマゾナス州以外の州からの部品や原材料の購入額の多寡といったような事業形態等により大きく異なるものであるから,a社等における影響度が,そのまま本件のブラジル側比較対象企業に当てはまると認めるに足りる証拠はない。

以上からは,控訴人が予備的主張1において採用している差異調整は適切なものとはいえず,採用できない。

ウ予備的主張2について予備的主張2について,控訴人は,原審における被控訴人の主張(差異調整)に沿う形で差異調整を行った場合でも,本件各更正等は一部取り消されるにとどまる旨主張するものである。

しかし,控訴人が指摘する原審での被控訴人の主張は,マナウス税恩典利益の有無が,基本的利益の多寡に大きく影響する市場条件であり,それがないブラジル側比較対象企業には比較可能性がないか,少なくとも適切な差異調整が必要である旨指摘するために,試みとして差異調整を行ったものにすぎず,その内容は必ずしも正確なものではない。

また,a社等の部品の内製率は低くなく,その調達においては物流コストは高くないとうかがわれるし,また,ブラジル北部の自動二輪車の需要は低くなく,そこに出荷する場合は,ブラジル南東部の企業より物流コスト上はかえって有利であるから,物流コスト等の影響について,それらを踏まえて差異調整を要する可能性がある。さらに,大都市が多いブラジル南東部に比べて,マナウスでは,人件費が低い可能性がある。それらについての差異調整の必要性がないとは断定できない。そして,これらの差異調整をする場合の方法及び内容については,必ずしも明らかではない。

以上のとおりであるから,控訴人の予備的主張2において採用している差異調整は適切なものとはいえず,採用できない。

4    そのほか,控訴人が縷々主張するところは,上記原判決の結論及び当審の判断を左右するものではない。

第4    以上によれば,原判決の判断は正当として是認することができる。よって,
本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第12民事部
裁判長裁判官   杉原則彦
裁判官   高瀬順久
裁判官   朝倉佳秀


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