法人税更正処分取消等請求控訴事件 - 東京高判平成25年03月14日(国税判例)

東京高等裁判所(東京都)

事件番号:平成24(行コ)424

目次

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平成25年3月14日判決言渡
平成24年\(行コ\)424号法人税更正処分取消等請求控訴事件

主文

1   本件控訴を棄却する。

2   控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1   控訴の趣旨

1    原判決を取り消す。

2    川崎北税務署長が控訴人に対して平成22年6月29日付けでした控訴人の平
成20年10月1日から平成21年9月30日までの事業年度の法人税の更正のうち欠損金額2360万8639円,欠損金の繰戻しによる還付金額473万8116円をそれぞれ下回る部分及び過少申告加算税の賦課決定をいずれも取り消す。

第2   事案の概要

1    本件は,控訴人において平成20年10月1日から平成21年9月30日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)中に代表取締役及び取締役に支給した冬期賞与が法人税法34条1項2号の事前確定届出給与に該当するとして,本件事業年度における所得の金額の計算上,これを損金の額に算入して行った法人税の確定申告について,上記賞与は損金の額に算入されないとして,川崎北税務署長から法人税の更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税の賦課決定(以下「本件賦課決定」といい,本件更正と併せて「本件更正等」という。)を受けたことについて,上記税務署長において事前確定届出給与該当性の判断を誤った違法があるとして,被控訴人に対し,本件更正のうち上記確定申告中の欠損金額を下回る部分及び本件賦課決定の各取消しを求めた事案である。

原判決は,本件更正等はいずれも適法であるとして,控訴人の請求を棄却したところ,控訴人は,これを不服として控訴をした。


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    2     関係法令の定め等,前提事実,課税処分の根拠,争点及び当事者の主張は,次項のとおり当審における控訴人の主張を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」の1ないし5(2頁20行目から16頁20行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。

    3     当審における控訴人の主張の要旨
    (1)   役員給与の額を無制限に損金に算入することを許せば,その支給額をほしいままに決定して利益調整を図ることによって租税回避の弊害を生じ,課税の公平を害することを防止することを目的とする法人税法34条1項の趣旨からすれば,利益調整の意図をもってする租税回避の場合を除き,減額支給された事前確定届出給与の損金算入が許されるべきである。

    (2)   平成21年当時,事前確定届出給与に関する変更届出の理由となる業績悪化改定事由(法人税法施行令69条1項1号ロ)の範囲は明確でなく,また,変更届出期限を遵守することができなかった場合においてもその後の変更届出をもって変更届出期限内に届出があったものとされる「やむを得ない事情」(同条5項)の判断が極めて困難であったため,控訴人は,本件夏季給与の減額支給に先立ち,法人税法施行令69条3項2号所定の変更届出期限までに変更届出をし得なかったものであって,期限までに変更届出をしなかったことについて控訴人に落ち度はないから,本件夏季給与の減額支給を理由に本件冬期給与の損金算入を許さないのは不当である。

    (3)   事前の定めに係る確定額を高額に設定し,いわば枠取りをした上で減額支給することによって損金の額を操作する租税回避行為は,ほとんどの場合,株主と役員とがほぼ同一のいわゆる同族会社により行われるものであるから,法人税法132条(同族会社等の行為又は計算の否認)によって否認すれば足り,減額支給された事前確定届出給与の損金算入を許すことによる実害はない。

    第3    当裁判所の判断


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      1     当裁判所も,本件更正等はいずれも適法であり,控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は,次項のとおり当審における控訴人の主張に対する判断を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3当裁判所の判断」(16頁21行目から36頁13行目まで)の理由説示のとおりであるから,これを引用する。

      2     当審における控訴人の主張に対する判断
      (1)   引用に係る原判決の理由説示(16頁23行目から18頁6行目まで)のとおり,法人税法34条1項2号は,事前に支給時期及び支給額が株主総会等において確定的に定められ,その届出がされた給与については,給与の支給額をほしいままに決定し,法人税の課税を回避する弊害がないため,これを損金に算入することを認めたものである。もとより,企業活動の結果,事前に確定した額の給与を支給することを相当としない事態も生じ得るが,そのような場合について,何らの手続を要しないまま損金算入を許せば,事前確定届出給与制度を設けた趣旨を没却することになるから,法人税法施行令69条3項は,一定の事由(臨時改定事由及び業績悪化改定事由)に該当する場合,変更届出をすることによって,支給額を変更した上で損金算入することを認め,さらに,変更届出期限を遵守することができなかったことについてやむを得ない事情があれば,本来の変更届出期限までにその届出があったものとして扱うことを認めている(同条5項)。このような法人税法及び同法施行令の規定によれば,所定の手続を経ることなく減額支給された事前確定届出給与を損金算入することはできないと解すべきである。控訴人主張のように損金算入の可否を利益調整の意図や法人税の課税回避の目的の有無といった主観的な要素により判断することとなれば,法的安定性を害し,課税の公平を害することにもなるので,採用できない議論である。

      (2)   また,証拠(甲15,乙8,9)及び弁論の全趣旨によれば,本件当時,業績悪化改定事由(経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由)とは,経営状況が著しく悪化したことなどやむを得ず役員給与を減額せざるを得ない事情があることをいい(法人税法基本通達9-2-13),財務諸表の数値が相当程度悪化したことや倒産の危機に瀕したことだけではなく,経営状況の悪化に伴い,第三者である利害関係者(株主,債権者,取引先等)との関係上,役員給与の額を減額せざるを得ない事情が生じていれば,業績悪化改定事由に該当するとの国税庁の取扱いに関する解説が示されており,その例として,①株主との関係上,業績や財務状況の悪化についての役員としての経営上の責任から役員給与の額を減額せざるを得ない場合,②取引銀行との間で行われる借入金返済のリスケジュールの協議において,役員給与の額を減額せざるを得ない場合,③業績や財務状況又は資金繰りが悪化したため,取引先等の利害関係者からの信用を維持・確保する必要から,経営状況の改善を図るための計画が策定され,これに役員給与の減額が盛り込まれた場合が列挙され,さらに,これ以外の場合であっても,経営状況の悪化に伴い,第三者である利害関係者との関係上,役員給与の額を減額せざるを得ない状況があるときには,減額改定をしたことにより支給する役員給与は事前確定届出給与に該当すること,上記の例示に該当しない場合においては,損金算入のため,役員給与の額を減額せざるを得ない客観的な事情を処分行政庁に具体的に説明できるようにしておく必要がある旨明示されていたことが認められるのであるから,控訴人の主張は,その前提を欠くというべきである。


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        もっとも,証拠(乙9)によれば,平成24年4月以降,上記国税庁による解説には,業績悪化改定事由一例として「現状では数値的指標が悪化しているとまではいえないものの,役員給与の減額などの経営改善策を講じなければ,客観的な状況から今後著しく悪化することが不可避と認められる場合」が付加されたことが認められるけれども,それ以前の解説によっても,本件で問題となる業績悪化改定事由の範囲は明確であり,上記改定の前後でこの点に関する判断が異なるものではない。


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          さらに,変更届出期限を遵守できなかった場合の例外措置に関する「やむを得ない事情」とは,控訴人側の個別的なあらゆる事情がこれに含まれるものではなく,納税者の何びとにおいても期限内に変更届出をすることができない場合,すなわち天変地異その他客観的にみて期限を遵守し得なかったことをその責に帰すことができない事情をいうことは明らかであるから,この点に関する控訴人の主張は理由がない。

          (3)   なお,控訴人が主張するように事前の定めに係る確定額を高額に設定して損金の額を操作する租税回避行為のほとんどがいわゆる同族会社によるものであるかどうかは不明というほかないが,そもそも法人税法132条1項は,同法34条とは全く別個の事柄を規定しているのであって,本件のような場合における損金算入の可否とは関係しないので,控訴人の主張はその前提において失当である。

          3     以上によれば,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないので,これを棄却することし,主文のとおり判決する。

          東京高等裁判所第21民事部
          裁判長裁判官齋 藤
          裁判官栗 原洋三


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            裁判官一 木文智


              裁判所名

              裁判年

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