法人税更正処分取消等請求控訴事件 - 東京高判平成25年03月28日

東京高等裁判所(東京都)

事件番号:平成24(行コ)229

目次

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平成25年3月28日判決言渡
平成24年\(行コ\)229号法人税更正処分取消等請求控訴事件

主文

1     本件控訴を棄却する。

2     控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1 控訴の趣旨

1   原判決を取り消す。

2   芝税務署長が,控訴人に対し,平成17年11月28日付けでした次の各更
正処分及び賦課決定処分をいずれも取り消す。

(1)   控訴人の平成11年1月1日から平成11年12月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち所得金額5億7843万8966円,納付すべき法人税額1億9879万9300円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分
(2)   控訴人の平成12年1月1日から平成12年12月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち所得金額マイナス24億6310万0861円を超える部分及び翌期へ繰り越す欠損金24億6310万0861円を下回る部分
(3)   控訴人の平成13年1月1日から平成13年12月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち所得金額マイナス35億8186万6130円を超える部分及び翌期へ繰り越す欠損金60億4496万6991円を下回る部分
(4)   控訴人の平成14年1月1日から平成14年12月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち翌期へ繰り越す欠損金44億1446万6869円を下回る部分
(5)   控訴人の平成15年1月1日から平成15年12月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち所得金額0円を超える部分,納付すべき税額マイナス1802円を超える部分及び翌期へ繰り越す欠損金32億9998万3912円を下回る部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分


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    (6)   控訴人の平成16年1月1日から平成16年12月31日までの事業年度の法人税の更正処分のうち所得金額0円を超える部分,納付すべき税額マイナス1260円を超える部分及び翌期へ繰り越す欠損金28億1599万1546円を下回る部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分
    第2 事案の概要(用語の略称及び略称の意味は,原判決に従う。)

    1   本件は,控訴人と租税特別措置法66条の4に規定する控訴人の国外関連者に該当するAとの間のエクアドル産バナナの輸入取引(本件国外関連取引)において,控訴人がAに支払った対価の額が同条にいう独立企業間価格を超えているとして,芝税務署長が平成11年12月期ないし平成13年12月期について,独立企業間価格と上記支払った対価の額との差額を控訴人からAに対する所得移転額であると認定し,平成11年12月期ないし平成16年12月期の法人税について,それぞれ更正処分を行うとともに,平成11年12月期,平成15年12月期及び平成16年12月期の過少申告加算税に係る各賦課決定処分(本件各賦課決定処分)をしたことに対し,控訴人が,上記各処分について,①寄与度利益分割法を用いて独立企業間価格を算定したこと,②寄与度利益分割法を用いるに当たり日本市場の特殊要因により生じた控訴人の営業損失を分割対象利益から控除しなかったこと,③控訴人とAが支出した販売費及び一般管理費(販管費)の額の割合により分割対象利益を分割したこと及び④理由付記に不備があることを理由にして,違法な行政処分であると主張し,上記各更正処分のうち確定申告に係る所得金額,納付すべき法人税額を超える部分及び翌期へ繰り越す欠損金額を下回る部分(本件各更正処分)の取消し並びに本件各賦課決定処分の取消しを求めた事案である。

    原判決は,控訴人の本訴請求をいずれも棄却したので,控訴人がこれを不服として控訴した。


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      2   関係法令等の定め,争いのない事実等,争点及び争点に関する当事者の主張は,以下のとおり改め,後記3のとおり付加するほかは,原判決「事実及び理由」中の第2の1ないし4に記載のとおり(なお,「原告」は「控訴人」と,「被告」は「被控訴人」と,「別紙」は「原判決別紙」と,「別表」は「原判決別表」とそれぞれ読み替える。以下引用部分について同じ。)であるから,これらを引用する。

      3   当審における控訴人の主張
      (1)   寄与度利益分割法の適用のためには,分割要因と分割対象損益との間に関連性が存在しなければならない。OECD移転価格ガイドラインは,利益分割法上の分割要因に該当するためには,分割対象損益と分割要因との間に強い相関関係が存在しなければならないと述べている。

      ところが,控訴人及びAの販管費と本件分割対象損益との間に関連性は認められない。

      (2)   平成12年12月期及び平成13年12月期の控訴人の営業利益が大幅に減少し,多額の分割対象損失が生じた理由は,控訴人の輸入したエクアドル産バナナの需要急減に伴う浜値の大幅な急落等にあり,販管費との関連性は全く存在しない。

      (3) 「販管費は,一般的に,企業の営業利益の獲得に寄与する性質を有するものとして認められている」という販管費と営業利益についての一般論から,販管費に基づき営業損失を分割することが合理的であるという結論を導き出すことはできない。OECD報告書も,利益分割と損失分割とでは異なった配慮が必要であるとしている。

      (4)   独立企業間価格を正確に算定するためには,個別事案ごとに事業の実態を正確に把握した上で,寄与を最も的確に反映することのできる分割要因を選定し,寄与を最も的確に反映することのできる手法を厳密かつ厳格に適用しなければならないところ,本件各更正処分及び本件各賦課決定処分(本件各処分)に際しては,これが行われていない。


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        (5)   以上によれば,「販管費は,一般的に,企業の営業利益の獲得に寄与する性質を有するものとして認められている」との一般論から,本件の控訴人について,販管費を「所得の発生に対する寄与を推測するに足りる要因」であると認定し,これを前提にして,寄与度利益分割法の適用を認め,本件各処分を適法とした原判決の判断には誤りがある。

        (6)   販管費が,控訴人の「所得の発生に対する寄与を推測するに足りる要因」であることは,課税根拠事実として,被控訴人に主張立証責任があるところ,被控訴人は,この点について何ら具体的な主張立証をしていない。それにもかかわらず,原判決は,上記一般論から,販管費が「所得の発生に対する寄与を推測するに足りる要因」であるとの認定をしているのであって,課税処分取消訴訟における主張立証責任に関する解釈を誤ったものというべきである。

        (7)   利益分割法の適用が適法とされるために,基本三法を適用することができないことの主張立証がされなければならない。

        控訴人は,本件国外関連取引において「日本の市況変動リスク」を負担していたから,これを考慮に入れるのでなければ,適切な独立企業間価格を算定することは困難である。寄与度利益分割法の枠内で,上記「日本の市況変動リスク」を考慮するのは困難であるのに対し,再販売価格基準法であればこれが可能となるから,本件では,再販売価格基準法が適用されるべきであった。処分行政庁は,再販売価格基準法を適用することができない理由について,本件国外関連取引については,エクアドル政府規制が「通常の利益率」に影響を及ぼすものであるから,再販売価格基準法を適用するに当たって調整の必要があるところ,上記規制の有無という差異により生じる通常の利益率の差を調整することができないからであるとする。しかし,比較対象取引との差異は,通常の利益率に影響を及ぼすことが客観的に明らかな場合,又は重大な影響を及ぼすことが客観的に明白な場合に初めて,差異調整が求められるのであり,そうでない限り,差異があるというだけで,比較可能性が否定されるわけではない。本件では,上記規制の有無による差異が,輸入業者の通常の利益率の算定に客観的に明らかな又は重大な影響を与えたとは認められないから,差異を理由に,再販売価格基準法の適用を否定することはできない。したがって,本件では,再販売価格基準法を適用することができないことの主張立証が尽くされていないから本件各処分の適法性の証明はなく,本件各処分は違法なものとして取り消されるべきである。


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          第3 当裁判所の判断

          1    当裁判所も,控訴人の本訴請求をいずれも棄却すべきものと判断する。その理由は,後記2のとおり付加するほかは,原判決「事実及び理由」中の第3の1ないし4に記載のとおりであるから,これらを引用する。

          2    当審における控訴人の主張に対する判断
          (1)   控訴人は,寄与度利益分割法の適用のためには,分割要因と分割対象損益との間に関連性が存在しなければならないと主張する。

          しかし,措置法施行令39条の12第8項は,分割要因について,法人又は国外関連者が「当該所得の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因」と規定しており,「当該所得の発生に寄与した要因」とは規定していないことからすれば,同条項の解釈としては,分割要因と分割対象損益との間に,他方の増減がもう一方の増減に影響するといった関連性の存在は要求されていないものというべきである。控訴人は,OECD移転価格ガイドラインを根拠に,上記関連性の必要性を主張するが,同ガイドラインが直ちに,我が国における課税処分である本件各処分の違法性の根拠となり得るものではない。他に,上記控訴人の主張の裏付けとなる法令上の根拠は存在しないから,これを採用することはできない。


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            (2)   控訴人は,「平成12年12月期及び平成13年12月期の控訴人の営業利益が大幅に減少し,多額の本件分割対象損失が生じた理由は,控訴人の輸入したエクアドル産バナナの需要急減に伴う浜値の大幅な急落等にあり,販管費との関連性は全く存在しない。」,「「販管費は,一般的に,企業の営業利益の獲得に寄与する性質を有するものとして認められている」という販管費と営業利益についての一般論から,販管費に基づき営業損失を分割することが合理的であるという結論を導き出すことはできない。」などと主張し,その根拠を種々述べている。

            しかし,これらの主張は,いずれも分割要因(販管費)と分割対象損益(営業利益)との間に関連性を要するとの前記控訴人の主張を前提とするものであるから,いずれにしろ,その前提を欠くものであり,失当である。控訴人は,OECD報告書を根拠に,利益分割と損失分割では異なった配慮が必要であると主張するが,同報告書が直ちに,我が国における課税処分である本件各処分の違法性の根拠となり得るものではない。

            (3)   控訴人は,「独立企業間価格を正確に算定するためには,個別事案ごとに事業の実態を正確に把握した上で,寄与を最も的確に反映することのできる分割要因を選定し,寄与を最も的確に反映することのできる手法を厳密かつ厳格に適用しなければならないのに,本件各処分はこれをしていない。」と主張する。

            しかし,本件各処分は,本件国外関連取引における控訴人及びA両社の業務内容,費用支出の実態等を把握した上で,両社の果たした役割,機能等を検討し,措置法施行令39条の12第8項にいう「当該所得の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因」及び措置法通達66の4(4)-2にいう「分割対象利益の発生に寄与した程度を推測するにふさわしいもの」が,控訴人及びAが支出した販管費であるとしたものである。以上によれば,本件各処分は,本件国外関連取引という個別事案の実態を正確に把握し,寄与を最も的確に反映することのできる分割要因を選定し,これに基づいて処分を行ったものと認められ,何ら違法な点はないということができる。


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              (4)   控訴人は,「販管費が控訴人の「所得の発生に対する寄与を推測するに足りる要因」であることは,課税根拠事実として被控訴人に主張立証責任があるのに,被控訴人は,この点の主張立証をしていない。それにもかかわらず,原判決は,一般論から,販管費が「所得の発生に対する寄与を推測するに足りる要因」であるとの認定をしている。」などと主張する。

              しかし,被控訴人は「販管費が本件国外関連取引の分割要因であること」を主張立証しており,原判決は,上記被控訴人の主張立証に基づき「販管費が本件国外関連取引の分割要因であること」を認定していることは,原判決及び当審において既に説示したとおりである。

              (5)   控訴人は,本件については,基本三法の1つである再販売価格基準法を適用することができないことの主張立証がないから,寄与度利益分割法を適用した本件各処分の適法性は証明されていない旨を主張する(なお,控訴人は,当初控訴理由書において「争点3に関する主張のみを行う。」としていたものであり,争点1に関する上記主張は,当審の最終段階で出てきたものである。)。

              しかし,本件について,基本三法を適用することができない事情があり,寄与度利益分割法を適用したことが相当であって,この点に関して何ら違法はないことは,原判決「事実及び理由」中の第3の1(争点1についての判断)において適切に説示するとおりである。

              第4 結論
              よって,控訴人の本訴請求をいずれも棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。

              東京高等裁判所第4民事部


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                裁判長裁判官小 池裕
                裁判官大 久保正道
                裁判官西 森政一


                  裁判所名

                  裁判年

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