平成25年3月14日判決言渡
平成24年\(行コ\)19号法人税更正処分取消請求控訴事件
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 山形税務署長(麹町税務署長がその権限を承継。以下同じ。)が控訴人に対
して平成17年3月25日付けでした控訴人の平成11年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税に係る更正処分のうち所得金額2185万7620円及び納付すべき税額751万2700円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。
3 山形税務署長が控訴人に対して平成17年3月25日付けでした控訴人の平
成12年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税に係る更正処分のうち所得金額5697万5655円及び納付すべき税額1636万4500円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。
4 山形税務署長が控訴人に対して平成17年3月25日付けでした控訴人の平
成13年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税に係る更正処分のうち所得金額2388万5592円及び納付すべき税額646万6900円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。
5 山形税務署長が控訴人に対して平成17年3月25日付けでした控訴人の平
成14年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税に係る更正処分のうち所得金額マイナス(欠損金額)106万7445円及び納付すべき税額マイナス(還付金に相当する税額)6万5320円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。
6 山形税務署長が控訴人に対して平成17年3月25日付けでした控訴人の平
成15年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税に係る更正処分のうち所得金額マイナス(欠損金額)2619万5391円及び納付すべき税額マイナス(還付金に相当する税額)3万6187円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。
第2 事案の概要
1(1) 控訴人は,租特法66条の4(原判決3頁5行目,60頁2行目以下参照)第1項所定の国外関連者(原判決60頁4行目参照)に該当する香港法人のA社(原判決2頁26行目参照)との間で,平成11年12月28日以降,パチスロメーカー向けの本件モーター(原判決2頁末行参照)を購入する本件取引(原判決3頁初行参照)を行い,さらに,本件モーターをコインホッパーメーカー等(控訴人の関連会社を含む。)に販売していた。
(2) 山形税務署長は,控訴人が,本件取引に関し,租特法66条の4第1項所定の独立企業間価格を算定するために必要と認められる帳簿書類等を遅滞なく提示又は提出しなかったとして,同種の事業を営む事業規模等が類似した法人の利益率を基礎とする同条7項に基づき算定した価格を本件取引の独立企業間価格と推定して,平成11年12月期(原判決3頁9行目参照)ないし平成15年12月期の本件各事業年度(原判決3頁12行目参照)の控訴人の法人税について本件各更正処分(原判決3頁12行目参照)及び本件各賦課決定処分(原判決3頁13行目参照。以下,本件各更正処分と一括して「本件各更正処分等」という。)をした。
2 本件は,控訴人が,①控訴人は独立企業間価格を算定するために必要な帳簿書類等を遅滞なく提示又は提出したから,本件は租特法66条の4第7項所定の推定課税の要件を満たしていない(争点(1)。原判決14頁2行目,81頁4行目以下参照),②山形税務署長が推定した独立企業間価格は適法なものではなかったから,租特法66条の4第7項所定の算定方法の要件を満たさない(争点(2)。原判決14頁5行目,97頁16行目以下参照),③控訴人が提示したB(原判決5頁6行目参照)とC社(原判決5頁10行目参照)との取引は独立企業間価格に基づくものであり,また,控訴人がその算定のために必要な書類を提出している以上,控訴人は,独立企業間価格を算定するために必要な帳簿書類等を遅滞なく提示又は提出したことになる(争点(3)。原判決14頁7行目,117頁14行目以下参照),④本件各更正処分等の前提となる税務調査の手続において重大な違法があったから,この調査結果に基づく本件各更正処分等も違法である(争点(4)。原判決14頁9行目,121頁17行目以下参照)などと主張して,被控訴人に対して,山形税務署長による本件各更正処分等の取消しを求める事案である。
3 原審は,①争点(1)及び(3)について,独立企業間価格を算定するために必要な帳簿書類等を控訴人は遅滞なく提示又は提出していないから,本件は租特法66条の4第7項所定の推定課税の要件を充足しており,また,控訴人の提示に係るBとC社との比較対象取引の取引価格を用いて適正な独立企業間価格を算定することはできず,本件取引における独立企業間価格の算定のために必要な書類を控訴人が提出したとはいえないから,本件取引について推定課税をする要件は満たされている(原判決28頁17行目以下),②争点(2)について,本件取引に係る独立企業間価格についての山形税務署長の推定は,租特法66条の4第7項所定の算定方法の要件を満たす適法なものである(原判決38頁4行目以下),③争点(4)について,本件各更正処分等の前提となる税務調査の手続に処分の取消事由となるほどの手続上の違法は認められず,本件各更正処分等はいずれも適法である(原判決55頁初行以下)などと判断して,控訴人の本訴請求をすべて棄却したので,控訴人が,これを不服として控訴した。
4 本件における「関係法令の定め」については,原判決の「事実及び理由」中の第2の2(3頁18行目以下及び60頁以下の別紙2)に,「前提事実」については,原判決の「事実及び理由」中の第2の3(3頁25行目以下及び65頁以下の別紙3ないし7)に,「被控訴人が主張する本件各更正処分等の根拠」については,原判決の「事実及び理由」中の第2の4(12頁23行目以下及び70頁以下の別紙8,9)に,「争点」については,原判決の「事実及び理由」中の第2の5(14頁初行以下)にそれぞれ記載するとおりであるから,いずれもこれらを引用する。
また,本件における「争点に関する当事者の主張の要旨」については,次項において,争点(2)に関する当審における控訴人の補充主張の要旨を付加する(その多くは原判決別紙10の97頁16行目以下の控訴人の主張と重複するものであるが,当審における控訴人の主張を踏まえて摘示するものである。)ほかは,原判決の「事実及び理由」中の第2の6(14頁10行目以下及び79頁以下の別紙10)に記載するとおりであるから,これを引用する。
5 当審における控訴人の補充主張の要旨
(1) 推定課税は,移転価格税制の適正公平な執行のための制度であるから,その実施に当たっては,移転価格税制の中核となる独立企業原則,つまり,国外関連取引と同様な取引が比較可能な状況下において独立企業間で行われたとした場合に成立した取引価格によって独立企業間価格を算定するという原則に抵触しない解釈ないし運用が求められるところ,関連者間取引を行う法人を比較対照して独立企業間価格を算定するのは,この独立企業原則の本質に反することになり,推定課税制度の趣旨にも反するものである。本件において,A社と同種事業類似法人(原判決83頁25行目参照)に当たるとして山形税務署長が選定した本件類似3法人(原判決87頁13行目参照)であるa社,b社及びc社(原判決87頁14行目参照)は,いずれも主として関連者間取引を行っている法人であり,本件各更正処分等の推定課税は,比較対象としての適格性を有しない法人を用いた独立企業原則に反するものであるから,本件各更正処分等も違法である(原判決97頁17行目以下参照)。
(2) 被控訴人は,比較対象する本件類似3法人(いわゆるシークレットコンパラブル)についての主張事実に関する客観的な証拠を一切提出しておらず,また,控訴人にも全く開示していない(原判決102頁9行目以下参照)。
そして,本件類似3法人についてのモーター以外の事業の具体的な内容(事業内容,売上高の構成比,粗利益率等)が明らかにされておらず,被控訴人は,ごく概括的な情報を記載した調査報告書を提出しただけであり,また,風営法(原判決95頁24行目参照)の規制による影響についても,調査担当者の陳述書を提出しているだけである。そもそも被控訴人は,調査担当者の陳述書ないし調査報告書を開示したに過ぎないのであり,控訴人には防禦の機会が十分に与えられてはいない。
すなわち,控訴人は,比較対象とされた本件類似3法人の事業内容や財務状況について客観的な証拠に基づく情報を入手できないため,事業の同種性及び事業内容の類似性に関する十分な検討や反論を行うことができないのである。これは,適正手続(憲法31条)の観点からも極めて重大な問題があるというべきであり,納税者が自己の立場を擁護し,司法による的確なコントロールのための十分な機会も与えられていないから,本件の推定課税は違法であり,また,少なくとも事業の同種性及び事業内容の類似性は立証されていないというべきである。
(3)ア 租特法66条の4第7項の推定課税において選定する同種事業類似法人に関する同項所定の要件は,「事業の同種性」及び「事業内容の類似性」だけである。しかしながら,推定課税の制度は,移転価格税制の下に位置付けられており,推定課税規定が準用している再販売価格基準法及び原価基準法も,売上高総利益率(粗利益率)を比較するのであるから,「粗利益率レベルでかなりの差を生ずると見込まれるような相違がないこと」ないし「粗利益率レベルで近似する見込みがあること」もその要件になると解するのが相当である。
イこの観点からは,A社と本件類似3法人との事業規模が著しく相違していることを重視する必要がある。A社の移転価格調整後の各事業年度の売上高は2000万円から2億円程度(更正前の金額を基準としても3000万円から5億円)であるのに対して,a社の売上高は50億円を超えて60億円以下であったから,そこには200倍ないし300倍の相違がある。また,c社の売上高は10億円を超えて20億円以下であるから,A社の売上高(7000万円(平成14年度),1億2000万円(平成15年度))とも大きな相違がある。このように,A社と本件類似3法人との事業規模には極めて大きな差異があり,租特法66条の4第7項1号所定の「事業規模その他の事業の内容が類似するもの」との要件を充足しないというべきである。
ウ被控訴人が提出した調査報告書(乙121。以下「本件調査報告書」という。)では,「電気機械器具卸売業の全1172法人」,「販売管理費比率が17.55%以下の法人」,「販売管理費比率が14.15%以下の法人」及び「販売管理費比率が2.50ないし5.50%の法人」に分類して,売上規模と粗利益率の関係を分析しているところ,販売管理費比率が粗利益率に重大な影響を及ぼすことが明らかになっており,売上規模が同一であっても,販売管理比率の高いものほど粗利益率も大きくなっている。
本件類似3法人の販売管理費比率の平均は,上記の「販売管理費比率が2.50ないし5.50%の法人」に属している(平均粗利益率5.37%)ところ,A社の平成13年から平成15年までの販売管理費比率は平均26%であるから,本件調査報告書に基づく両者の粗利益率には大きな差異がある。仮に,A社の取締役であるD(原判決9頁22行目参照)に対する報酬部分を控除したとしても,同社は,平成13年10月期及び平成15年10月期には「販売管理費比率が14.15%以下の法人」に,平成14年10月期には「電気機械器具卸売業の全1172社の法人」に属することになるから,いずれにしても粗利益率が大きく異なっていることは明らかである。
また,A社は,本件類似3法人と異なり,納期管理,品質管理,発注,実質的な在庫管理に加えて,仕入先選定,得意先開拓,条件交渉,営業活動,製品選定などの事業活動も主体的に行っていたところ,このような機能面における相違は販売管理費比率に反映しているのであるから,この意味でも,A社と本件類似3法人との事業内容における類似性を認めることはできない。
(4) A社と本件類似3法人との事業内容には,次のような粗利益率の相違を生じさせる具体的な事情が存する。
ア製品のモーターは,OA機器やカメラの用途,販売先によって価格が大きく異なるものであるところ,それらとも全く業態が異なるパチスロ向けに製造されているA社の製品価格はさらに大きく異なるのであり,このような価格の相違は粗利益率にも大きく反映する。
イモーターの販売価格は,市場の地理的な相違によって大きく異なる。A社と本件類似3法人とは,いずれも中国の製造業者からモーターを購入しているものの,販売市場は,A社が日本国内であるのに対して,a社は香港等,c社は東南アジア等であるから,粗利益率でもかなりの相違が生ずるものと見込まれる。
ウ本件モーターはパチスロ筐体用であり,風営法に基づく規制があり,保通協(原判決95頁26行目参照)の規格に適合することを要するという特殊性を重視する必要がある。パチンコやパチスロ用の部品は,粗利益率等の利益率が非常に高く,業界も寡占的なものである一方,一旦企画や品質基準に対応できず,当該部品を使用する機種の人気が低下すれば,発注も急減するというハイリスク・ハイリターンの構造があり,このような特殊性は粗利益率にも大きな影響を及ぼすものである。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,①控訴人は独立企業間価格を算定するために必要と認められる帳簿書類等を遅滞なく提示又は提出していないから,本件においては,租特法66条の4第7項所定の推定課税の要件を満たしている(争点(1)について),②控訴人が提示するBとC社との取引価格に基づき適正な独立企業間価格を算定することはできず,また,この提示が,独立企業間価格を算定するために必要と認められる帳簿書類等を控訴人が遅滞なく提示又は提出したことになるものとは解することができない(争点(3)について),③平成11年12月期ないし平成13年12月期については,これに相当する決算期のa社の利益率を,平成14年12月期及び平成15年12月期については,本件類似3法人の利益率の平均値をそれぞれ用いて,山形税務署長がA社の本件取引に係る製品の取得金額から独立企業間価格を推定したことは,租特法66条の4第7項所定の算定方法の要件を満たしている(争点(2)について),④本件各更正処分等の前提として行なわれた仙台国税局職員による税務調査の手続について,本件各更正処分等の取消事由となるような手続上の違法は認められない(争点(4)について)と判断する。その理由は,次項において,争点(2)(本件各更正処分等と租特法66条の4第7項所定の算定方法の要件の充足性)に関する控訴人の当審における補充主張を踏まえた判断を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中の第3(14頁13行目以下)に説示するとおりであるから,これを引用する。
2 控訴人の当審における補充主張に対する判断
(1) 近時における国際的な経済活動の活発化や企業の多国籍化に伴い,わが国の企業が国外の関連企業(親会社・子会社等)との間で行う取引について,相互に独立した当事者間の取引で通常設定される対価(独立企業間価格)とは異なる対価による取引が行われると,これによる所得がわが国から国外に移転し,その結果,適正な租税収入の確保が困難になるといういわゆる移転価格の問題が生ずることになる。
移転価格税制(租特法66条の4)は,この問題に対処するために,同条1項において,法人が国外関連者との間で独立企業間価格とは異なる対価による取引(国外関連取引)をした場合には,その取引を独立企業間価格で行われたものとみなして法人税関係法令を適用すると規定し,また,同条2項に定める方法によってこの独立企業間価格を算定すると規定している。また,上記の移転価格税制の下においては,国外関連取引の対価が独立企業間価格と異なる場合には,納税者である法人は独立企業間価格による申告を要することとされており,いわゆる申告調整型の制度ということになる。
そして,租特法66条の4第7項が推定課税の制度を採用している趣旨は,国外関連取引に係る独立企業間価格を算定する根拠となる帳簿書類等の提示又は提出について,納税者である法人の協力を確保することにある。すなわち,移転価格税制は,海外にある国外関連者との取引について,多様な要因により決定される取引価格の妥当性を問題とする制度であるから,対象となる取引価格の決定根拠や他の通常の取引価格に関する情報について,納税者から帳簿書類等の資料の提供という協力を受けることが必要であり,他方,納税者からのこのような協力が得られない場合に,税務当局が何の手立てもなくこれを放置せざるを得ないということになれば,課税の適正公平な執行が損なわれる結果となることから,その実効性を担保する目的で推定による課税の制度が設けられ,課税庁は,租特法66条の4第7項所定の要件がある場合には推定された独立企業間価格を基にして課税処分を行うことができることとされているのである。
課税庁による租特法66条の4第7項に基づく処分の適法性が争われた場合には,課税庁側は,まず,同項所定の推定課税をするための要件の存在(争点(1))と,推定課税の方法の適法性(同種事業類似法人の選定方法等。
争点(2))について主張立証する必要があることは明らかである。そして,納税者は,上記の課税庁側の主張立証について,反証によりこれを争うことができることはもちろんであるが,自らの有する資料によって,国外関連取引に係る適正な独立企業間価格を主張立証して,推定された独立企業間価格に基づく処分を争うこともできることになる。
このように,租特法66条の4第7項所定の推定課税の制度は,前述の推定課税の制度趣旨,すなわち,国際的な経済活動の活発化等に伴い発生する移転価格の問題に対処する方策として,国外関連取引の対価が独立企業間価格とは異なる場合には,納税者において独立企業間価格による申告をするという申告調整型の仕組みを採用して,移転価格税制の適正公平な執行の実現を図るとともに,独立企業間価格を算定する上で必要となる帳簿書類等の提出を確保するために,租特法66条の4第7項所定の要件を満たしている場合には,納税者の側にも独立企業間価格についての主張立証を求めているものと解される。そして,納税者は独立企業間価格を算定するために必要な資料を保有しているのが通常であるから,必要な書類を提出すれば推定課税の適用を免れることができるのであり,また,課税庁が推定による課税処分をした場合にも,当該資料に基づき独立企業間価格を主張立証することによっても課税処分を争うことができるのであるから,納税者にとって過酷で不合理な制度とは解することができない。
(2) 控訴人は,推定課税による場合には,移転価格税制の中核である独立企業原則に抵触しない解釈ないし運用が必要であり,関連者間取引をする法人を比較対象とすることは許されないところ,同種事業類似法人として山形税務署長が選定した主として関連者間取引を行っている本件類似3法人は,比較対象としての適格性がないと主張する。
しかしながら,原判決(39頁11行目以下)も適切に説示するとおり,租特法66条の4第7項及び同項所定の独立企業間価格の推定方法に関する租特令39条の12第11項には,同種事業類似法人を選定する場合に関連者間取引を行っている法人をその対象から除外するとは規定されていない。
そして,前述のとおりの租特法66条の4第7項の推定課税の制度趣旨に照らすと,推定課税の適用が認められる場合において,独立企業間価格と推定される金額の算定に当たって関連者間取引をも基礎とすることが直ちに否定されるものではないと解するのが相当である。
そして,原判決(40頁20行目以下)も適切に説示しているとおり,租特法66条の4第7項は,独立企業間価格の推定には,同条2項1号ロ又はハに掲げる方法によることを定めているところ,同号ロ及びハが独立企業間価格を算定する場合には,「通常の利潤の額」との文言を用い,また,この通常の利潤の額の算定方法を定める租特令39条の12第6項及び7項は,「通常の利益率」という文言を用いるとともに,非関連者間の取引価格による旨を規定している(原判決63頁14行目以下,同頁25行目以下参照)のに対し,租特法66条の4第7項は,同条2項1号ロ又はハに規定された「通常の利潤の額」に代えて「同種事業類似法人の売上総利益率等」に基づき推定の基礎となる金額を算定することを定めているのであり,通常の利潤の額に基づき推定の基礎となる金額を算定するとしているわけではないから,このような観点からしても,租特法66条の4第7項が非関連者間の独立企業間価格を算定することを予定しているとの控訴人の主張は,採用することができない。
以上に検討したところによれば,租特法66条の4第7項の推定課税において,独立企業間価格と推定される金額の算定に当たり,同項所定の方法に反しない限り,関連者間の取引を含む金額を基礎とすることも許されると解するべきであり,この点に関する控訴人の主張を採用することはできない。
(3) また,控訴人は,いわゆるシークレットコンパラブルを用いたこと,すなわち,被控訴人が同種事業類似法人として選定する本件類似3法人に関する客観的な証拠,特に,その事業内容や財務状況等に関する客観的な証拠を開示していないところ,このような事業内容や財務状況等の同種性,類似性について検証することができない法人を用いて推定課税を行うことは許されないと主張する。
しかし,この点については,原判決(43頁2行目以下)も適切に説示しているとおり,租特法66条の4第9項は,推定課税において用いることを前提として,税務当局の職員による同種事業類似法人に対する質問検査権の行使を認めているところ,当該職員は,これらの企業の事業内容や財務状況等の詳細について,当然に守秘義務を負っているのであるから,同法は,税務当局がその事業内容や財務状況等について開示することができない同種事業類似法人に関する資料を用いて推定による課税がされることを予定しているものと解するべきである上,税務当局が,同種事業類似法人の同種性,類似性を主張立証する際に,職員が負う守秘義務に反しない限度でこれを立証し,それに対して納税者がその信用性を争うことも可能というべきであるから,前述した推定課税の制度趣旨と,推定課税を争う方法が確保されていることに照らすと,このような制度が,納税者にとって特に過酷で不合理なものであるとまでは解することができない。そして,本件においても,原審における審理の過程では,被控訴人も守秘義務に反しない限りで本件類似3法人に関する情報を開示している(乙124,126ないし129等)のであり,本件各更正処分等が控訴人の上記主張のような理由により違法となるものではないというべきである。
なお,控訴人は,本件類似3法人のモーター以外の事業の内容が明らかになっていないこと及び風営法の規制による影響についての情報が開示されていないことから,控訴人には十分な防禦方法が確保されていないと主張する。
しかし,前者については,推定課税制度の上記のような制度趣旨及び後述の事業の同種性と事業内容の類似性に関する考え方を前提とすれば,原判決(45頁10行目以下)も適切に説示しているとおり,租特法66条の4第7項所定の事業の同種性とは,例えば,問題となっている取引の対象品と類似した製品の卸売業ないし製造業という面で共通性があることをいうものと解されるのであり,本件類似3法人の主たる取扱製品が小型モーターであり,この点に関して被控訴人提出の証拠(乙126ないし129)が信用性に欠けるものとはいえないから,事業の同種性は肯定されると判断するのが相当である。また,後者の点についても,後述するとおり,A社が取り扱っている本件モーターは風営法の規制を受けるからといって,同社と本件類似3法人との事業内容の類似性に関する判断に影響を及ぼすものではないと解されるのであり,控訴人の防禦に実質的な不利益が生ずるものとも解することはできない。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
(4) 租特法66条の4第7項1号が,同種事業類似法人の選定という観点から規定している要件は,「同種の事業を営む」及び「事業規模その他の事業の内容が類似する」というものである。もとより,原判決(44頁18行目以下)も適切に説示しているとおり,推定課税が同種事業類似法人の利益率を用いて推定することからすれば,上記の事業の同種性及び事業内容の類似性が粗利益率の面でもかなりの差をもたらすものでないことは事業の同種性及び事業内容の類似性を肯定するための一応の判断基準になるというべきである。しかしながら,控訴人が主張する「粗利益率レベルでかなりの差を生ずると見込まれるような相違がないこと」や,「粗利益率レベルで近似する見込みがあること」までもその要件になると解すべき根拠を見出すことは困難であり,前述した推定課税の制度趣旨を前提として考えれば,そのような要件を課す必要も認められないというべきである。
(5) 控訴人は,本件類似3法人が取引している香港に所在する関連法人との間では,売上高という観点からの事業規模が著しく相違しているから,事業内容の類似性を欠いていると主張する。
上記引用に係る原判決の「事実及び理由」中の第3の1の認定事実によれば,本件類似3法人の従業員数は,a社が10名を超えて20名以下,b社及びc社が10名以下であり,本件類似3法人の売上高は,最も規模の大きいa社の最も売上高の多い年度において50億円を超えて60億円以下であること,b社の売上高は,平成14年から平成15年にかけての2事業年度においていずれも10億円以下であり,c社の売上高は,平成14年から平成15年にかけての2事業年度において,多い年度で10億円を超えて20億円以下,少ない年度で10億円以下であったこと(原判決18頁26行目以下。第3の1の(2)ア),A社の本件各事業年度の売上高は,いずれも1億円ないし5億円程度であること(原判決22頁14行目以下。第3の1の(3)ウ),仙台国税局のE調査官ら(原判決7頁19行目,14頁19行目参照)及びF調査官(原判決11頁24行目参照)が,本件モーターと同種又は類似の小型モーターを中国で生産する法人のうち香港に所在する法人と取引を行う国内メーカー11社(なお,いずれも取引を行った香港所在の法人は関連法人であった。)を抽出し,その中から香港関連法人(原判決18頁初行参照)が小型モーターの卸売業を行う5法人のうち,売上規模が100億円を超える事業年度がある2法人を除外して,本件類似3法人を抽出したこと(原判決14頁16行目以下。第3の1の(1))が認められる。そして,A社の従業員数は数名から多くても7,8名であったこと(甲192),小型モーターのメーカーには売上高が数億円規模の企業から1000億円を超える企業まであること(乙32)が認められるのである。
租特法66条の4第7項1号の事業内容の類似性を判断する要素としてまず事業規模が挙げられるところ,本件における事業内容の類似性を検討すると,原判決(46頁18行目以下)も適切に説示しているとおり,従業員数については,本件類似3法人とA社との間に大きな相違はなく,本件類似3法人を抽出する過程では,本件モーターと同種の小型モーターを取り扱うという控訴人と同種の事業活動を行う法人の中から,事業内容や香港所在の関連法人との取引を行っている法人を抽出した上で,年間の売上規模が100億円を超える香港関連法人との取引を行っている法人を除外していること,小型モーターのメーカーには,売上高が数億円の規模から1000億円を超える企業まであることからすると,上述した程度の本件類似3法人とA社との売上高が大きく異なるとはいうことができず,事業規模の観点からは,本件類似3法人とA社とが事業内容の類似性を欠いていると評価することは困難である。
(6) 次に,控訴人は,本件調査報告書によれば,粗利益率が平均販売管理費比率に応じて大幅に異なるのであり,本件類似3法人と控訴人とでは販売管理費比率が大きく異なるから,本件類似3法人とは事業内容の類似性に欠けると主張する。
引用に係る原判決の「事実及び理由」中の第2の3の前提事実及び第3の1の認定事実によれば,山形税務署及び仙台国税局の職員は,控訴人に対して,平成14年6月から平成15年6月までの間,少なくとも6回にわたり文書又は口頭でA社の財務書類の提示を求めたものの,控訴人はこれを提示しなかったこと(原判決7頁8行目以下。第2の3の(4)イ,ウ),控訴人が本件において証拠として提出したA社の2001年から2003年までの各10月期の財務諸表によれば,売上高は,それぞれ2775万9401香港ドル,882万7418香港ドル,1551万1125香港ドルと推移する中で,販売費と一般管理費の合計額は,それぞれ445万2534香港ドル,447万1602香港ドル,428万3475香港ドルであり,それに含まれる取締役の報酬の額が売上高の増減に対応することなく,139万0100香港ドル,284万0300香港ドル,294万4000香港ドルと推移して,販売費と一般管理費の31.2%,63.5%,68.7%を占めていること,販売費と一般管理費の合計額から取締役の報酬の額を控除した額の売上高に占める割合は,11.03%,18.48%,8.64%になっていること(原判決23頁5行目以下。第3の1の(3)エ)が認められる。
上記の事実関係によれば,A社の販売費と一般管理費は,原判決(48頁2行目以下)も適切に説示しているとおり,その多くを占める取締役の報酬が,専ら同社の取締役であるDに対するものであり,しかも,控訴人及びその関連会社からの平成13年3月31日までの取締役報酬の支給状況と,A社が活動を開始した直後には同人も取締役報酬を受け取っていなかったにもかかわらず,同年4月ころから報酬の支給を受けるようになった経緯に照らすと,Dに対する報酬の支給は,同社の利益削減のための工作である可能性も強く疑われるところである。そして,これに加えて,上記の財務諸表が控訴人によって提出された経緯や,財務諸表上,販売費と一般管理費の具体的な内容が明らかではないこと(甲261,262),売上高と,取締役報酬を控除した販売費と一般管理費の推移には関連性をうかがうことができないことに照らすと,控訴人の提出に係る財務諸表が,A社の販売費と一般管理費に関する財務状況を適切に反映しているものと考えるには疑問の余地があるといわざるを得ない。
さらに,原判決(35頁9行目以下)も適切に説示しているとおり,本件取引に関しては,従前はG社と控訴人との間で本件モーターを直接売買する取引が行われていたところ,控訴人の申入れによりG社と控訴人との間にA社が加わるようになったのであり,当初の段階の売買価格等に関する交渉も控訴人のH専務(原判決7頁9行目参照)及びDと,G社の担当者との間で行われ,本件モーターの機種が更新された際の価格交渉も実質的にはG社の担当者とH専務との間で行われたこと等,A社が独自の立場で本件取引に関与していたとは認め難い事情がある上,本件各事業年度においても,納期管理は控訴人が最終的に行っていると考えられるし,A社が納期遅延や不良品発生についてのリスクを負っていたと解すべき根拠も見当たらないことからすると,本件取引に関しても,同社が主体的な役割を担っていたとはいえず,また,リスクを負担していたとも解することはできないというべきである。
そして,原判決(47頁10行目以下)も適切に説示しているとおり,本件類似3法人は,主として親会社の指示に基づいて中国に所在する製造会社が製造した小型モーター等を指定された得意先に納入するという限定された業務を行い,特段のリスクも負っていないものと推認され,一方,A社の上記の限定された役割や機能に照らすと,本件類似3法人とA社との間に大きな相違は認められないというべきである。また,一般的には,法人の事業活動の内容が販売管理費比率にも反映すると解されるから,A社と本件類似3法人との間で,販売管理費比率という観点からも事業内容の類似性を否定するだけの理由はないものというべきである。
(7) 控訴人は,取扱製品の用途,販売先,市場の地理的条件等を考慮すると,A社と本件類似3法人とでは粗利益率の面で重要な相違があるから,事業の同種性及び事業内容の類似性を欠いているとか,A社が取り扱う本件モーターが風営法による規制の影響を受けており,また,寡占的な体質の業界であることから,本件類似3法人の事業と比較すると,事業の同種性及び事業内容の類似性を欠いていると主張する。
まず,小型モーターについて,その用途,販売先,市場の地理的条件の相違による事業の同種性及び事業内容の類似性への影響の有無については,原判決(49頁10行目以下)も適切に説示しているとおり,控訴人が主張する小型モーターの用途,販売先,市場の地理的条件の相違によって粗利益率に大きな差を生ずることについての的確な証拠があるわけではない上,事業の同種性及び事業内容の類似性について,租特法66条の4第7項では,同種の事業を営む法人であり,事業の内容が類似するものを選定することが求められているところ,基本的に汎用性のある小型モーターの卸売業を営む者は,通常,複数の用途の製品を取り扱い,かつ,複数の市場に存在する買主に対して製品を販売しているものと解されるから,小型モーターの卸売業を営む者が取り扱う製品の用途,販売先,市場の地理的条件が異なることによって直ちに事業の同種性及び事業内容の類似性が否定されることになるとは解することができない。なお,電機・精密機器業界においては,販売先によって利益率が大きく異なることを立証するとして控訴人が当審において提出した証拠(甲274)は,卸売業を営む者の利益率に関する的確な書証とはいうことができず,上記認定判断を左右するに足りるものではない。
また,A社が取り扱う本件モーターには風営法による規制の影響があり,また,寡占的な業界体質もあって,本件類似3法人とは粗利益率に大きな相違があるとする点についても,原判決(50頁22行目以下)が適切に説示しているとおり,風営法の小型モーターに対する規制は,その機能に着目したものであるから,一旦その機能を備えた製品を開発すれば,逆に製造は容易になる面もあり,特に負担が増加したり,高いコストを要することになるという事情は認められないのであり,風営法による規制の存在が粗利益率に大きな相違を生じさせる事情が存するとはいい難いし,また,控訴人主張の寡占的な市場が形成されていたことに関する的確な立証はなく,A社の本件取引における機能を考慮すると,上記の事情が推定課税において求められる事業の同種性及び事業内容の類似性の認定判断を左右するに足りるものとは解することができない。
第4 結論
以上のとおり,本件各事業年度の控訴人の所得に関して,本件取引の独立企業間価格として山形税務署長が推定した金額に基づいて行った本件各更正処分はいずれも適法というべきであり,また,これを前提とする本件各賦課決定処分もいずれも適法なものであって,本件各更正処分等には違法と評価すべき事由を認めることはできないから,控訴人の本訴請求にはいずれも理由がなく,これをすべて棄却すべきところ,これと同旨の原判決は相当であり,控訴人の本件控訴には理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。