行政文書一部不開示決定処分取消等請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成20年(行ウ)第231号) - 東京高判平成22年06月23日

東京高等裁判所(東京都)

事件番号:平成22(行コ)20

目次

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主 文

1 本件控訴をいずれも棄却する。

2 控訴費用は控訴人らの負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。

2 外務大臣が,平成19年11月16日付けで控訴人らに対してした,原判決
別紙一部不開示文書目録1記載の各行政文書を不開示とする決定を取り消す。

3 外務大臣は,控訴人らに対し,2記載の各行政文書の不開示部分について開
示決定をせよ。

4 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

第2事案の概要等

1 事案の概要,争いのない事実等,本件の争点及び争点に関する当事者の主張 については,次の2のとおり控訴人らの当審における主張を付加するほか,原 判決「事実及び理由」の「第2事案の概要」に記載のとおりであるから,こ れを引用する。

2 控訴人らの当審における補足的主張の要旨(1)原判決は,情報公開法5条3号,4号該当性の審査方法及び立証責任の 所在等について,行政機関の長による一次的判断を尊重する余り,結局のと ころ,実質的に立証責任を転換させるに等しい立場をとっており,行政文書 の開示義務を認めた趣旨が没却される。原判決は ,「その判断が,重要な事 実の基礎を欠くか,又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認めら れるなど,当該行政機関の長に与えられた裁量権の範囲を逸脱し,又はこれ を濫用したと認められるか否かを判断する」という審査基準を採用するが, 行政機関の長に広範な裁量権を与えすぎており,同3号,4号該当性判断に 用いるのは誤りである。


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    (2)同条3号,4号が「おそれがあると行政機関の長が認めることにつき相 当の理由がある情報」と定めているところ,情報公開法の立法過程で ,「一 応の理由」とし,行政機関の長の裁量を広く認める文言とすることが提案さ れたが,それは認められずに「相当の理由」となったという経緯を原判決は 一切顧慮していない。そもそも,国側は,国の安全等の確保に関するものに 当たることのみならず,信頼関係が損なわれるおそれ等も立証すべきである。

    (3)情報公開法は,憲法21条が保障している知る権利を具体化したもので あるから,その解釈においては,国民主権原理と民主制にとって不可欠な精 神活動の核心を担う基本的人権の保障が全うされることが求められ,知る権 利の制約につながる行政機関の長による判断の評価にあたっても,厳格な判 断がなされるべきである。

    (4)他の公開文書及び韓国の外交文書全面公開により,内容が推測できる不 開示情報について,不開示とする理由がないのに,原判決が,これを開示し た場合とは次元が異なるとして一蹴するのは誤りである。

    (5)本件各文書は,作成されてから50年以上を経過しており,時の経過に より不開示とすべき理由が減少しており,本来開示の目安とされるべき30 年をはるかに超えているから,不開示処分は違法である。

    第3当裁判所の判断

    1 当裁判所も,控訴人らの本件各文書の開示の義務付けを求める訴えは不適法 であり,本件各文書の不開示部分の取消しを求める請求は理由がないと判断す る。その理由は,次の2のとおり原判決を補正し,3のとおり控訴人らの当審 における補足的主張に対する判断を付加するほか,原判決「事実及び理由」の「第4当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。

    2 原判決の補正


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      (1)原判決17頁10行目の「交渉上の利益を確保」の次に「以下「国の安(全等の確保」ということがある。」を加え,同22行目から同23行目にか)けての「裁量権の行使として」を「当該事項に責任を有する行政機関の長の決定として」に改め,同27行目の次に行を改め次のとおり加える。

      「したがって,被控訴人の立証の対象は,国の安全等の確保に関するものに 当たることと ,「おそれがある」との行政機関の長の判断に「相当の理由」があることとなるところ,前示のとおり,同条3号の規定の仕方自体から, 行政機関の長の第一次的判断を尊重する趣旨が含まれており(このことは控 訴人らが主張する立法の経緯に照らしても裏付けられる。,裁判所が「相)当の理由」すなわち合理性の有無を判断するにあたっては,行政機関の長の 判断が裁量の範囲内にあるかどうかという観点から審査をすることとなる。」(2)原判決18頁6行目の「状況等の」を「状況等」に改め,次行の「それ らに照らし」を削り,同10行目の「その上で ,既に述べたように , を「被」控訴人がした上記立証により,当該情報が開示された場合に,不開示の理由 とされた,他国等との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国等との交渉上不 利益を被るおそれなどがあることが一般的又は類型的にみて肯定される場合 には,」に改める。

      (3)原判決19頁2行目の「裁量権の行使として」を「当該事項に責任を有 する行政機関の長の決定として」に,同10行目から次行にかけての「状況 等の」を「状況等」にそれぞれ改め,同行の「それらに照らし」を削り,同 14行目の「その上で,既に述べたように ,」を「被控訴人がした上記立証 により,当該情報が開示された場合に,不開示の理由とされた,公共の安全 と秩序の維持に支障を及ぼすおそれなどがあることが一般的又は類型的にみ て肯定される場合には,」に改める。


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        (4)原判決21頁8行目の末尾に「当該情報を開示すると,一般的又は類型 的にみて,北朝鮮当局との交渉上不利益を被るおそれがあると認められる 本(件文書2以下においても,不開示部分に記録されている情報が日朝国交正常 化交渉又は日韓の交渉における我が国の利益の確保に関するものに当たるこ とが推認された場合,当該情報を開示すると,一般的類型的にみて,北朝鮮 当局又は韓国との交渉上不利益を被るおそれがあると認められるから,この 点の説示は省略する。。

        )」を加える。(5)原判決28頁3行目の「対韓請求権」を「対韓請求額」に改め,同36頁9行目の「いずれも」を削る。

        (6)原判決49頁14行目の次に行を改め次のとおり加える。「(ウ)控訴人らは,本件処分以降に公開された多数の文書のなかに,外務省 が作成した竹島問題を巡る日韓両国政府の交渉等についての事実経過が記 録された時系列表が開示され,かつ外務省が独自に収集した文献資料のタ イトルが開示されている文書(甲30)があることが発見され,これによ り,文書13において,全部不開示となっている文献資料のリスト及びそ の概要等がすべて開示されたとしても,日本国が外交交渉上の不利益を被 る相当程度の可能性があるとはいえないことは明白であると主張する。

        しかし,控訴人らが主張する開示文書と本件文書13との関連性は明ら かでないために,本件文書13の記載内容は控訴人らが主張する開示文書 の記載内容と同一であるということができず,仮に大部分が重複するとし ても,なお両文書間に相違する記載内容が開示されれば日本国が外交交渉 上の不利益を被る相当程度の可能性があるというべきであるから控訴人ら の主張に理由があるとはいえない。」
        3 控訴人らの当審における補足的主張に対する判断(1)控訴人らは,原判決が実質的に立証責任の転換をしていると主張する。


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          しかしながら,原判決(上記訂正後)が説示するとおり,行政文書を例外 的に不開示とする場合の不開示事由の立証責任は不開示処分をした行政機関 の側にあるのであって,ただ,情報公開法5条3号,4号による不開示につ いての立証の対象が,文書開示によって生じる他国等との交渉上不利益を被 るおそれ等又は公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれそのものでは なく,行政機関の長がこれらのおそれがあると認めることについての相当の 理由となるのであって,各号がこのように定められたのは,行政機関の長の第一次判断を尊重する趣旨であることから,行政機関の側でそれに応じた立 証の負担を負うというに過ぎないのであり,実質的な立証責任の転換である とする控訴人らの主張は当を得ない。

          (2)控訴人らは ,立法過程において ,同法5条3号,4号の規定の仕方を「一 応の理由」とすることも検討されたが「相当の理由」とされた経緯があるこ とをもって行政機関の長の裁量を限定して不開示事由の判断をすべきと主張 する。

          なるほど,控訴人らの援用する甲7の2によれば,平成9年3月17日に 控訴人ら主張の質疑がなされたことが認められるが,その時点での質疑の対 象は,情報公開法案(素案)(甲7の3)の第6条3項及び4項関係であっ て,規定の文言が成案とは異なっており(行政機関の長が認めることにつ「き相当の理由がある」との文言はなく ,「おそれがあると認めるに足りる相 当の理由がある」との文言であった。,その後の審議において,同法5条)3号,4号について「行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある」との文言が加えられ,外交,防衛,治安関係の情報については,高度に政策 的な判断,専門的な判断といった観点から,行政機関の第一次的な判断を尊 重する趣旨であるといった説明がなされているのであるから(甲8),控訴 人らの主張は採用できない。

          (3)控訴人らは,情報公開法が定める情報開示請求権は,憲法21条が保障 する知る権利を具体化したものであり,国民主権原理から国民による具体的 な情報開示請求権が導かれるものであるので,情報開示請求権を制約する行 政機関の判断については厳格な審査が行われるべきものであると主張する。


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            情報公開法が,国民主権の理念にのっとり,行政文書の開示を請求する権 利について定めていることは明らかであるが(同法1条),具体的な情報開 示請求権は同法上の権利であり,同法の解釈を離れてはあり得ないところで あって,どのような不開示事由を定めるかは憲法の趣旨にのっとった立法政 策上の問題であり,同法が不開示情報を定めるにあたっては,開示ないし不 開示によって生じる利益及び不利益を考慮した上で規定を設けていると解さ れるから,同法の規定の趣旨を尊重すべきである。控訴人らの主張は採用で きない。

            (4)控訴人らは,本件各文書が作成されてから50年以上を経過し,歴史的 文書となっているから,被控訴人の主張立証責任が加重されると解すべきで あると主張する。

            一般に,長年月が経過すれば,不開示とする根拠が減少するであろうこと は認められるが,本件においては,現在我が国が直面する重大かつ微妙な問 題である日朝国交正常化交渉及び日韓の竹島問題に関して本件各文書の一部 又は全部が不開示とされているのであるから,長期間の時の経過が当然に不 開示とする理由の相当性を減少させるとまではいえない。外国等との交渉に おいては,過去の経緯が相当の重みを持つ場合のあることは明らかであるか ら,時を経過した情報であっても交渉の当事者である外務大臣の第一次的判 断を尊重すべき理由が減少するとはいえない。

            (5)控訴人らは,他の公開文書及び韓国の外交文書公開によって不開示文書 の内容が推測できるものについては,不開示とする判断に相当の理由がない と主張し,原判決が,推測することとこれらの不開示文書を公開することは 次元が異なると説示したことを非難するが,仮に推測が可能な情報であって も推測に止まる場合と実際に公開した場合では,外国等との交渉において生 じる不利益には格段の違いがあると考えられるところであるから,この点に ついても交渉当事者である外務大臣の判断を尊重すべきことにおいて変わり はない。


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              (6)控訴人らはその他種々主張するが独自の見解を述べるものであって,い ずれも採用し難い。

              4 以上によれば,控訴人らの義務付けに係る訴えを却下し,その余の請求を棄 却した原判決は正当であり,本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却す ることとし,主文のとおり判決する。

              東京高等裁判所第17民事部
              裁判長裁判官 南 敏 文
              裁判官 野 山 宏


                 8ページ

                裁判官 野 村 高 弘


                  裁判所名

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