平成27年6月26日判決言渡
平成26年\(行コ\)163号建物使用不許可処分取消等・建物明渡・使用不許可処分取
消等請求控訴事件
(原審・大阪地方裁判所平成24年\(行ウ\)49号(第1事件),同年(ワ)第4909号(第2
事件),平成25年\(行ウ\)75号(第3事件),平成26年\(行ウ\)59号(第4事件))
主文
1 原判決を次のとおり変更する。
(1) 控訴人は,被控訴人P1に対し,11万円及びこれに対する平成24年2月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 控訴人は,被控訴人P2に対し,11万円及びこれに対する平成24年2月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被控訴人らは,控訴人に対し,別紙物件目録記載の建物部分を明け渡せ。
(4) 被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して平成25年4月1日から上記(3)の建物部分の明渡済みまで1か月17万6830円の割合による金員を支払え。
(5) 被控訴人らの控訴人に対するその余の請求及び控訴人の被控訴人らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを3分し,その1を控訴人の負担とし,
その余を被控訴人らの負担とする。
3 この判決は,1項(1),(2)及び(4)に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。
2 上記取消部分に係る被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
3 主文1項(3)と同旨
4 被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して平成24年4月1日から上記3の建物部分の明渡済みまで1か月17万6830円の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
原審第1,第3及び第4事件は,控訴人の職員が加入する労働組合又はその連合体(以下,これらを合わせて「労働組合等」という。)である被控訴人らが,控訴人の市長(処分行政庁)に対し,平成24年度から同26年度の3年度につき,別紙物件目録記載の建物部分(以下「本件事務室部分」といい,同目録記載の1棟の建物を「本庁舎」という。)を組合事務所として利用するため,地方自治法238条の4第7項による本件事務室部分の目的外使用許可申請をしたところ,いずれも不許可処分を受けたことから,①各年度の不許可処分は団結権及び労働組合活動の自由を侵害する違法行為であるとして,国家賠償法1条1項に基づき各年度について損害賠償金各220万円及びこれに対する各不許可処分の日(平成24年度については同年2月20日,同25年度については同年3月18日,同26年度については同年3月11日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案(各事件共通)及び②同26年度の上記不許可処分について,その取消しを求めるとともに,本件事務室部分に係る目的外使用許可処分の義務付けを求める事案(第4事件)である。
原審第2事件は,控訴人が,被控訴人らに対し,被控訴人らが上記各不許可処分後も,組合事務所として占有している本件事務室部分について,その所有権に基づき明渡しを求めるとともに,不法行為に基づき使用料相当損害金として平成24年4月1日から本件事務室部分の明渡済みまで,1か月17万6830円の割合による金員の連帯支払を求める事案である。
原判決は,上記各不許可処分は,処分行政庁の裁量権を逸脱・濫用したもので違法であり,国家賠償法1条1項上も違法であると判断して,各年度の不処分に関して,被控訴人らの控訴人に対する損害賠償請求を一部認容し,平成26年度の不許可処分について,その取消しを命じるとともに,同年4月1日から同27年3月31日までの使用許可処分の義務付けを命じ,控訴人の被控訴人らに対する本件事務室部分の明渡請求及び損害賠償請求は権利の濫用に当たると判断して,いずれも棄却した。
そこで,これらを不服として,控訴人は,被控訴人らに対し,本件控訴を提起した。
2 前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により認めら
れる事実)
(1) 被控訴人らについて
被控訴人P1は,平成2年7月22日に控訴人に勤務する現業職員及び非現業職員により組織された,いわゆる混合組合である。被控訴人P2は,平成3年1月16日,被控訴人P1のほか,P3,P4,P5及びP6により組織された労働組合の連合体である。(甲78,88,102)なお,控訴人には,このほか,P7,P8などがあり,P7は,P9を結成している(甲78)。
(2) 関係する法令等の定め
ア地方自治法
(財産の管理及び処分)
237条1項 この法律において「財産」とは,公有財産,物品及び債権並びに基金をいう。
(公有財産の範囲及び分類)
238条1項 この法律において「公有財産」とは,普通地方公共団体の所有に属する財産のうち次に掲げるもの(基金に属するものを除く。)をいう。
1号 不動産3項公有財産は,これを行政財産と普通財産とに分類する。
4項 行政財産とは,普通地方公共団体において公用又は公共用に供し,又は供することと決定した財産をいい,普通財産とは,行政財産以外の一切の公有財産をいう。
(行政財産の管理及び処分)
238条の4第1項 行政財産は,次項から第4項までに定めるものを除くほか,これを貸し付け,交換し,売り払い,譲与し,出資の目的とし,若しくは信託し,又はこれに私権を設定することができない。
7項 行政財産は,その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができる。
9項第7項の規定により行政財産の使用を許可した場合において,公用若しくは公共用に供するため必要を生じたとき,又は許可の条件に違反する行為があると認めるときは,普通地方公共団体の長又は委員会は,その許可を取り消すことができる。
イ大阪市財産条例(昭和39年大阪市条例第8号。乙3)
(目的)
1条 この条例は,別に定めがあるもののほか,本市の財産の取得,管理及び処分について定めることを目的とする。
(使用許可の期間)
6条法(注・地方自治法のこと。本条例2条)238条の4第7項の規定による行政財産の目的外使用の許可(以下使用許可という。)の期間は,1年以内とする。ただし,電柱若しくは電線路又は水道管,ガス管その他の埋設物を設置するため使用させるとき,その他財産管理者が特別の理由があると認めるときは,この限りでない。
(使用料)
7条1項 使用許可を受けた者は,次の区分により使用料を納付しなければならない。
(1) 土地1月につき,時価の1000の5以上
(2) 建物1月につき,時価の1000分の6と当該建物又はその部分に係る土地使用料相当額との合算額以上3項次の各号のいずれかに該当するときは,使用料の全部又は一部を免除することができる。
(3)前2号に定めるもののほか,公益上その他の事由により特に必要がある場合として財産管理者が定めるとき
ウ大阪市財産規則(昭和39年4月1日大阪市規則第17号。甲49)
(第3章 行政財産の使用許可等)
(引き続く使用許可の申請)
21条 使用許可期間満了後引き続き使用の許可を受けようとする使用者は,期間満了前30日までに申請しなければならない。
エ「行政財産の目的外使用許可にかかる審査基準等について」(平成6年9
月27日制定。ただし,同23年9月1日一部改正後のもの。以下「本件審査基準」という。甲50)行政手続法第5条,第6条,第12条の規定に基づき,地方自治法第238条の4の第7項の規定による行政財産のその本来の用途または目的を妨げない限度における使用許可について,次のとおり基準を定める。
記
1 審査基準
(1) 使用を許可することができる範囲の基準は次のとおりとする。
ア公の施設の利用者,職員等本市の行政財産を利用し,又は使用する者のため,食堂,売店,その他収益を目的とした施設を設置する場合
イ学術調査,研究その他公共目的のため,講演会,研究会等の用に
短期間供する場合
ウ電気,ガス事業その他の公共事業の用に供するためやむを得ない
と認められる場合
エ災害その他の緊急やむを得ない事態の発生により応急施設として
極めて短期間にその用に供する場合
オ国,地方公共団体その他公共団体又は公共的団体において,公用,
公共用又は公益事業の用に供することが必要と認められる場合
カ本市の行政財産を使用なければ,隣接する家屋等の新築,解体,
建替等のための工事用足場,資材置場,搬入用通路等の確保が困難であり,当該行政財産を使用させることがやむを得ないと認められる場合
キ広告その他行政財産の効率的利用に資すると認められる場合にお
いて,公募により相手方を選定するとき
クその他本市の事務事業上やむを得ないと認められる場合
3 不利益処分基準
使用許可を取消処分する場合の基準は次のとおりとする。
(1) 本市において使用物件を公用または公共用のために必要とする場合
オ労働組合法(以下「
(目的)
1条 この法律は,労働者が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進することにより労働者の地位を向上させること,労働者がその労働条件について交渉するために自ら代表者を選出することその他の団体行動を行うために自主的に労働組合を組織し,団結することを擁護すること並びに使用者と労働者との関係を規制する労働協約を締結するための団体交渉をすること及びその手続を助成することを目的とする。
(労働組合)
2条 この法律で「労働組合」とは,労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体をいう。但し,左の各号の一に該当するものは,この限りでない。
2号 団体の運営のための経費の支出につき使用者の経理上の援助を受けるもの。但し,労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し,又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく,且つ,厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し,若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。
(不当労働行為)
7条 使用者は,次の各号に掲げる行為をしてはならない。
1号 労働者が労働組合の組合員であること,労働組合に加入し,若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて,その労働者を解雇し,その他これに対して不利益な取扱いをすること又は労働者が労働組合に加入せず,若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること。
ただし,労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合において,その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない。
2号 使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。
3号 労働者が労働組合を結成し,若しくは運営することを支配し,若しくはこれに介入すること,又は労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えること。ただし,労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し,又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく,かつ,厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し,若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。
カ大阪市労使関係に関する条例(平成24年大阪市条例第79号。以下「本件条例」という。乙9)
(目的)
1条 この条例は,労働組合等と本市の当局との交渉の対象となる事項の範囲,交渉内容の公表等に関する事項等を定めることにより,適正かつ健全な労使関係の確保を図り,もって市政に対する市民の信頼を確保することを目的とする。
(定義)
2条 この条例において「労働組合等」とは,地方公務員法(昭和25年法律第261号。以下「
(便宜供与)
12条 労働組合等の組合活動に関する便宜の供与は,行わないものとする。
(3) 被控訴人らによる本件事務室部分等の使用
ア控訴人は,平成3年10月,被控訴人らの要求に応じて,近隣の民間建物の約50㎡のスペースを賃借して,これを被控訴人らに対し,賃料は同じスペースを本庁舎内で使用許可を受けた場合の使用料の2割として転貸し,同7年1月からは,別の民間建物の約120㎡のスペースを賃借して,同様に被控訴人らに対して転貸し,被控訴人らは,これらを組合事務所として使用していた(甲12ないし16)。
イ被控訴人らは,結成以来,本庁舎内に組合事務所を有しているP9,P7と平等に本庁舎内に組合事務所を貸与するよう要求を続けた結果,平成18年7月14日,控訴人が所有する地方自治法238条4項にいう行政財産である本庁舎地下1階の一部(88.98㎡)について目的外使用許可(地方自治法238条の4第7項)を受けることとなり,以後同23年度まで毎年度使用許可を受けて,組合事務所として使用していた。なお,控訴人は,本件事務室部分の使用許可は,本件審査基準の1(1)クに該当するとして許可している(甲51,52)。また,同23年度の使用許可面積は,被控訴人らの申請に基づき,本件事務室部分の44.49㎡に縮小された。(甲12ないし16,22ないし24,68の1ないし3,甲79,82,乙2)同23年度の使用許可に係る使用許可条件は,次のとおりであった(甲1・大阪市行政財産使用許可書)。
(ア) 使用期間同23年4月1日から同24年3月31日まで(3条1項)(イ)使用期間満了後引き続き使用の許可を受けようとするときは,期間満了前30日までに申請しなければならない(3条2項)。
(ウ) 使用料総額84万8787円(消費税込み)(4条1項)(エ)使用の許可の取消し又は変更(10条)次の各号のいずれかに該当するときは,使用許可の取消し又は変更をすることがある。
(a) 本市において使用物件を公用又は公共用のため必要とする場合
(b) 使用者がこの使用許可書の各条項に違反したとき
(c) 不正の手段によってこの許可を受けたとき(オ)原状回復(11条)使用許可を取り消したとき又は使用期間が満了して引き続き使用を許可しないときは,使用者は,自己の費用で,市長の指定する期日までに使用物件を原状に回復して返還しなければならない。ただし,市長が特に承認したときは,この限りでない。(1項)(カ)損害賠償(12条)前項に定める場合のほか,使用者は,本許可書に定める義務を履行しないため本市に損害を与えたときは,損害額に相当する金額を損害賠償として支払わなければならない(2項)。
(キ) その他(16条)使用料の徴収について,減免率を段階的に変更することとし,平成23年度は60%,同24年度以降は50%とする。
ウ被控訴人らは,本件事務室部分を組合活動の拠点として,議案書や会議録の作成,機関誌やビラの発行,徴収した組合費の管理,交渉文書の作成,組合員との打合せなどの,労働組合活動に使用してきた(甲68の1ないし3,甲78,80,82,83)。
(4) 本件事務室部分の使用不許可処分までの経緯
ア被控訴人らは,大阪市財産条例により,従前,本件事務室部分の使用料について,80%の減免率を適用されていたが,平成22年3月31日,控訴人との間で,同減免率を段階的に変更し,同22年度は70%,同23年度は60%,同24年度以降は50%とすることに合意し,その旨の確認書を作成した(甲2)。
イ平成23年11月27日の控訴人の市長選挙(以下「本件市長選挙」という。)の結果,同年12月19日,P10(以下「P10市長」という。)が就任した。
ウ平成23年12月26日,大阪市議会(以下「市議会」ということがある。)交通水道委員会において,控訴人交通局(以下「交通局」という。)における,勤務時間中に選挙活動をするためにバス乗務時間の少ない特殊ダイヤによって従事した者がいること,机の引出しに「選挙関係」というラベルが貼られ,その中に選挙活動関係の書類が多量に入っている机があること,事業所の公用電話が選挙活動に使用されていることなどが指摘された(甲32の2)。
エP10市長は,平成23年12月28日の施政方針演説において,労働組合等による庁舎内での政治活動を禁止する等労働組合問題に取り組む方針を提示し(甲32の3),同月30日には,全局長及び全区長に対し,労働組合等が庁舎内で政治活動をすることを防止するため庁舎内の組合事務所の退去を求める手続を始めるよう指示した(甲58の1)。
オ控訴人は,平成24年1月30日,被控訴人らに対し,①被控訴人らが使用している本件事務室部分について同24年度以降は行政財産の目的外使用許可を行わない方針である旨,②原状回復の上,同年3月31日までに本件事務室部分から退去することを求める旨の文書を交付した(甲3)。なお,控訴人は,被控訴人ら以外の労働組合等に対しても,本庁舎からの退去を求め,これらの労働組合等の占有面積は756.78㎡であった(乙55)。
(5) 平成24年度の使用不許可処分等
ア被控訴人らは,平成24年2月17日,控訴人に対し,本件事務室部分につき,使用期間を同年4月1日からの1年間として,行政財産の目的外使用許可申請をしたところ,P10市長は,同年2月20日,これを不許可とする処分(以下「平成24年度不許可処分」という。)をした。同不許可処分を告知した書面(甲6,乙4)には,理由として,「組織改編に伴う新たな行政事務スペースが必要になること等から,貴組合から申請されている44.49㎡については,事務室として使用することを予定している。」と記載されていた。その際,控訴人は,被控訴人らに対し,上記理由を敷衍して,「府市再編部門,危機管理室,情報公開室監察部,協働まちづくり室の事務室狭隘のために約860㎡の事務スペースが不足しております。」と記載した書面を交付した。(甲4ないし7,乙4)
イ被控訴人らは,平成24年2月28日,控訴人に対し,事務室の退去通知に対して労働組合の団結権を保障するための協議を申し入れるとして,本庁舎の狭隘について詳細な説明を行うこと及び本庁舎が狭隘であるならば他の施設での代替室を検討することにつき,協議を求めた(甲39)。これに対し,控訴人は,同月29日,対象事項は地方公務員法55条3項の管理運営事項に当たり,交渉対象ではないとして,被控訴人らの申入れを拒否した(甲40)。
ウ控訴人は,平成24年3月15日,被控訴人らに対し,平成23年度使用許可書11条に基づき,原状回復の上,平成24年3月31日までに退去するよう通知した(乙5)。被控訴人らは,同年3月14日に第1事件を,控訴人は,同年5月10日に第2事件を提起した。
エ被控訴人P1は,平成24年3月29日,本件事務室部分の明渡しを求める控訴人の行為が不当労働行為であるとして,大阪府労働委員会(以下「府労委」という。)に対し,救済申立てをした。府労委は,同26年2月20日,控訴人に対し,平成24年度不許可処分が府労委において不当労働行為であると認められ,今後このような行為を繰り返さないようにする旨記載した文書を被控訴人P1に手交することを命じる救済命令を発した。(甲102)
(6) 被控訴人らの不退去及び他組合の退去被控訴人らは,平成24年度不許可処分を受けたものの,同年4月1日から現在に至るまで,本件事務室部分から退去せず,これを組合事務所として占有している。他方,被控訴人らと同様に本庁舎の地下1階に組合事務所を設けていたP9ほか5団体は,同年2月20日に使用不許可処分を受けて,同年3月31日までに本庁舎から退去し,その退去後の行政事務スペース(合計面積712.29㎡。以下「別件事務室部分」という。)には,同年4月1日に総務局監察部(旧情報公開室監察部)及び危機管理室が入り,同年5月21日に行政委員会事務局選挙部(旧選挙管理委員会事務局)が入った。(乙26ないし28の各2,29の1ないし11)
(7) 本件条例の制定
ア控訴人においては,P10市長の指示で,平成24年1月から労働組合等に対する便宜供与を禁止する条例を作成する準備が始められ,総務局は,同年6月6日,条例案を作成し,財政局での稟議,副市長の訂正,承認を経て,同月27日P10市長が決裁した。条例案(12条)は,当初「労働組合等に対する便宜供与は,適正かつ健全な労使関係が確保されていると認められない限り,原則として行わないものとする。」というものであったが,同年6月20日,P10市長の指示により「適正かつ健全な労使関係が確保されていると認められない限り,原則として」という文言が削除され,「労働組合等の組合活動に関する便宜の供与は,行わないものとする。」と修正されている。
(甲79)
イ上記アのとおり修正された条例案は,同年6月22日,被控訴人P2に示されたが,被控訴人P2は,本件条例は労組法に違反していると主張して抗議した(甲79)。
ウ上記アの修正された条例案は,同年7月6日,市議会に上程され,同月13日,18日,19日及び20日に財政総務委員会において審査され,27日,同委員会において原案のとおり可決され,同日本会議において賛成多数で原案どおり可決された(乙34,35)。こうして可決された本件条例は,同月30日の公布を経て,同年8月1日施行された(乙9)。
(8) 平成25年度の使用不許可処分等
ア被控訴人らは,平成25年2月18日,P10市長に対し,本件事務室部分につき,使用期間を同年4月1日からの1年間として,行政財産の目的外使用許可申請をしたところ,P10市長は,同年3月18日,これを不許可とする処分(以下「平成25年度不許可処分」という。)をした。同不許可処分を告知した書面には,理由として,①本件条例12条において,労働組合等の組合活動に関する便宜の供与は行わないこととしているため,②本申請の対象となるスペースについては,行政事務スペースとして利用する必要があるため,と記載されていた。(甲69ないし71)
イ被控訴人らは,同年3月22日,控訴人に対し,組合事務所の供与等についての協議等を求めて団体交渉を申し入れたが,控訴人は,同月28日,被控訴人らに対し,上記事項はいわゆる管理運営事項に当たるとして,上記申入れには応じられない旨回答した。(甲72,73,乙52)
ウ被控訴人らは,同年3月29日,第3事件を提起した。
(9) 平成26年度の使用不許可処分等
ア被控訴人らは,平成26年2月6日,P10市長に対し,本件事務室部分につき,使用期間を同年4月1日からの1年間として,行政財産の目的外使用許可申請をしたところ,市長職務代理者副市長P11(以下「職務代理者」という。)は,同年3月11日,いずれの申請も不許可とする処分(専決又は代決。以下「平成26年度不許可処分」といい,平成24年度不許可処分及び平成25年度不許可処分をも含めて「本件各不許可処分」という。)をした。同不許可処分を告知した書面には,理由として,平成25年度不許可処分の理由と同一の理由が記載されていた。(甲103ないし105)
イ被控訴人らは,平成26年3月12日,控訴人に対し,組合事務所の供与等について協議等を求めて団体交渉を申し入れたが,控訴人は,前記(8)イと同様の理由で上記申入れには応じられない旨回答した。(甲106,107,乙52)
ウ被控訴人らは,同年3月24日,第4事件を提起した。
3 争点及び争点に対する当事者の主張
(1) 平成24年度不許可処分の違法性
(被控訴人らの主張)
ア団結権侵害及び不当労働行為
(ア) 憲法28条の労働基本権の保障は,使用者に対しても,労働組合等の権利行使を妨害せず正当な組合活動を受忍し,必要な範囲でこれに配慮する義務を負わせるものである。労組法において,組合事務所の供与が明示的に禁止される経理上の援助の例外として定められたことは,組合事務所の供与が自主性阻害の要件とならず,企業別の労働組合が大きな機能を果たしてきたことのあらわれである。このことは労組法の適用を受けない非現業公務員の職員団体にも同様に妥当する。
したがって,控訴人が,既に一定期間,労使協定又は慣行により継続されてきた組合事務所の提供等の便宜供与を一方的に廃止することは,労働組合に極めて深刻な打撃を与え,労使関係における信義にも反するので,これを正当化する特段の事情のない限り,憲法28条が保障する団結権等の侵害として評価されるというべきである。
(イ) 平成24年度不許可処分は,以下のとおり,P10市長が本件市長選挙において自分を支援しなかった労働組合等を,庁舎内で活動をさせないこととして庁舎外に排除し,労働組合等の拠点を剥奪して影響力の排除とその弱体化を図ろうとして行った支配介入の不当労働行為であり,また,その態様は,代替施設の提供の申出もなく,わずか1月あまり後に立退きを迫るというものであるから,正当な理由はなく,支配介入の不当労働行為として,行政庁の裁量権を論じるまでもなく,違法である。
すなわち,P10市長は,同23年11月27日の本件市長選挙に向けて「P7が市長をかついで職員厚遇は日本一。(略)そもそも職員数が多過ぎ!!全部市民の皆さんの税金」(甲30の1),「職員組合が市長をかつぐ」(甲30の2),「職員組合,市長,(略)大阪市役所中之島一家を,本当の大阪市民のための市役所に再生させましょう」(甲30の3),「職員組合=P12が市長を選挙でかつぐという構図を崩さないと,大阪市役所は市民のための役所にはなりません」(甲30の4),「大阪市役所体制は,関係団体とともに職員組合も一致団結します。そこに大阪府のP12。これで市長を担ぎ出し,大阪市役所から補助金をもらい,天下りを始めとする職員厚遇をやり続ける。どうですか,皆さんこの構図」(甲30の10),「P7が,まあ必死になって市議会議員を当選させる。
そんな市議会議員だらけの大阪市役所が改革なんてできるわけない。P13は,大阪市民を守るため大阪市役所を潰します。」(甲30の6),「公の仮面をかぶって市長を応援する団体,職員組合,(略)P12,全部ひっくるめて大阪市役所一家です。これで税を配分し合う。P13はこの構図をぶっ壊す」(甲30の11),「職員組合も今の厚遇環境を死守したい。(略)P13はこの構造を許しません。」(甲30の12)などと労働組合を攻撃することで自らへの支持を調達する戦略をとった。
P10市長は,本件市長選挙に当選すると,これらの発言を実現に移すべく,同年12月24日に開催された控訴人の戦略会議において,労働組合等に対する事務室使用料の減免措置につき,同25年度から減免なしとする旨発言し(甲32の1),同年12月26日,市議会交通水道委員会において交通局職員が,自分の対立候補を支援する選挙運動を行っていることを知るや,「一度,組合と今の市役所の体質についてはグレートリセットをして,一から考え直したいというふうに思っています。今までは認められてきた組合活動についても一回リセット。まずは厳格に,まずは認めない方向からどこまで法的に認められるのか,それは法的に認められるとしても,別にそこまで認める必要がないんであれば認めません。「組合の事務所も,」どうもこの地下にあるんですかね。(略)公の施設の中での政治活動というのは(略)これは公の施設はいろんな政党支持者の人からの納税で支えられている施設なわけですから,そんなところで政治活動なんてするのはあってはならないことである中で,次々といろんな問題が出てきますから,事務所には公のこの 施設からまず出ていってもらうというところからスタートしたいと。(略)これは徹 底的にやっていきたいと思っています。」(甲32の2)などと答弁し,労働組合等に対し本庁舎から退去を求める考えを表明し,同月28日の市議会定例会の施政方針演説の中でも,「大阪市役所の組合の体質はやはりおかしいという風に感じます。この庁舎内で,政治活動をすることは,これは当然許されません。」「選挙による民主的統制を受けていない職員組合が政治活動ということを少しでも行うことは,これはあってはならないことです。そういうことを今まで許してきた大阪市役所の体質を徹底的に改めていきます。」「公務員の組合という者をのさばらしておくと国が破綻してしまいます。」(甲32の3)と繰り返し,年末の同月30日には,控訴人の全局長及び全区長に対しメールで,「組合への家賃減免は直ちに止めます。
庁舎内で政治活動をすることは認めませんので,組合の立ち退き手続を直ちに始めたいと思います。」(甲58の1),同月31日には「組合の公の施設内での政治活動厳禁」「組合に対する便宜供与の厳禁・勤務条件等の一般原則(法律上の義務以外は認めない等)」(甲58の5)などとして,組合の活動を禁圧する具体的措置を矢継ぎ早に指示した(甲32の4)。そこで,控訴人においては,このようなP10市長の指示(甲58の5)に従って,平成24年1月には本件条例の制定の準備を始め,同月30日には立退き請求を行い(甲3),平成24年度不許可処分に至った。労働組合等からは退去要求に関し団体交渉を申し入れたが(甲39),控訴人は,管理運営事項であるとして交渉を拒否した(甲40)。
控訴人は,P10市長に組合の弱体化意思はなく,その問題意識は公金の使途にあると主張するが,P10市長のこれまでの言動の内容やメールの内容からすれば,労働組合等を弱体化させるため本庁舎から立ち退かせるとの判断が先にあり,公金の使途の主張は単なる口実にすぎず,当初から労働組合等の活動を禁圧することを狙った行動であることは明らかである。
イ裁量権の逸脱・濫用
仮に,行政財産の目的外使用許可に関する行政庁の裁量権の逸脱か否かの判断枠組みで捉えるとしても,平成24年度不許可処分は,次のとおり,重要な事実の基礎を欠き,社会通念に照らしても著しく妥当性を欠くから,裁量権の逸脱・濫用として違法である。
(ア) 使用の目的,態様,使用者の範囲等被控訴人らの目的外使用許可申請は,労働組合等の組合事務所としての使用を目的とするもので,従来控訴人との間で継続的使用が合意されている中で,形式的な更新手続として行われたものである。
そして,本件事務室部分の使用者は,本庁舎を日常的に使用する控訴人の職員であり,使用目的も,控訴人職員の労働条件の維持改善等,控訴人の行政事務の円滑な遂行とも密接に関連する労働組合等の維持運営にあるから,これを許可するに当たっての支障や弊害はない。
(イ) 目的外使用許可をするに当たっての控訴人側の支障又は許可をした場合の弊害若しくは影響の内容及び程度(行政事務スペースの必要性について)
a 控訴人は,平成24年度の組織改編に伴い,本庁舎内に新たな行政事務スペースが必要となるから使用許可には支障がある旨主張し,これを平成24年度不許可処分の理由として挙げるが,そのような必要性は存在しない。
このことは,①組合事務所排除の方針を打ち出したP10市長が,本庁舎利用の必要性について何らの発言もしていなかったことや,控訴人は平成24年度不許可処分まで,労働組合等に対し組合事務所の使用を許し続け,行政事務スペース不足を理由に立退きを求めたことはないこと,②本庁舎は,控訴人が定めた事務室面積算定基準(乙15)によれば,スペースに相当余裕があること,③控訴人は,スペース配置について本庁舎全体での調整や検討を行っておらず,他に目的外使用許可をしているスペース(例えば,コンビニや金融機関,食堂)について廃止や縮小の検討もしていないこと,④控訴人が平成24年度不許可処分の前に行ったと主張する別紙記載の検討内容(乙11。控訴人は,同号証は,平成24年1月10日の作成と主張するが,疑わしい。)には矛盾が多く,真に検討が行われたかどうか疑問である上,スペース不足の理由にはなっていないことなどから明らかである。
b 上記aの①については,前記ア(イ)のとおりである。上記aの②については,平成23年度(甲44の4)と同24年度(乙17)を比較すると,本庁舎に勤務する職員数は2821人から2822人に1名のみ増,基準面積は2万0608㎡(配置面積でみると,2万5189㎡で余裕がある。)から2万0471㎡(配置面積でみると,2万5678㎡で余裕がある。)と137㎡減っているが,配置面積自体は489㎡増加している。レイアウト(甲41,42)をみても,空席が目立っている。仮に一定加算として控訴人が主張する10ないし20%を採用するとしても,まだ余裕がある。
c 上記aの③及び④については次のとおりである。
(a) 情報公開室監察部(組織改編後の総務局監察部)
平成24年4月1日に実際配置された人員は25名ではなく,7名少ない18名で,その人員だと基準面積は132.8㎡(一定加算後139.4㎡)であり,乙11による一定加算後の188.1㎡より48.7㎡も少ない。
乙11による188.1㎡は過剰に記載されたものである。しかも,実際には223㎡も配置している(乙27の2,甲63)。行政事務スペースの必要性が根拠のないことを如実に示している。
(b) 危機管理室
平成24年4月1日に実際配置された人員は62名ではなく,13名少ない49名,その人員だと基準面積は375㎡であり,乙11による570.9㎡より195.9㎡も少ない。乙11は過剰に記載されたものである。同24年4月以降,本庁舎地下1階を使用している危機管理室には職員が21名しかおらず,その人員だと基準面積も125㎡であるにも関わらず,実際には357㎡も配置され(甲62,63),232㎡もスペース過多となっている(乙17)。その後の同年7月17日には,177㎡も縮小させられ(180㎡にnなった。この177㎡のスペースを本庁外から移),転してきた財務局の一部署に当てている。行政事務スペースの必要性が根拠のないことを如実に示している。
(c) 政策企画室の府市再編担当(組織改編後の都市制度改革室)
府市再編担当は,平成24年4月1日現在で本庁舎地下1階のスペースには存在せず,5階の協働まちづくり室が移転した後のスペース(200㎡)に入っていた。これは,控訴人の主張する必要性とは矛盾する。そして,実際のスペースは面積的には一定加算後の基準面積285.8㎡より85.8㎡少ないだけなので,支障はないはずであるのに,行政委員会事務局選挙部を本庁舎5階から同地下1階へ移動させ,そのスペースを府市再編担当として使用する必要性は全くない。府市再編担当が入るはずであった200㎡は,5階の政策企画室が吸収しており(乙27及び28の各1),基準面積を304㎡も上回っており(乙17),スペース過多となっている。
(d) 協働まちづくり室(組織改編後の市政改革室のうち,市政改革室地域活動活性化担当,地域ビジネス創出担当,区政支援担当,区行政システム担当,区役所業務改編担当の5担当)協働まちづくり室が移転した本庁舎地下1階の総務局庁舎管理スペース(エレベーターホールから遠い方の従前の総務局分室(以下「総務局分室B」という。))は,面積187㎡の部屋であり,従前全く利用されていなかったスペースであって(甲65),この移転はスペースの問題とは関係のない事情によるものであった。平成24年4月1日に実際配置された人員は23名ではなく,2名少ない21名であり,23名の人員だと基準面積は312.8㎡だが,配置面積はこれより124.8㎡も少ない188㎡である。乙11は過剰に記載されたものである。上記5担当は,同24年4月以降も,少ないスペースで特段の不都合なく執務している。
(e) 震災支援対策室の支援総合相談窓口
支援総合相談窓口(甲60)が実際に配置されたのは,本庁舎地下1階総務局分室(エレベーターホールに近い方。「総務局分室A」以下という。)であり,面積は約223㎡であった(甲63,64)。このスペースは従前恒常的に利用されていなかったものである。しかも,同窓口は,部屋の入口付近しか利用していなかった。平成23年9月20日付けで,窓口業務がほぼ終了したことから,同スペースから退去した(甲60)。震災支援対策室は,同24年3月31日付けで廃止され,これに係る行政事務スペースは不要になった(甲144)。なお,本庁舎地下1階のもう一つの総務局分室Bは,全く利用されておらず,しかも,同23年3月28日には完全な空き部屋になっていた(甲65)。行政事務スペースが不足していたことなどないのである。
d 控訴人は,本庁舎は慢性的にスペース不足であるとして,平成18年度に被控訴人ら以外の他の労働組合等に対しスペースの縮小を求めたことがあると主張するが,別の組合のことであるばかりか,同年度はまさに被控訴人らが使用許可を得て本件事務室部分の使用を開始した時期であり,狭隘化の問題が存在しないことは明らかである。労働組合から狭隘化に伴う問題要求があったとしてもそれは更なる環境改善の申入れにすぎない。
(ウ) 目的外使用許可をするに当たっての支障又は許可をした場合の控訴人の弊害若しくは影響の内容及び程度(政治活動のおそれを払拭する必要性)について控訴人は,本庁舎利用により本庁舎内の組合員らの政治活動のおそれがあり,これを完全に払拭するために労働組合等の事務所に庁舎を使用させないこととする必要性があるとするが,このような理由には次のとおり正当性も合理性も認められない。
a 労働組合活動は政治活動と不可分のものであり,控訴人のいう「政治活動の払拭」とは,P10市長の意に沿わない活動そのものであって,正当な政治活動の払拭は労働組合活動の排斥に等しく,それ自体が支配介入の不当労働行為である。
b 本庁舎内での政治活動の排除という目的と組合事務所の排除という手段との間に関連性はない。控訴人が指摘する不適正な労使関係の事象についてはその多くはP10市長の就任前にP14市長によって是正されていたし,組合事務所が本庁舎内にあることと本庁舎内で政治活動が行われることとの間に関連性はない。
c 仮に問題のある政治的行為があれば,それに対して個別に対処すれば良いのであって,組合員の一部に問題行動があったからといって,組合事務所をすべて本庁舎内から排除するというのは,労働組合等の団結権等に対し,より制限的でない手段をとるべきとする比例原則に反する。
d 被控訴人らにおいては何ら問題のある政治活動はなく,控訴人が問題としてあげる市長選挙の際の活動は被控訴人ら以外に所属する職員によるもので,被控訴人ら以外の労働組合等の活動を理由に被控訴人らの組合事務所を奪うのは明らかに他事考慮である。
(エ) 不許可処分により被控訴人らの受ける不都合又は影響の内容及び程度組合事務所は,被控訴人らの団結権及び組合活動の拠点として,組合の会議や打ち合わせを行うほか,組合員はもちろん,市民からの相談も受け,議案書や会議録の作成や機関誌のビラの発行を行ったり,組合費の管理を行ったり,不可欠な活動を行い,本庁舎内に事務所があることで非組合員や市民との接触を緊密に行うことができ,団体交渉や事務折衝も効率的に行うことができる。これは大阪市当局にも便宜であり,これにより簡易,迅速にコミュニケーションがとれ,行政上の効率化に資するものである。
また,組合事務所は,本庁舎内に存在することに大きな意味があり,これは,被控訴人らが控訴人と長年交渉して勝ち取った成果である。
すなわち,被控訴人らは,平成3年10月から,控訴人が借りた民間不動産を転借する形で組合事務所を利用していたところ,結成当初から一貫してP7との平等取扱いを求めて本庁舎内の事務室の貸与を要求し続けていた結果,同18年7月15日以降本庁舎内に本件事務室部分が貸与されるに至ったものである。被控訴人らは,その後5年半以上にわたり同所を継続的に使用してきたもので,かかる労使合意に基づく長期間の継続使用によって本件事務室部分は被控訴人らの活動の基盤として根付いていたのみならず,長年要求し続けていた平等取扱いの実現という重要な意義を有していた。したがって本件事務室部分を組合事務所として失うことは被控訴人らに重大な損害を与えるものである。
(オ) 民間の組合への事務室貸与との違いはないこと控訴人は,本件事務室部分の使用許可が行政財産の目的外使用許可であり,民間の組合への事務室貸与とは異なる点を殊更強調し,使用許可をするか否かは広い裁量に委ねられている旨主張するが,公務員であっても,民間の労働者と同等の団結権が保障されていること,地方公務員の団結体は,そのほぼ全てが地方公共団体ごとの団結体として組織されており,事務所も地方公共団体の庁舎内や敷地内に存在している点において民間と同様であり,地方公務員法では同一の地方公共団体に属する職員のみをもって組織されていることを登録要件とすることによって企業内団結体であることを促進するようにしていることからしても職員団体が庁舎内に事務所の供与を受けることは当然のことであり,自主性の点においても何ら問題にされず,使用者・当局が公務員の団結体に対して基盤となる組合事務所を提供することは,団結体を承認し,団体交渉の相手方として認めることにつながる。したがって,組合事務所の設置場所が民間企業の所有する建物であるか行政財産であるかは団結権保障において差異を設ける理由にはならず,行政財産である故に裁量の幅が広くなるという関係にはない。
ウ行政手続法違反
(ア) 同法5条1項及び2項違反同条1項は「行政庁は,審査基準を定めるものとする。」と,2項は「行政庁は,審査基準を定めるに当たっては,許認可等の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない。」とそれぞれ定めるところ,控訴人が,行政財産の目的外使用許可に関して設ける本件審査基準のうち本件に適用される「その他本市の事務事業上やむを得ないと認められる場合」(1(1)ク)は,どのような場合に使用許可がされ,どのような場合に不許可となるのか,申請人には全く理解ができず,審査基準として意味がない。したがって平成24年度不許可処分は,行政手続法5条1項及び2項に違反する。
(イ) 同法8条及び14条違反同法8条1項本文は「行政庁は,申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は,申請者に対し,同時に,当該処分の理由を示さなければならない。」と規定し,同条2項は「前項本文に規定する処分を書面でするときは,同項の理由は,書面により示さなければならない。」と規定する。また,同法14条1項本文は「行政庁は,不利益処分をする場合には,その名あて人に対し,同時に,当該不利益処分の理由を示さなければならない。」と規定し,同条3項は「不利益処分を書面でするときは,前2項の理由は,書面により示さなければならない。」と規定する。
平成24年度不許可処分の通知書(甲6)には,行政事務スペースの必要性が記載されているが,具体性がなく,控訴人が理由として主張する労働組合等による政治活動のおそれの払拭も記載されていない。
したがって,平成24年度不許可処分は,当該処分がいかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して処分がされたかを明らかにし,具体的理由が提示されているものとはいえないから,行政手続法8条や14条に違反する。
(ウ) 同法13条違反同条1項本文は「行政庁は,不利益処分をしようとする場合には,(略)当該不利益処分の名あて人となるべき者について,(略)意見陳述のための手続を執らなければならない」旨規定する。平成24年度不許可処分は,1年ごとに申請と使用許可を繰り返す形をとっているものの,労使合意に基づき5年半以上の長期間にわたり継続されてきた組合事務所の提供を打ち切るものであり,実態としては不利益処分というべきものである。そうすると,控訴人は,上記処分を行うに際し,被控訴人らに対し一切の協議や説明を拒否しており,弁明の機会を全く与えていないから,平成24年度不許可処分は,行政手続法13条に違反する。
(控訴人の主張)
ア不当労働行為について
被控訴人らは,平成24年度不許可処分がP10市長の組合弱体化意思に基づく不当労働行為であるから違法である旨主張するが,P10市長にそのような組合弱体化意思はなく,平成24年度不許可処分は不当労働行為に当たらない。
すなわち,そもそもP10市長の発言には労働組合等を弱体化させるとか,労働組合等を解体するなどという趣旨の発言は一切なく,労働組合等を嫌悪・敵視しているのではない。P10市長の発言内容の中心は,むしろ,控訴人の内部の体制を含めて従前の不適正な労使関係の是正を図らねばならないという点にあり,控訴人における労使関係を含めた控訴人の体質全般を批判しているものである。これは,本庁舎は税金ないし公金が投入されているところ,特定の思想信条による政治活動や活動主体である組合などの事務所のために市民の税金を使うことは不適切であるという,公金の使途としての問題意識によるものである。市民の目から見て不適切と受け取られるおそれのある市役所と労働組合等とのこれまでの関係を適正化することを目指しているものであり,本庁舎内での労働組合等による政治活動が行われることを払拭することと平成24年度不許可処分との間には,十分な関連性がある。P10市長は,平成23年12月の就任当初から,同24年度に限ってはやむなく使用を認め,同25年度からは使用を許可しないつもりであった。このことはP10市長の発言から認められる。しかし,控訴人と労働組合等の極めて不適切な関係が判明したことから,同24年度からの打切であっても,法的に認められると判断し,平成24年度不許可処分を断行した。
イ裁量権の逸脱・濫用について
(ア) 被控訴人らは,平成24年度不許可処分が不当労働行為に当たることから,裁量権を論じるまでもなく違法である旨主張するところ,地方自治法238条の4第7項が具体的な要件を定めることなく例外的に使用許可を定め,9項において「必要が生じたときはこれを取り消すことができる」とまで規定していることからすれば,同条の趣旨は,行政財産が本来行政目的のために用いられるべきものであることから,本来の使用目的が阻害されない例外的な場合にのみ当該財産の効率的な利用を可能にしようとした点にあり,地方公共団体の長(なお,本庁舎の管理に関する事項は,市長ではなく,総務局長が専決することになっている。)は,当該行政財産につき申請があったとしても許可すべき義務を負うものではない。労組法上も,使用者に対し便宜供与を義務付ける規定は存在せず,かえって労組法上も経費援助は制約する方向で規定されているにすぎない。すると,平成24年度不許可処分のように,期間満了を待って公用に供する場合,不許可処分により団結権等が侵害される関係にはそもそもない。したがって,仮に平成24年度不許可処分が不当労働行為と判断されたとしても,そのことをもって違法となるのではなく,裁量権の逸脱・濫用に当たるか否かの一要素となるにすぎない。
(イ) 行政目的での使用の必要性(地方自治法238条の4第7項の不許可事由に該当すること)次のとおり,本件事務室部分は,行政事務スペースとして使用する必要がある。したがって,本件では,被控訴人らに対し,本件事務室部分の使用を許可すれば,本庁舎の本来の用途である行政事務スペースとしての使用を妨げることとなるから,同項により,そもそも目的外使用を許可することができないことは明らかである。したがって,平成24年度不許可処分は適法であり,裁量権の逸脱・濫用となる余地はない。
a 控訴人は,平成24年度の組織改編(政策企画室府市再編担当の新設(同23年12月19日。平成24年度組織改編により都市制度改革室になっている。),情報公開室監察部(平成24年度組織改編により総務局監察部になっている。)及び危機管理室の各増員)及びもともと狭隘であった協働まちづくり室(平成24年度組織改編により市政改革室地域活動活性化担当,地域ビジネス創出担当,区政支援担当,区行政システム担当,区役所業務改編担当に分かれている。)の拡張に伴い,新たに約860㎡(政策企画室府市再編担当285.8㎡,情報公開室監察部98.8㎡,危機管理室348.9㎡,協働まちづくり室125.8㎡)の行政事務スペースが必要となったため,平成24年1月12日の控訴人総務局の局議(総務局長,行政部長,総務課長等が出席する。以下「平成24年1月の局議」という。)において,本件事務室部分を行政事務スペースとして使用することを決定した。
b 被控訴人らは,前記必要性が認められない旨主張するが,以下のとおり理由がない。
(a) 本件事務室部分を行政事務スペースとする方針を決めたのは,平成24年1月の局議であるが,その必要性については,以下のとおり,平成23年度当初より認識され,検討が行われてきた。
①危機管理室には,同年3月11日に東日本大震災が発生したことにより,危機管理室に震災支援対策室が設置されたが,同年度の行政事務スペースは既に確定されており,危機管理室内にそのスペースを確保できず,やむを得ず本庁舎地下1階の総務局分室Aの一部を急きょ使用中止した上で,震災支援のための総合窓口とするなどできる限りの対応を行ったが,上記スペース不足の解消には至らなかった。なお,震災支援対策室は,平成24年4月1日に廃止されたが,その後は同スペースは従前どおり総務局分室Aとして,本庁舎以外の所属などがほぼ毎日使用しており,スペースは余剰になっていない。
②平成23年12月19日には,政策企画室に府市再編担当が発足したが,新たな行政事務スペースを確保することができず,本庁舎5階の同室内の会議室を一時的に使用し,同24年1月30日に協働まちづくり室が本庁舎5階から同地下1階の総務局庁舎管理スペース(総務局分室B)へ移転した後は,本庁舎5階の元協働まちづくり室のスペース(200㎡)を使用することを余儀なくされていた。
(b) 平成24年4月1日以降,被控訴人らとは別の労働組合等に使用させていたが使用不許可処分により控訴人において自己使用が可能となった行政事務スペース(本庁舎地下1階合計面積712.29㎡)については,次のとおり使用している。
①総務局監察部(旧情報公開室監察部)及び危機管理室の事務室(乙26の2,27の2,29の1・4・5ないし7・10・11)。なお,危機管理室の事務室として使用開始していた行政事務スペースの一部177.43㎡については,新たな行政需要の発生に伴い,同年7月17日より財政局の事務室として使用開始している(乙27及び28の各2,29の1・8・9)。
②事務室レイアウト変更に伴う改修工事を行ったスペースについては,同年5月21日より,行政委員会事務局選挙部(旧選挙管理委員会事務局)の事務室として使用開始している(乙28の2,29の1ないし3)。
③協働まちづくり室の行政事務スペースについては,現状,従前総務局の分室であった本庁舎地下1階の行政事務スペース(総務局分室B)を使用している。現状125.8㎡不足したままだが,これは被控訴人らが明け渡さないので拡幅が実現できないでいる。(乙26及び27の各2)
(c) 事務室面積算定基準(乙15)により所属(すなわち局・局級の室)
ごとの階級別人数をもとに画一的に算定される基準面積は,あくまでも各所属に対して行政事務スペースを配分する際の基準であり,建物構造上の制限や各所属に必要な設備の状況や各所属の担当する業務内容等をも考慮して具体的な配置面積を決めているのであるから,本庁舎全体で必要とされる行政事務スペースの基準面積に変更がないことや,基準面積よりも実際の配置面積の方が広いことから,行政事務スペースの必要性がないとはいえない。
(d) 平成24年1月の局議の資料として作成された乙11に不自然な点はない。必要になった行政事務スペース(約860㎡)を共用会議室(総面積約815㎡)で補おうとすると行政事務の遂行上支障が出るし,郵便局や食堂等の目的外使用許可をしているスペースを不許可にすることはできないし,職員数は減少するどころかむしろ増加しており(平成23年5月1日現在2821人(甲44の4),同24年5月1日現在2822人(甲62),同25年4月19日現在2930人(乙47),同26年4月18日現在3007人(乙113)),他に余剰スペースもなく,代替物件を提供したり,明渡条件等について事前に調整したりすべき法的義務もない。
(e) 控訴人において,平成24年度不許可処分までの間も,本庁舎狭隘化の現状が続いていたのは事実である。控訴人は,平成24年度不許可処分以前にも,他の組合に対して一部のスペースの縮小を求めており,一部の不許可処分も行っている(乙54)し,P7との交渉では「職場の事務スペースの狭隘化等について」の改善申入れ(乙100ないし103)を受けたこともある。
c 控訴人が被控訴人らと使用料の減免率の合意をしたのは平成23年12月24日であり,新たな行政事務スペースの必要ができたのは,P10市長体制になると同時に新たな府市再編担当を都市制度改革室へと組織改編し,増員することなどが決まった同24年1月以降のことであるから,時系列的に見ても不合理ではない。後にも述べるが,そもそもP10市長の方針変更は,P10市長が控訴人における不適切な労使関係の存在を重く受け止めたことの結果であって,当然のことであり,これをもって行政事務スペースの必要性が否定される理由にはならない。
仮に平成24年度不許可処分までは組合事務所を本庁舎内に設置することを継続的に許可してきたことから,上記処分までは本庁舎を組合事務所として利用させることが自治体の用途又は目的を妨げるものではなかったと推認されたとしても,本件では,P10市長の就任により平成24年度組織改編があり,従前の状況から具体的事情が変わったのであるから,これをもって必要性は否定されない。
(ウ) 控訴人における不適正な労使関係本件事務室部分の使用許可をすることが行政財産の使用を阻害せず,地方自治法238条の4第7項の不許可事由が存しないとしても,控訴人は,不許可事由が存しないからといって直ちに使用を許可しなくてはならないものではなく,合理的な裁量により許可しないことができる。そして,平成24年度不許可処分は,大阪市に従来から存在する不適正な労使関係の適正化あるいは正常化(典型的には本庁舎内で労働組合員による政治活動が行われていた事実が明らかとなり,以後,公用に供されるべき本庁舎内で労働組合員等による政治活動が行われるおそれを完全に払拭する必要があったこと)を理由としていることからすれば,十分合理的な理由があり,裁量権の逸脱・濫用はない。
a 控訴人においては,平成16年から17年にかけてのヤミ専従等,様々な職員厚遇問題が存在した。控訴人は,これらの問題に対し,平成17年8月19日に関係する管理監督者,組合役員,組合員に対して懲戒処分等を行ったほか,制度改革を行ってきたものの,同23年当時においても,依然として,無休の職務免除を上限を超えて取得した職員の存在,許可を受けない勤務時間中の組合活動等,労使間の不適切な関係が根強く残っていた。
その中,平成23年12月26日の市議会交通水道委員会において,同年11月27日施行の本件市長選挙に関連し,交通局の職員が勤務時間中に無許可で職場を離脱して本件市長選挙に関連する組合活動を行っていた事案等,勤務時間内組合活動が発覚し,控訴人は,独自に調査を行ったり,目安箱の設置(平成24年1月。乙71)により職員からの情報提供を受けたりし,さらに同24年1月12日には第三者調査チームを発足させて調査を実施した。このようにして,控訴人においては,平成24年度不許可処分までに,既に,労働組合の組合員たる職員が勤務時間中に選挙活動や組合活動を実施したこと,人事に介入していること,便宜供与を不適正に受けている等の事実が明らかになっていた。
b 控訴人は,このような状況を受け,市民への直接のサービス活動その他の行政事務を行う者としてその職にある職員が,仮に組合員としての側面であっても,公用に供される庁舎内で政治的活動を行うことは,庁舎の本来的目的に鑑みてふさわしくないと判断し,組合と控訴人との関係を一度リセットするべく便宜供与を禁止することとし,便宜供与を禁止する条例案の検討を開始するとともに,平成24年度不許可処分を行ったものである。
被控訴人らは,何ら問題のある政治活動をしていない旨主張する。しかし,被控訴人らについて,違法な政治活動がなかったからといって,一切の政治活動が行われていないとはいいきれず,少なくともそのおそれがあるというべきであるから,不許可処分の理由はあるというべきである。
(エ) 被控訴人らの受ける不利益は大きくないこと被控訴人らは平成24年度不許可処分が被控訴人らに対し組合の活動につき著しい支障が生じると主張するが,具体的にどのような支障が生じるのか何ら明らかにされていない。確かに組合が本庁舎内にあれば便利ではあるが,そのことをもって組合活動に支障が生じるものではない。
被控訴人らは,長年継続されてきた使用許可を打ち切ることから,その影響が甚大である旨主張するが,上記のとおり行政財産の目的外使用許可は例外的にのみ許され,その許否は市長の広範な裁量に委ねられているものであることからすれば,使用関係がたまたま継続的に続いていたとしても地方自治法上種々の制約が定められている上記使用許可の性質が何ら変容するものではない。
(オ) 行政財産の目的外使用許可の趣旨前記(ア)のとおり,地方自治法上の行政財産の目的外使用許可の趣旨からすれば,使用許可は例外的に許されるものであるから,地方公共団体の長には広い裁量権が認められる。控訴人らの主張は,民間企業における組合事務所の使用関係と法によって目的外使用を厳格に制限されている行政財産である本件事務室部分の使用関係を混同し,組合事務所の位置付けを過度に強調するものであり失当である。
ウ行政手続法に違反するとの主張について
(ア) 同法5条1項及び2項地方自治法238条の4第7項による行政財産の目的外使用許可は,行政庁に広範な裁量が認められているから,その審査基準に求められる具体性の程度は,方針や考慮事項といったもので十分である。したがって,控訴人が定めた本件審査基準(甲50)の中にある「事務事業上やむを得ない」という基準は,十分なものといえるから,行政手続法5条1項及び2項には違反しない。
(イ) 同法8条及び14条控訴人の担当者は,平成24年2月20日,被控訴人らに対し,平成24年度不許可処分を告知した書面を交付する際,「組織改編に伴う新たな行政事務スペースが必要になること等」の「等」には,本庁舎内で労働組合が政治活動を行うおそれを払拭したいことが含まれている旨説明しており(乙23),理由の提示に不備はないから,行政手続法8条及び14条の違反はない。
なお,行政手続法8条の立法趣旨は,行政庁の判断の慎重,合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えることであると解されるから,処分の同一性に影響しない限り,訴訟において,処分理由を追加することは許される。
(ウ) 同法13条平成24年度不許可処分は,名あて人である被控訴人らに対し,義務を課し,又はその権利を制限する処分ではなく,申請により求められた許可を拒否する処分にすぎないから,行政手続法上の不利益処分には該当しない。よって,同法13条にも違反しない。
(2) 平成25年度不許可処分及び平成26年度不許可処分(以下,まとめて「本件
両不許可処分」という。)の違法性
(被控訴人らの主張)
ア本件条例の無効
本件両不許可処分は,本件条例12条に基づくものであるところ,同条例は,次のとおり,違憲又は違法であり無効である。
(ア) 憲法28条違反本件条例は,①その目的とする「適正かつ健全な労使関係」の意味が一義的に明らかではなく,目的自体の正当性が認められず,目的と手段の関連性もないこと,②現状の労使関係が不適切であり,不健全であるという点について,具体的な立法事実の裏付けがないこと,③P10市長の,大阪市の労働組合等は悪であるというイメージを作り上げ,自らに対する支持を獲得することを最大の目的として組合弱体化意思に基づき制定されたものであること,④その目的を達成する手段として,労働組合等に対する便宜供与を一切禁止しており,必要最小限度のものとはいえないことから,団結権等の保障を定めた憲法28条に反する。
③については,当初の条例案(12条)には「労働組合等に対する便宜供与は,健全な労使関係が確保されるまでは行わない」というものであった(甲79)のに,P10市長の命令で「適正かつ健全な労使関係が確保されていると認められない限り,原則として」の部分が削られ,P10市長は適正かつ健全な労使関係にある労働組合等に対する便宜供与までも全廃することを目的として本件条例を策定したのであり,これは,P10市長が,適正かつ健全な労使関係を目指して本件条例案を作成したものではないことを表している。
また,控訴人は,P10市長は労使交渉を継続していることから組合弱体化意思がない旨主張するが,P10市長就任後の労使交渉は形骸化し,組合事務所の本庁舎の使用についての交渉は拒否しており,一方的に控訴人の結論を押しつけるだけのものとなっている。
(イ) 憲法14条違反本件条例12条は,労働組合等からの目的外使用許可申請を,合理的な理由なく他の市民や団体からの目的外使用許可申請と区別して取り扱い,これを一律に禁止するものであるから,憲法14条に違反する。
(ウ) 憲法94条違反本件条例1条が定める目的(適正かつ健全な労使関係の確保を図り,もって市政に対する市民の信頼を確保すること)は,地方公務員法1条が定める目的(行政の民主的かつ能率的な運営)に合致せず,憲法94条に違反する。
(エ) 地方公務員法違反本件条例12条は,任命権者の裁量に属するべき便宜供与について,任命権者の裁量権限を過度に制約し,地方公務員法の諸原則(同法13条,15条,27条)に反し無効である。
(オ) 憲法28条,労組法違反本件条例12条は,地方公務員の労働基本権を制約する効果が極めて大きく,団結権等の保障が全国一律であるべきことにも反し,無効である。
(カ) 労組法,地方公務員法違反本件条例12条は,便宜供与について団体交渉の余地すら否定するものであり,
イ不当労働行為
仮に本件条例が無効とされない場合でも,本件条例12条にいう便宜供与は,新たな便宜供与に限定解釈されなければならず,本件のように,従来労使関係が慣行で確立していた便宜供与を使用者が合理的な理由なしに廃止するような場合には,それは団結権等の侵害として違法となる。本件両不許可処分は,前記(1)の平成24年度不許可処分の際のP10市長の組合弱体化意思から継続しているP10市長の労働組合等弱体化意思に基づいてされた一連の処分であるから,不当労働行為として,裁量権を論じるまでもなく違法である。
ウ裁量権の逸脱・濫用
仮に平成24年度不許可処分と同様,裁量の問題としたとしても,本件両不許可処分は,裁量権の逸脱・濫用として違法である。
(ア) 行政事務スペースの必要性控訴人が本件両不許可処分の理由として主張する「行政事務スペースとして利用する必要があるため」については,①平成24年度不許可処分について述べたとおり真の理由ではないこと(本件条例12条が存在する限り,被控訴人らの使用許可申請は不許可としなければならないから,行政事務スペースの必要性が検討されたはずがない。),②本庁舎は,控訴人が定めた事務室面積算定基準(乙15)によれば,スペースに相当余裕があること,平成25年度から同26年度にかけて基準面積は全く変わっておらず(乙47,70),同26年度の本庁舎の行政事務スペースについて控訴人で検討した形跡すら存在しないこと(甲128),③控訴人は,スペース配置について本庁舎全体での調整や検討を行っておらず,他に目的外使用許可をしているスペースについて廃止や縮小の検討もしていないこと,④大阪府市大都市局(大阪府職員を含んでいることや大阪府庁内に設置することも検討されるべきこと),財政局(組織改編対象部署ではないこと(甲86),対象スペースが不明であること,本庁舎4階に相当の余剰スペースが存在したこと),こども青少年局(平成25年7月以降の計画調整局移転によるスペースの移管で賄えるはずであること)について新たなスペースの需要が生じたことについても疑わしいことなどから,不許可処分の真の理由とはいえない。
(イ) その他の裁量権の逸脱であることの根拠事実については,前記(1)(被控訴人らの主張)イで主張したのと同様である。
エ行政手続法違反
前記(1)(被控訴人らの主張)ウで主張したのと同様である。
オ本件条例12条の限定解釈の必要性
前記のとおり,本件条例12条は違憲無効なものであるが,仮にそうでないとしても,憲法94条,28条,14条,地方自治法等に反しないように限定解釈されるべきである。本件条例12条でいう「便宜の供与」とは,労働組合の自主性を実質的に失わせるような経理上の援助に該当する場合を意味するものと解すべきである。そうすると,本件条例12条は,
以上の解釈に照らせば,被控訴人らについて本件条例12条の存在を理由に不許可処分の理由とすることはできない。
(控訴人の主張)
ア本件条例が適法であること
本件両不許可処分は,いずれも,本件条例12条に基づくものであるところ,本件条例12条は,適法に成立したもので,以下のとおり,違憲とも違法ともいえず,被控訴人らの主張するような限定解釈を行う必要もないから,本件条例12条に従った本件両不許可処分が違法となる余地はない。
(ア) 憲法28条違反との点について
a そもそも労働組合等に対する便宜供与を義務付ける法令は存在しないところ,本件条例12条は,使用者の義務ではない便宜供与を行わないものとしたものにすぎないから,労働組合等の団結権等を侵害するものではなく,法令違反の問題は生じない。最小限の広さの組合事務所の供与に限れば,労組法と本件条例12条とは,前者は許容し,後者は禁止しているが,労組法は,便宜供与一般について基本的原則的には望ましくないものと考えていると解されるので,本件条例12条と労組法とで方向性は一致しており,抵触関係にはない。また,両者の目的,効果の点も阻害する関係にはない。
b 被控訴人らは,不適正な労使関係につき具体的な立法事実の裏付けがない旨主張する。しかし,控訴人において,ヤミ専従等,様々な職員厚遇問題が発覚し,それに対して制度改革を行ってきたものの,依然として労使間の不適切な関係が根強く残っており,平成23年に交通局の職員が勤務時間中に無許可で職場を離脱して本件市長選挙に関連する組合活動を行っていた事案等が発覚し,第三者調査チームによる調査の結果,労使間の,①交通局等におけるヤミ便宜供与,②実質的ヤミ専従,③大阪市長選挙での選挙活動(勤務時間中に選挙対策を打ち合わせるために公用メールを発信していたり,大阪市教育委員会でも勤務時間中に政治活動に関するビラや機関誌を配布したりするなどの事実),④全市の様々な部局における人事介入,⑤勤務時間内組合活動等が発覚した。このような報告は控訴人の調査や目安箱から収集した意見とも符合し,これらの事実があったことは明らかである。
使用者である控訴人による便宜供与こそ,不適正ないし不健全な労使関係を生じさせる原因の一つであると考えられたことから,控訴人においては,「適正かつ健全な労使関係の確保を図り,もって市政に対する市民の信頼を確保する」ために,労使関係が適正化,健全化するまでの間は,一切の便宜供与を行わないこととして本件条例12条が定められたものである。このように包括的にあらゆる便宜供与を禁止の対象としたのは,いったんゼロベースで控訴人における労使関係のあり方を見直すためである。
c また,被控訴人らは,本件条例の制定はP10市長の組合弱体化意思によるものである旨主張するが,そのような事実がないことは,前記(1)(控訴人の主張)アで主張したとおりである。また,そもそも条例は市長が専権で制定できるものではなく,条例案の提案は市長のみならず市議会議員や市議会の各委員会も提案権を有するところ,条例案の議決は,本件では地方自治法に従い,議会の議決により適法に成立し公布施行されたのであるから,仮にP10市長において条例案を上程した動機において団体権侵害の意図があったとしても,本件条例は民主的手続により有効適法に制定されたものである以上,P10市長の意図は関係がない。
なお,原判決は「組合を縛ると不当労働行為になりかねない」とのP10市長の発言が組合が弱体化することを認識していた根拠とするが,これは組合を不当に縛るような条例は不当労働行為になり得るから注意しなければならないとの見解にたっていると解釈するのが自然であるし,むしろ,P10市長が幹部に発した同じメールでは「組合の政治活動は否定しません」「政治活動が組合に認められるとしてもその組合に公金を投入する理由が分かりません」などと組合の政治活動を認める認識を有していることや,本件条例制定後もP10市長と組合は労使交渉を継続して行って適正な権利保障を図っていること(乙72ないし96),本件条例の対象が控訴人自身であることからも,P10市長が組合弱体化のために本件条例を作成したものでないことは明らかである。
また,P10市長は,本庁舎の使用許可について,市の財産が市民の貴重な財産であることを重視し,必要がない場合は労働組合に限らず使用を不許可としている。特定団体に対する補助金についても厳しく見直しを行っている。本件各不許可処分もこれら一連の取組みと同列に位置付けられるのであり,労働組合の弱体化とは無関係である。
d 被控訴人らは,不適正な労使関係を是正する目的と事務所使用を不許可とすることに関連はないとも主張するが,労働組合等において違法な政治活動が行われており,これを是正する必要が存在するのであれば,本庁舎が政治的中立性を要請される行政事務を行う根拠地である以上,その管理者としてこれを使用許可することができないのは当然である。
さらに,被控訴人らは,一律禁止が最小限度のものといえない旨主張するが,本件条例12条は,控訴人による便宜供与が不適正ないし不健全な労使関係を生じさせる原因の一つであると考えられたことから,労使関係が適正化・健全化するまでの間は,一切の便宜供与を行わないこととしたものである。このように,包括的にあらゆる便宜供与を禁止の対象としたのは,いったんゼロベースで控訴人における労使関係のあり方を見直すためで,仮に,不祥事事案に関係する便宜供与等に限って禁止した場合,禁止の対象外の便宜供与が不健全な労使関係の新たな温床となりかねないことから,その実効性を担保するためである。したがって,いったん全ての労働組合等に対する便宜供与を止めた後,将来,適正かつ健全な労使関係が確保できていると認められる状況になれば,改めて同条を改正することにより便宜供与を行うことがあり得ることは,本件条例の成立時から予定されている。
(イ) 憲法14条違反との点について被控訴人らは,本件条例12条は,労働組合等からの目的外使用許可申請を,合理的な理由なく他の市民や団体からの目的外使用許可申請と区別して取り扱い,これを一律に禁止するものであるから,憲法14条に違反するとも主張するが,そもそも労働組合等に対する便宜供与を義務付ける法令は存在しないところ,本件条例12条は,使用者の義務ではない便宜供与を行わないものとしたものにすぎないから,労働組合等の団結権等を侵害するものではないし,利用者が組合員に限定される組合事務所を,職員が等しく利用する福利厚生施設とパラレルに考えることには大きな無理があるから,本件条例12条には合理的な理由があり,憲法14条に違反しない。
(ウ) 労組法が,労働組合の自主性を担保する趣旨から同法上の労働組合に対する経理上の援助を原則として禁止していること(2条2号,7条3号)からすれば,同法7条3号が条例による便宜供与禁止を許容していないとは解されないし,本件条例の上記目的と
(エ) 本件条例1条と地方公務員法1条は何ら相反するものではない。適正かつ健全な労使関係の確保を図り,市民からの信頼を得て行政を行うことは,行政の民主的かつ能率的な運営につながるものである。
(オ) 地方公務員法13条,15条,27条は,便宜供与に関する規定ではないから,本件条例12条と抵触することはない。
(カ) 本件条例12条は,団結権等の保障を直接的又は間接的に制約するような上乗せ規制をするようなものではないから,前記(被控訴人らの主張)ア(オ)の主張は,失当である。
(キ)
イ裁量権の逸脱・濫用として違法か
目的外使用不許可処分が違法となるかどうかは,地方自治法238条の4第7項違反かどうかによるところ,仮に不許可処分が不当労働行為に当たるとしても,そのことから不許可処分が当然違法になるものとはいえず,不当労働行為に該当すること自体は,裁量権の範囲内かどうかを判断する際の一つの要素となり得るかもしれないというにすぎないものであることは,前記(1)(控訴人の主張)イ(ア)において主張したとおりである。本件両不許可処分は,本件条例12条に従った処分であることから,そのことのみで既に適法である。さらに,平成24年度不許可処分と同様,この時点でもなお本件事務室部分は行政事務スペースとして使用する必要があり,地方自治法238の4第7項上,事務所を使用させることが行政財産の用途又は目的を妨げており,許可をすることができなかったのであるから,裁量の逸脱・濫用となる余地がない。
(ア) 行政事務スペースとしての必要性
a 本庁舎の行政事務スペースは,もともと慢性的に不足していたところ,平成25年度の組織改編において,①従前の都市制度改革室(同24年5月1日の職員数34人)が再編・拡充され,大阪府市大都市局(同25年4月19日の職員数102人(全員大阪市職員。地方自治法252条の13・252条の9第5項),基準面積1001㎡。乙47)が設置されるとともに,②本庁舎以外の場所に分散配置されていた固定資産評価に係る路線価の付設に関する事務及び土地評価に関する企画事務を行う財政局の組織の本庁舎への集約(本庁舎地下1階共通会議室スペース。乙49。88.4㎡必要であった。乙63)や,③待機児童解消の施策を進めるためのこども青少年局の拡充(同24年5月1日の職員数206人,基準面積1465㎡が,同25年4月19日には職員数257人,基準面積1813㎡となった。
なお,計画調整局(都市計画局に改称)の一部が同25年7月以降移転しているが,時期を見れば,こども青少年局の需要は賄うことができない。)等が決定され(同25年2月21日の総務局局議で決まった。乙61),さらに本庁舎の狭隘化が進んだ(同24年5月1日の職員数2822人,基準面積2万0471㎡が,同25年4月19日には職員数2930人,基準面積2万1572㎡となった。)。
そのため,控訴人は,平成25年度及び同26年度も,平成24年度からき続き本件事務室部分を行政事務スペースとして使用する必要があった。したがって,被控訴人らに対し本件事務室部分の使用を許可すれば,本庁舎の本来用途である行政事務スペースとしての使用を妨げることとなるから,地方自治法238条の4第7項により,その目的外使用を許可することができないことは明らかであり,本件両不許可処分は適法である。
b 平成25年度不許可処分から平成26年度不許可処分までの間,控訴人においては各部署から新たな行政事務スペースの配分を求める要望があり,およそ被控訴人らに対して目的外使用許可を行える状況にはない。具体的には,平成25年4月には市民局から住民情報システムの機種更新に係るシステム室のスペース要望が,同年5月には危機管理室からの自然災害等に即座に対応するための宿直室の要望が,財政局から公会計制度の導入に伴い会計室と共同で開発する公会計システム開発室の要望が,同年11月には福祉局からの消費税増税に伴う簡素な給付措置の支給事務に係るスペースの要望(検討の結果本庁舎内でのスペースの配置は断念した。),同26年1月には,健康局から病院局の独立行政法人化に伴う窓口業務の事務スペースの要望がある等,各部署から新たな行政事務スペースの要望があり,被控訴人らに対し使用許可できる状態ではない。
c 原判決は,平成24年度不許可処分が組合侵害の意図をもって行われた以上,平成25年度不許可処分時の平成25年度の組織改編も,本件事務室部分を労働組合に使用させないことを前提に行われたものであるなどとする。しかし,上記組織改編は府市一体となって新たな大都市の実現に向けた制度設計を行うことであり,大阪府市大都市局を設置したり,待機児童対策や保育所の民営化などの保育に関する問題解決のため新たに保育施設部を新設したり大阪市の様々な課題を解決するため所管局でそれぞれ検討し,組織を管理する人事室とポストや要因の確保を行って実施しているのであり,労働組合に使用させないために新たに設置できるような簡単なものではない。また,原判決は,控訴人においては行政事務スペースが不足していると主張しながら,事務所の退去を求める以外利用面積の減少等の方策を何ら行っていない旨指摘するが,控訴人においては,郵便局についてはその必要性についてアンケートを行うなどスペースの減少の余地を検討しているし,売店や食堂は,職員のみならず一般市民にも必要であることからすれば,これを立ち退かせないことが組合退去の必要性と同じとはいえない。市政記者室は組合と同列に論じられるべきものではない。
そもそも,行政事務スペースの不足は,労働組合においても認識していたところである(乙100ないし103)。
控訴人が行政事務スペースをどのように使用するかは裁量に委ねられているのであって,裁判所が控訴人と同じ立場に立って行政事務スペースの使い方を論じることは相当でない。
d 平成26年度当初の組織改編については,各所属からの要望がなく,かつ,組織管理を行う部署に確認した結果,本庁舎の事務スペースの変更にかかわる事案が確認できなかったため,同26年度当初に係る行政事務スペースに関する局議は実施していないだけである。
e 本庁舎地下1階教育委員会事務局スペースは,完全な遊休スペースではなく,本庁舎3階の教育委員会事務局の会議室として使用されている。
(イ) 仮に本件事務室部分(44.49㎡)だけを取り出してみれば,これを行政事務スペースとして利用する必要があるとはいえないと判断されたとしても,組合間差別を回避するため,被控訴人らに対し使用を許可しないことは裁量権の範囲内であると考えられる。
ウ行政手続法違反について
前記(1)(控訴人の主張)ウと同じ
(3) 故意過失,損害の有無等
(被控訴人らの主張)
上記のとおり,本件各不許可処分は,P10市長が,継続的に本件事務室部分を使用してきた被控訴人らに対し,合理的な理由が全くないにもかかわらず,被控訴人らの弱体化を企図し,被控訴人らに対する説明や協議もせず,一方的に本件各不許可処分を行ったものであり,被控訴人らの団結権等を侵害するもので,その理由について十分な調査・検討をすることなく,行政手続法所定の手続も履行していないことからすれば,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くしておらず,国家賠償法1条1項の違法があるとともに,P10市長に故意・過失が認められる。
なお,控訴人は,本件両不許可処分については,本件条例に基づくものであるから故意過失の余地はない旨主張するが,本件条例は違憲・違法であり,その適法性等に疑義があることはP10市長及びその職務代理者も認識し又は認識し得たから,本件条例の解釈適用を誤ったP10市長及びその職務代理者の過失を否定することはできない。
さらに,控訴人は,少なくとも平成26年度不許可処分を行った職務代理者は市長とは別人格である旨主張するが,職務代理者もP10市長の団結権侵害意図に基づく不許可の方針に従ったことは明らかであるから,そのような意図があったか,少なくとも過失がある。
上記違法行為により,被控訴人らが被った有形無形の損害は,各被控訴人について,各処分ごとに200万円を下ることはない。さらに,各損害額の1割である20万円が,弁護士費用相当額として,同違法行為と相当因果関係のある損害である。
(控訴人の主張)
争う。本件各不許可処分はいずれも適法であるから,故意過失の問題は生じない。また,本件両不許可処分は,議会の議決を経て適法に成立した本件条例に従った適法な処分であるから,国家損害賠償法上の責任はない。
なお平成26年度不許可処分の主体は職務代理者であり,議会の議決を経て適法に成立した本件条例12条が施行されている状況にある以上,本件条例に従って職務を全うせざるを得ないのであるから,公務員の法令遵守義務に照らしてもこのような場合にまで職務代理者に故意過失があるとすべきではない。市長と職務代理者とを同一視するのは乱暴な議論である。
(4) 平成26年度不許可処分に係る義務付けの訴えの適否
(被控訴人らの主張)
平成26年度不許可処分は,P10市長が,労働組合等の排除を意図し,被控訴人らの団結権等を侵害する違法な処分であり,裁量権の逸脱・濫用であるから,行政事件訴訟法37条の3第5項により,本件事務室部分に係る目的外使用許可処分がされなければならない。
(控訴人の主張)
争う。
(5) 本件事務室部分の明渡請求が権利の濫用か否か
(被控訴人らの主張)
本件各不許可処分は,いずれも被控訴人らの団結権等を侵害しており,又は市長の裁量権を逸脱・濫用したものであって,大阪市長は,被控訴人らに対し,本件事務室部分につきその使用を許可しなければならない立場にある。
そして,前記(1),(2)の(被控訴人らの主張)のとおり,控訴人の不法性・不当性は顕著であり,このような者の権利について法的救済が許されるはずがなく,控訴人の明渡請求は,権利の濫用であり,信義則に反して許されない。
(控訴人の主張)
争う。
(6) 使用料相当損害金の額
(控訴人の主張)
本件事務室部分の使用料相当損害金は,次のとおり,1か月17万6830円を下らない。控訴人における行政財産の目的外使用に係る使用料は,大阪市財産条例7条に基づき算定しているところ,本件事務室部分の使用料は,1㎡当たり1か月3785.35円とされており,これに被控訴人らが占有している面積44.49㎡を乗じ(円未満切捨て),消費税を加えると,本件事務室部分の使用料は,1か月17万6830円となる(乙8)。
(被控訴人らの主張)
否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 地方自治法238条の4第7項による使用許可の趣旨等
(1) 憲法92条は「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は,地方自治の本旨に基いて,法律でこれを定める。」旨,同94条は「地方公共団体は,その財産を管理し,事務を処理し,及び行政を執行する権能を有し,法律の範囲内で条例を制定することができる。」旨規定する。これらを受けて,地方自治法が制定されているが,同法は,1条で「この法律は,地方自治の本旨に基いて,地方公共団体の区分並びに地方公共団体の組織及び運営に関する事項の大綱を定め,(略),地方公共団体における民主的にして能率的な行政の確保を図るとともに,地方公共団体の健全な発達を保障することを目的とする。」旨,また,1条の2第1項は「地方公共団体は,住民の福祉の増進を図ることを基本として,地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする。」旨規定している。以上によれば,地方公共団体が地方自治の本旨に基いて財産を管理し,事務を処理し,及び行政を執行する権能は憲法に由来し,憲法上保障されているものであり,地方公共団体は,住民の福祉の増進を図ることを基本として民主的にして能率的な行政を執行すべき責務を有しているということができる。
ところで,本件各不許可処分の根拠条文である地方自治法238条の4第7項は「行政財産は,その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができる。」旨,同条9項は「第7項の規定により行政財産の使用を許可した場合において,公用若しくは公共用に供するため必要を生じたとき,又は許可の条件に違反する行為があると認めるときは,普通地方公共団体の長又は委員会は,その許可を取り消すことができる。旨規定している。
」本庁舎のような公有財産であり,かつ公用に供される行政財産は(同法238条1項,3項及び4項),専ら本来の用途である公用に供されてその機能を発揮することが要請される財産であるから,私権の設定は原則として禁止されており(同法238条の4第1項),公用以外での使用も原則として禁止され,その用途又は目的を妨げない限度で使用が可能となり,その場合でも,使用許可をしなければならないものではなく,使用許可をすることができるというものにすぎない(同条7項)。そして,いったん使用許可がされた場合でも,公用若しくは公共用に供するため必要を生じたときは,その許可を取り消すことができるとされるのであり(同条9項),行政財産の目的外使用許可及びその取消しにおいては,行政財産が公用又は公共用に供されるべきこと,すなわち行政庁側の使用の必要性が重視され,他方で,使用許可を受ける者の使用の必要性は行政庁側の使用の必要性に劣後するというのが,目的外使用許可制度の趣旨ということができる。
以上に照らせば,目的外使用を許可するか否かは,その用途又は目的を妨げないことを前提とした上で,原則として,行政財産管理者の合理的な裁量に委ねられているものと解するのが相当である。そして,行政財産管理者の裁量判断は,許可申請に係る使用の日時若しくは期間,場所,目的及び態様,使用者の範囲,使用の必要性の程度,許可をするに当たっての支障又は許可をした場合の弊害若しくは影響の内容及び程度,代替施設確保の困難性等許可をしないことによる申請者側の不都合又は影響の内容及び程度等の諸般の事情を総合考慮してされるものであり,その裁量権の行使が逸脱・濫用に当たるか否かの司法審査においては,その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で,その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し,その判断が,重要な事実の基礎を欠くか,又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って,裁量権の逸脱又は濫用として違法となるものと解するのが相当である(最高裁
(2) 以上の理は,労働組合等が行政財産の目的外使用許可を受けて組合事務所として使用する場合においても変わらないというべきである。
地方公共団体に任用される職員をもって組織される労働組合等は,その勤務条件の維持改善を図ることを目的とするものであり,憲法28条により団結権等が保障され,労組法の適用がある場合には,使用者による不当労働行為が禁止されている(
2 平成24年度不許可処分の違法性等について
(1) 認定事実
前提事実,証拠(乙11,52,53,61,原審証人P15,後掲の書証)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められ,この認定を左右するに足りる証拠はない。
ア(ア) 大阪市においては,平成16年から同17年にかけて,カラ残業,ヤミ年金,ヤミ退職金,ヤミ専従など様々な職員厚遇問題が表面化した。これを受けて,各種改革が実施され,労使癒着の構造にメスが入れられ,時間内組合活動の適正化,本庁舎地下1階における組合本部への便宜供与の見直し,各庁舎における組合支部への便宜供与の見直し,組合との交渉内容の公表,組合に対する本庁舎駐車場の目的外使用の不許可等の施策が講じられた。しかし,その後も,特に現業部門を中心とした労使癒着の構造は十分に解消されなかったほか,プール金等の不適正資金問題の発覚,重大事犯の頻発,職場規律の緩み,区役所と地域団体との不透明な関係,違法ないし不適切な政治活動の事象が見られた。(乙30)(イ)P10市長は,大阪府知事在任中から,次のような見解を公開していた。
a 平成23年2月2日
「P7が市長をかついで,職員厚遇は日本一。」「そもそも職員数が多過ぎ!!全部市民の皆さんの税金。」(以上甲30の1),「もう今までの大阪市役所のやり方を改めましょうよ。職員組合が市長をかつぐ,(略)まともな市役所に戻って,市民の信頼を得るよう頑張りましょうよ!!市民の決定に従う役所へ。」(以上甲30の2),「職員組合,市長,一部の補助金受領者の鉄のトライアングル,大阪市役所中之島一家を,本当の大阪市民のための市役所へ再生させましょう。」(以上甲30の3),「職員組合=P12が市長を選挙でかつぐという構図を崩さないと,大阪市役所は市民のための役所にはなりません。市役所が地域の一部の人に補助金をばらまき,彼らが市長選で集票マシーンになる。」(以上甲30の4)
b 同年2月4日
「本当は市町村長が民意を組織に伝えないといけないのに,多くの市町村長は職員組合から応援を受けて選挙に当選する。職員組合=P12で,P12の応援を受けたP16市長もね。」(甲30の5)
c 同年2月6日
「P7が,まあ必死になって市議会議員を当選させる。そんな市議会議員だらけの大阪市役所が改革なんてできるわけない。P13は,大阪市民を守るため大阪市役所を潰します。」(以上甲30の6),「P1は凄まじい政治活動で職員代表の市議会議員を市議会に大量に送り込む。」(以上甲30の7),「今の大阪市議会,大阪市役所は,職員の,職員による,職員のための(略)市役所。そしてそれを支えるのがP7を支持母体とする大阪府のP12。(略)市長も市議会も職員組合と手を切らない限り,大阪市役所の再生はない」(以上甲30の8)
d 同年2月18日
「大阪市役所体制は,関係団体とともに職員組合も一致団結します。
そこに大阪府のP12。これで市長を担ぎ出し,大阪市役所から補助金をもらい,天下りを始めとする職員厚遇をやり続ける。どうですか,皆さんこの構図!」(甲30の10)
e 同年3月11日
「P17,職員組合,そしてP18の恐ろしい実態が・・・市職員は自分の身分と生活が第一。」(甲30の14)
f 同年9月13日
「ところが大阪市民はP1に担がれたP16市長を当選させた。得をしたのは,大阪市職員である。大阪府はそのまま放置していたらとんでもない数字になっていた。」(甲30の23)
g 同年10月15日
「今のP16市長は,P13に反対すること,今の大阪市役所体制,P7を守ること,そして市長になることだけが目的となっている。」(甲30の25)(ウ)本件市長選挙により,P10市長が当選し,平成23年12月19日に就任した。P10市長は,同月24日に開催された控訴人の戦略会議において,労働組合等に対する事務室使用料の減免措置につき,「24年度までは覚書があるのなら,僕は25年度から減免なしということで考えているので,よろしくお願いする。」旨発言した(甲32の1)。
(エ) 平成23年12月26日,市議会交通水道委員会において,P19議員から,交通局職員の内部告発に基づき,勤務時間中に選挙活動をするためにバス乗務時間の少ない特殊ダイヤによって従事した者がいること,机の引出しに「選挙関係」というラベルが貼られ,その中に選挙活動関係の書類が多量に入っている机があること,事業所の公用電話が選挙活動に使用されていることが指摘された。
交通局の担当者は,職員2名がバス乗務以外の業務に偏って従事していたこと,組合活動を行うため本来の終業時刻より早く退勤した者がいたことを確認した旨回答した。また,P19議員が,交通局の本局庁舎内においても,本件市長選挙前に前市長の推薦者カードが勤務時間内に配布されたり,選挙期間中に候補者を支援する内容の労働組合の新聞が数回にわたり卓上に配布されていると聞き及んでいる旨指摘したのに対し,交通局の担当者は,指摘された事実を調査し,厳正に対処する旨述べた。
さらに,P19議員から答弁を求められたP10市長は,「一度,組合と今の市役所の体質についてはグレートリセットをして,一から考え直したいというふうに思っています。今まで認められてきた組合活動についても一回リセット。まずは厳格に,まずは認めない方向からどこまで法的に認められるのか,それは法的に認められるとしても,別にそこまで認める必要がないんであれば認めません。」「組合の事務所も,どうもこの地下にあるんですかね。(略)公の施設の中での政治活動というのは(略)これは公の施設はいろんな政党支持者の人からの納税で支えられている施設なわけですから,そんなところで政治活動なんてするのはあってはならないことである中で,次々といろんな問題が出てきますから,事務所には公のこの施設からまず出ていってもらうというところからスタートしたいと。」「大阪市役所のこの組合問題というのは,もう長年市民の皆さんがいろいろ不満に思っていたところがあるんですが,(略)これは徹底的にやっていきたいと思っています。」「ただ,職員が本来の組合活動として,勤務労働条件とかそういう労働環境を整えるために使用者側と交渉するとか,これはもう当たり前の権利ですから,それはもう当然認めてですね。それから,この庁舎以外のところでやる政治活動というのは,これはもう自由です。(略)しかしこの庁舎内においてはこれは別ですしね。」などと答弁した。(甲32の2)。
(オ) 平成23年12月28日の市議会定例会の施政方針演説の中で,P10市長は,「大阪市役所の組合問題にも執念を燃やして取り組んでいきたいと考えております。大阪市役所の組合の体質はやはりおかしいという風に率直に感じます。この庁舎内で,政治活動をすることは,これは当然許されません。」「組合が,この公の施設で,政治的な発言を一言でもするようなことがあれば,これは断じて許せません。」「選挙による民主的統制を受けていない職員組合が政治活動ということを少しでも行うことは,これはあってはならないことです。そういうことを今まで許してきた大阪市役所の体質を徹底的に改めていきます。」「大阪市役所のこの組合の体質というものが,今の全国の公務員の組合の体質の象徴だと思っております。ギリシャをみてください。
公務員,公務員の組合という者をのさばらしておくと国が破綻してしまいます。ですから,大阪市役所の組合を徹底的に市民感覚にあうように是正,改善していくことによって,日本全国の公務員の組合を改めていく,そのことにしか日本再生の道はないというふうに思っております。」と述べた(甲32の3)。
(カ) P10市長は,平成23年12月29日の全局長及び全区長に対するメールで,「P13のP19議員の指摘を受けて,交通局の組合支部に対する便宜供与を一斉に一旦ストップします。リセットです。(略)区役所その他は,公の施設そのものですから,基本的に便宜供与は一切ストップする方針です。正式に賃料をもらっている組合事務所のみ,今後の扱いをどうするかを議論し,賃料をもらっていない支部などへの便宜供与は全てストップというのが僕の方針です。」と記載して送信した(乙50)。
(キ) P10市長は,平成23年12月30日の全局長及び全区長に対するメールで,「現行法上認められる組合の政治活動は否定しませんが,公金を投入することは一切止めます。(略)組合にP13支持者の税を入れる必要性も理由もありません。(略)組合への家賃減免は直ちに止めます。庁舎内で政治活動をすることは認めませんので,組合の立ち退き手続きを直ちに始めたいと思います。年明けに大阪市としての機関決定をします。(以上甲58の1,」乙51),「組合適正化制度を作ります。
(略)公の施設内での便宜供与は禁止。賃料をとっている事務所(これも早期に退去を求めます)を除いて,まず公の施設内での組合への便宜供与は全て完全に止めます。(略)以上のルールを破った,所属,職員には厳罰です。」(以上甲58の2,乙33),「法律上は,現業職の組合には地方公務員法の適用がなく,政治活動が認められるのでしょう。
(略)直属の上司を選ぶ選挙にここまで深くかかわり,そして撲自身に対してここまで明確に批判をした組合に,僕はどのように上司・部下の信頼関係を築けと言うのでしょうか?公務員組織は,首長が組織に厳しい政治決定をすれば,何かある度に組織の士気が低下すると言いますが,職員サイドがここまでの組合活動を展開して,それでも僕は組合職員のために人生かけて仕事をしなければならないのでしょうか?(略)法律上認められているからと言って,何でもかんでやるのは思慮が浅い。権利ばかり主張する集団の典型例。」(以上甲91)などと記載して送信した。
(ク) P10市長は,平成23年12月31日の全局長及び全区長に対するメールで,「対組合関係適正化条例を制定します。(略)組合を縛ると不当労働行為となりかねないので,あくまでも市役所組織を縛る条例とします。(略)政治活動をする公務員組合に公の税を投入すること(本来徴収すべき金員の減免)は,当該組合の政治的主張と相反する政治的主張を持つ市民の税金を投入することになる。(略)組合の公の施設内での政治活動厳禁組合に対する便宜供与の厳禁・勤務条件等の一般原則(法律上の義務以外は認めない等)その他,組合との関係を適正化条例案を詰めて,できれば2月議会で提案したいです。」と記載して送信した(甲58の5)。
(ケ) P10市長は,平成24年1月4日の幹部職員への年頭あいさつ(乙116)や記者会見で(甲32の5,143),組合との適正化に関連する条例案を2月議会を目指して準備に入りたいと述べ,また,「(組合事務所の関係で,記者からどこまでやるつもりなのかとの問いに対し)どんどんエスカレートというふうに取られるんでしょうけども,それはやっぱり市議会でのああいう事実の摘示ですよね。市議会でやっぱりああいう組合活動,不適切な政治活動というものが指摘されたことを重く受け止めて,それによって行政の意思を変えていったということですから,議会による指摘によって,行政判断を変えたという,(略)それによって行政判断を変えたということです。」「組合が組合に認められてる,その正当な活動は保障しますよ,これは。当たり前です。
(略)だから,僕が言ってるのは,組合の不適切な活動については厳しく正していきますよということです。「不適切な活動の1つはまず,」公の施設内での政治活動,(略)これは公の施設内ではダメですよ。
(略)それから,じゃあそれをね,やめますと,今後注意しますというふうに言ってるんですが,ずっとこういうことが続いてきて,「やめます,やめます」と言っても,今こういう状況の事実が出てきたわけですから,やっぱり僕はリセットすべきだと。(略)それをやりたいんだったら,どうぞ外でやって下さいと。」「それからもう1つは,この市役所の地下にある事務所については,(略)二千万円の,年間二千万円の家賃補助ですよ。(略)それは政治活動の方のサポートに公金が充てられてるのか,純粋な組合活動のために公金が充てられてるのか金に色はないわけですから,そんなのは区分けができないのでね,政治活動やるという以上は,それはもう家賃減免含めて公金のサポートはやっぱり一切できないと。(略)だから外に出て,それから税金のサポートも受けなければ,組合何やったって僕は何も言えないわけですよ。そういうふうにしたらいいんじゃないでしょうかね。と述べた。
」(コ) 控訴人のP11総務局長は,平成24年1月18日,労働組合等に対し,P10市長の指示の下,労使関係の適正化を図るため,労使関係の実態調査や労使間ルールの見直しの検討を進めているところであるとした上,現在許可している各組合支部への庁舎スペースの便宜供与を取り消す旨及び組合本部事務所の使用許可の取扱いについては改めて示す旨通知した(甲36,37)。そして,同総務局長は,同月20日の市議会決算特別委員会において,「今回,市長の方針を受けまして,労働組合事務室の使用許可につきましては,平成24年度以降は許可せず,速やかに退去を求めていきたいと考えております。」との答弁をした(甲142)。
(サ) P10市長は,平成23年12月26日に市議会交通水道委員会において,実質的ヤミ専従及び勤務時間内組合活動が問題となったことから,同24年1月,市職員以外の第三者からなる調査チームにより,大阪市役所における違法行為等の実態を徹底的に解明することにし,第三者調査チーム(代表大阪市特別顧問(P20大学法科大学院教授・弁護士)P21ほか14名)の調査は,各方面で様々な方法で実施され,一部では違法な調査であるとの批判も受けたが,同24年4月2日,第三者調査チームの調査報告書が提出された(乙30)。
(シ) P10市長は,平成24年2月5日以降も,次のような見解を公開している。
a 同年2月5日
「大阪市役所のP1の凄まじい選挙活動はどうなんだ?P22のもの凄い選挙運動はどうなんだ?職員OBまで巻き込んで,直接選挙運動をやっている。しかも組合の名の下に,事務所を構えるのに年間2000万円を超える税の支援を受けながら。」(甲30の28),「職員組合,役所組織が,首長選挙に介入することなど普通になっているのが現状。」(甲30の32),「公務員組合,P22のえげつない政治活動をなんとかしなきゃならない。一有権者の政治活動は保障する。民間企業の組合の活動も自由。しかし強烈な力を持ち,自分たちの社長を決める選挙活動を自由にするのは違うと思う。」(甲30の33),「公務員が一有権者として政治活動をするのは自由だが組合や役所組織をかたって政治活動をするのは禁じなければならない。」(甲30の34),「公務員組合,P22が,職場環境の是正を訴えるために労使対等な立場に立つのは当然のこと。しかしそのような組合本来の活動を超えて,完全に政治集団化している。組合と名乗っているが,れっきとした政治団体だ。政治団体としての規制は必要である。」(甲30の35)
b 同年2月6日
「公務員組合の政治活動に一定のルールを設けなければならない。」(甲30の38),「こういう実態は,組合から応援を受けていた前市長の間は,全く問題視されず,当たり前のことだった。そういう組合に対して,税金で数千万円の支援をして役所に組合事務所を置いている。」(甲30の40)
c 同年2月24日
「大阪市役所の過去の行状からすれば市民から疑念を持たれても仕方がない。これを否定するのは市民感覚からかけ離れている組合員・職員だけだろう。ならば疑念を晴らして,市民からの信頼を取り戻す。
まずはそこからスタート。」(甲30の48)(ス)P10市長は,平成24年3月16日の記者会見において,「それは大きな誤解があって,例えば便宜供与っていうのは,これはほかの企業がやってるから全部やれっていう基準じゃないですよ。僕はだから労働組合に対して,法律上認めなければいけない権利っていうのは当然認めますけどもね,これ組合に対する便宜供与っていうのはどっちが原則かっていったら便宜供与しちゃいけないんですよ,本当は。組合に対して自主独立,要は使用者側が財政的な支援とか便宜を与えて組合と馴れ合いの関係にならないように原則は便宜供与しちゃいけない。必要最低限,必要最小限の範囲で便宜供与をすることができるという規定なんです。(略)必要最小限の便宜供与,使用者側のほうが組合に対して必要最小限の利益を与えることができるという規定ですから,これ与えなくても当たり前の話なんです。(略)だから僕は当たり前に戻すというだけですね。(略)あまりにも大阪市役所の場合には使用者側と労働組合が,特にトップと労働組合がなあなあの関係,ずるずるの関係,ずぶずぶの関係だったわけですから,この部分については普通の企業以上に線を引いていく,一線を画すっていうのが,僕は市民が求めている僕に対する声だというふうに思っています。」と述べた(甲32の13)。
イ(ア) 本庁舎は,昭和57年頃に建設されたが,その当時から行政事務スペースは狭隘であった。P7は,平成20年,22年及び24年に,総務局長に対し,事務所狭隘化等について改善の要望を出していた。(乙67,100ないし103)しかし,P10市長が市長に就任する前は,労働組合等に対して目的外使用許可をしていた本庁舎地下1階のスペースを行政事務スペースとして使用することは検討されていなかった。
(イ) 本庁舎における行政事務スペースの狭隘化が進み,その新たな確保は容易ではなく,担当部局である総務局(目的外使用許可関係の決裁は専決規程で総務局長決裁となっている。)では,当該所属の要望があっても断ることが多い実情になっていた。総務局としては,合理的理由がある場合には事務スペース確保を検討することになるが,まず当該所属で確保できないかを検討させ,無理な場合に,他の所属との協議調整に入ることになる。他の所属との協議調整については,人事室などの関係部署に確認して調整していくことになる。この過程の中で,事務室の構造や,消防設備機器,避難誘導経路などの制約があるほか,費用,効率などの要素も考えなければならない。事務室面積算定基準(乙15)は,必要な事務室面積を算定するための唯一の基準であるものの,同基準が作成されたのは昭和55年頃であり,現在のようなOA関連機器設置スペースや共通会議室は基準に入っていないし,外部委員の委員会室も基準に入っていない。したがって,事務室面積算定基準は最低限度の基準を示すものにすぎず,運用としては,算定面積に5%から20%の範囲で増加させることが行われている。
(ウ) 平成23年に入り,行政事務スペースは不足していた。例えば,同年3月11日に東日本大震災が発生したことにより,危機管理室に震災支援対策室が設置されたが,同年度の行政事務スペースは既に確定されており,危機管理室内にそのスペースを確保できず,本庁舎地下1階の総務局分室Aの一部を急きょ使用中止にした上で,震災支援のための総合窓口とするなどの対応を行ったが,上記スペース不足の解消には至らなかった。なお,震災支援対策室は,同24年4月1日に廃止されたが,その後は同スペースは従前どおり総務局分室Aとして,本庁舎以外の所属などがほぼ毎日使用しており,スペースは余剰になっていない。また,同23年12月19日には,政策企画室に府市再編担当が発足したが,新たな行政事務スペースを確保することができず,本庁舎5階の同室内の会議室を一時的に使用し,同24年1月30日に協働まちづくり室が本庁舎5階から同地下1階の総務局庁舎管理スペース(総務局分室B)へ移転した後は,本庁舎5階の元協働まちづくり室のスペース(200㎡)を使用することを余儀なくされていた。
(エ) P10市長が,平成23年の年末に,本庁舎地下1階の労働組合等が目的外使用許可を受けて使用しているスペースの退去を求める方針を明らかにしたこと,平成24年度の組織改編に伴う行政事務スペースの配分を検討する時期が来たこと,各所属から総務局に対し行政事務スペース配分の要求があったこと,P10市長就任直後から新たな施策による行政事務スペースの需要が生じたこと等のことから,担当部局である総務局においては,同24年1月初め頃から,事務方においてこの検討に入った。総務局行政部総務課課長代理P15(以下「P15課長代理」という。)は,同月5日頃,P23総務課長代理から,同24年4月段階でどれくらいの事務スペースが必要かを算定するようにとの指示を受け,P24総務課長やP23総務課長代理が当該所属から受けていた依頼要請を伝えられた。この中には,乙11記載の府市再編担当,情報公開室監察部,危機管理室,協働まちづくり室以外からの要望はなかった。
(オ) P15課長代理は,平成24年1月10日までに,事務室面積算定基準に従って算定した数値に最低限度の加算として5%を加算して不足面積を算定した乙11を作成し,同月12日に開催された平成24年1月の局議において配布した。同局議には,総務局長,行政部長,総務課長,P15課長代理等が出席した。同局議では,乙11のとおり,府市再編担当,情報公開室監察部,危機管理室,協働まちづくり室の事務室狭隘のために約860㎡の事務スペースが不足することが共通認識となり,併せて,総務局長からは,P10市長から庁舎内での政治活動が行われる疑いを払拭したいということで組合事務所の退去の検討指示を受けていたことが提示され,結局,乙11の内容が確認され,不足スペースは労働組合等の使用スペース約756㎡を活用することが決定された。ちなみに,本庁舎において目的外使用許可を受けている者はほかにもいるが(乙18),これらのスペースを減らすことは検討されていない。
ウ(ア) 上記イ(オ)の決定後,総務局内において労働組合等に対する説明の仕方を検討していた段階で,労働組合から,組合事務所の退去についてはどうなるのかとの電話があった。総務局側は,まだ指示を待っている段階だとの趣旨を答えた。平成24年1月25日及び26日の両日,P23総務課長代理及びP15課長代理は,労働組合等に対し,行政需要のために事務室が必要であり,平成24年度の目的外使用許可申請は不許可になることを説明した。この際には,庁舎内での政治活動が行われる疑いを払拭するとの理由は説明しないことにされていた。P9のP25書記長は,スペース不足が理由ではないだろう,不許可の理由に政治集団には貸さないと書けばいいと指摘した。(乙56)(イ)控訴人は,平成24年1月30日,被控訴人らに対し,①被控訴人らが使用している本件事務室部分について同24年度以降は行政財産の目的外使用許可を行わない方針である旨,②原状回復の上,同年3月31日までに本件事務室部分から退去することを求める旨の文書を交付した(甲3)。なお,控訴人は,被控訴人ら以外の労働組合等に対しても,本庁舎からの退去を求め,これらの労働組合等の占有面積は756.78㎡であった。被控訴人らは,同24年2月17日,控訴人に対し,本件事務室部分につき,使用期間を同年4月1日からの1年間として,行政財産の目的外使用許可申請をしたところ,P10市長は,同年2月20日,平成24年度不許可処分をした。同不許可処分を告知した書面(甲6,乙4)には,理由として,「組織改編に伴う新たな行政事務スペースが必要になること等から,貴組合から申請されている44.49㎡については,事務室として使用することを予定している。」と記載されていた。その際,控訴人は,被控訴人らに対し,上記理由を敷衍して,「府市再編部門,危機管理室,情報公開室監察部,協働まちづくり室の事務室狭隘のために約860㎡の事務スペースが不足しております」と記載した書面を交付した。(以上前提事実)庁舎内での政治活動が行われる疑いを払拭するとの理由が上記の被控訴人らに渡した文書に記載されていないことについては,総務局担当者が発出文書の法律事務所によるリーガルチェックを受けた段階で,書かない方がいいのではないかとのアドバイスがあったことから,この点は明記することなく,甲6の方の「必要になること等」「等」のに含ませることとし,この部分については,総務局担当者が口頭で労働組合等に説明した。
(ウ) 平成24年4月1日現在での組織改編後の情報公開室監察部,協働まちづくり室,危機管理室の職員数,基準面積及び配置面積は,乙11とは異なっており,情報公開室監察部(総務局監察部)が222㎡,協働まちづくり室(市政改革室)が187㎡,危機管理室が357㎡となっている(甲63,乙27の2)。これは,乙11が同年1月段階での情報により作成されており,その後の変動を反映できないことや,各所属においてスペースの割り振りをすることになったが,労働組合等の退去情報も入ってきたりして,同年3月頃になって割り振りが確定したことなどによるものである。
(2) 上記認定の補足
ア被控訴人らは,乙11が平成24年1月10日段階で作成されていたことは疑わしい旨主張する。被控訴人らの主張の根拠は,控訴人が府労委に提出した証拠説明書において乙11の作成日を同年6月8日と特定していたこと(甲45の1・2)であるが,控訴人は,被控訴人P1から指摘(甲46)を受ける前の同年8月31日付けで本件訴訟において乙11の作成日付を同年1月10日付けであるとする証拠説明書を提出している経過があること(乙60,顕著な事実)に照らして,上記甲45の1に記載の作成日付は単なる誤記である可能性が高いというべきである。
イ被控訴人らは,乙11による不足面積は過大に計上されている旨主張する。(ア)府市再編担当について前記(1)イ(ウ)のとおり,政策企画室の府市再編担当は,平成23年12月19日に発足したが,新たな行政事務スペースを確保することができず,本庁舎5階の同室内の会議室を一時的に使用し,同24年1月30日に協働まちづくり室が本庁舎5階から同地下1階の総務局庁舎管理スペース(総務局分室B)へ移転した後は,本庁舎5階の元協働まちづくり室のスペース(200㎡)を使用することを余儀なくされていたのであり,285.8㎡不足していたことに不自然な点はみられない。乙11には「現面積」が「0.0」と記載されているが,これは本庁舎5階での200㎡の使用は一時使用であって仮のものであることから,「0.0」と記載されていると考えられる。また,200㎡を使用していても,85.8㎡が不足することに変わりはない。
(イ) 情報公開室監察部について結果として平成24年4月1日現在の配置面積222㎡が乙11のそれ(188.1㎡)より多くなっていることは事実であるが,前記(1)ウ(ウ)の事情に照らして,もともと過剰な記載をしたことを意味するとまでいうことはできない。
(ウ) 危機管理室について結果として平成24年4月1日現在の配置面積357㎡が乙11のそれ(570.9㎡)より少なくなっていることは事実であるが,前記(1)ウ(ウ)の事情に照らして,もともと過剰な記載をしたことを意味するとまでいうことはできない。
むしろ,未だ狭隘ということになる。(エ)協働まちづくり室について結果として平成24年4月1日現在の配置面積187㎡が乙11のそれ(312.8㎡)より少なくなっていることは事実であるが,前記(1)ウ(ウ)の事情に照らして,もともと過剰な記載をしたことを意味するとまでいうことはできない。むしろ,未だ狭隘ということになる。
ウ被控訴人らは,総務局分室Aは平成23年9月21日以降,総務局分室Bは同24年4月1日以降全く利用されておらず,行政事務スペースが不足していたことなどない旨主張する。しかし,総務局分室Bは同日以降は市政改革室分室として,総務局分室Aは本庁舎以外の所属などがほぼ毎日使用しているので(乙42,43),スペースが余剰になっているとはいえない。
エ被控訴人らは,事務室面積算定基準(乙15)によれば,本庁舎はスペースに相当余裕がある旨主張する。しかしながら,事務室面積算定基準(乙15)は,前示のとおり,必要な事務室面積を算定するための唯一の基準であるものの,同基準が作成されたのは昭和55年頃であり,現在のようなOA関連機器設置スペースや共通会議室は基準に入っていないし,外部委員の委員会室も基準に入っていないものであり,いわば最低限度の基準を示すものにすぎず,運用としては,5%から20%の範囲で増加させることが行われているのであるから,これを根拠にしてスペースに余裕があるものとは断定できない。また,甲78,82,83によれば,被控訴人P1のP26書記長は,本庁舎の行政事務スペースは余裕がある趣旨を供述しているところ,同人は,事細かに各所属の利用状況を確認したというものではなく,いわば外形的に把握したものにすぎないし,空席状況も現場を見てのものではなく,図面上の判断にすぎないものであるから,これをにわかに信用することはできない。
(3) 検討以上の事実を前提に,平成24年度不許可処分の違法性,P10市長や控訴人担当職員の故意過失,損害の有無,平成24年度に係る使用料相当損害金請求の可否について検討する。
ア前記認定事実によれば,平成24年度の組織改編に当たり行政事務スペースが約860㎡程度不足することになったとの総務局の判断は,相応の理由を有するものといえる。実際に各所属において配置を確定していった結果,平成24年4月1日までに職員数の増減や,行政需要の変動,配置の技術的な側面等により,乙11による検討と異なってきたとしても,そのような事態の発生は,あり得ることといえ,総務局の判断がずさんであったということにはならない。
イ被控訴人らは,P10市長には団結権侵害や支配介入の不当労働行為の意思が認められる旨主張する。この点についてみると,P10市長は,市長就任前から,大阪市役所における労使癒着の構造を批判していたところ,市長就任後直ぐに,労働組合等の事務室使用料の減免を平成25年度から廃止する方針を表明したが,同23年12月26日の市議会におけるP19議員の指摘に対し,組合と今の市役所の体質について一から考え直し,法的に認められるとしても,そこまで認める必要がなければ,厳格に認めない方向から対応し,組合事務所についても,公の施設は税金で支えられている施設であり,その中での政治活動はあってはならないことから,退去してもらうところからスタートしたい旨表明した。同時に,P10市長は,職員が本来の組合活動として,勤務労働条件とかそういう労働環境を整えるために使用者側と交渉するとか,当たり前の権利については当然認め,庁舎以外のところでやる政治活動は自由であるが,庁舎内の政治活動は別であるとも述べている。P10市長は,同23年末には,現行法上認められる組合の政治活動は否定しないが,公金を投入することは一切止め,庁舎内で政治活動をすることは認めないので,組合事務所の立退を求める方針を明らかにし,市当局に具体的検討に入るよう指示した。ただし,P10市長は,ここでも,不当労働行為とならないよう,市役所組織を縛ることにする旨の見解を示している。以上のようなP10市長の見解に照らせば,P10市長は,法律上認められる組合活動は保障するものの,労使癒着の構造は改め,組合の庁舎内における政治活動については,これを許容される範囲以外では認めない方向で対応し,組合活動に対する税金の投入(便宜供与)は止めることにして,市民感覚に合うように是正改善していくとの方針を示しているものといえ,P10市長が専ら組合を嫌悪し,組合に対する支配介入の意思を有しているとまでは認めることはできない。
ウ前記認定事実によれば,被控訴人らは,平成18年7月14日から,本件事務室部分(ただし,同22年度までは88.98㎡)について,目的外使用許可を受け,使用料の減免も受けていた(もっとも,被控訴人らが控訴人から組合事務所について便宜供与を受けていたのは平成3年10月からである。)のであり,本件事務室部分の使用許可については,控訴人から特段の指摘もなく許可されてきた。そして,平成23年度についても,前記認定のとおり,行政事務スペースの不足という事情がありながらも,使用許可を受け,使用許可を取り消されることもなく,これを使用していた。被控訴人らについては,特に組合活動に関して違法行為があったことはない旨,控訴人においても認めているところである(弁論の全趣旨)。ところが,P10市長は,市長就任の当初は組合事務所の便宜供与を廃止するとまでは述べていなかったが,市議会においてP19議員から,本件市長選挙に関係して他組合の組合活動について指摘されたことを契機に,平成24年度から大阪市の庁舎から組合事務所を一切退去させることに方針を変更し,事務方にその検討を指示し,事務方においては,P10市長の意向に従い,かつ行政事務スペースの不足を解決すべく,全ての労働組合等に対する本庁舎地下1階の使用を許可しないことを決定し,平成24年度不許可処分を行ったものである。前示の地方自治法238条の4第7項の趣旨から,被控訴人らにおいて,平成18年度以降毎年度同項による目的外使用許可を受けていたとしても,その許可が形式的なものであるとか,実質上の継続であるということはできず,控訴人としては,各年度において,目的外使用許可の許否について,適正適法に裁量権を行使すべきものであるものの,被控訴人らにおいて,平成24年度も使用許可を受けられることを予定していたとしても,それ自体は責められるべきものでもない。
しかるに,P10市長は,前記のとおり,平成23年度の許可満了のわずか3か月前に,何の前触れもなく不許可の方針を表明し,事務方においては,平成24年1月下旬頃になって不許可方針の説明をし,その説明も詳細に渡ることを避けたのであって,平成24年度不許可処分は団結権等を有する労働組合等である被控訴人らに対する配慮を欠き,あまりに性急であったということは否定のしようがない。そうすると,平成24年度不許可処分は,著しく合理性を欠き,社会通念に照らして著しく妥当性を欠くものといわざるを得ない。
エ以上によれば,平成24年度不許可処分は,その余の点を検討するまでもなく,違法といわざるを得ず,P10市長及び被控訴人の職員には,その職務を行うについて過失があったものというべきであって,控訴人は,国家賠償法1条1項により,被控訴人らに対し,損害賠償義務を負うものというべきである。
控訴人は,平成24年度不許可処分により被控訴人らが受ける不利益は大きくはない旨主張する。地方自治法238条の4第7項による目的外使用許可は,当然毎年度受けられるものとはいえないが,大阪市財産条例6条は,1年以上の期間を設定することも容認していること,大阪市財産規則21条は引き続く使用許可申請について規定を置いていること,平成23年度の使用許可に係る許可条件としても,3条2項において大阪市財産規則21条と同旨の条項を置いていること等に照らせば,使用許可が引き続く状態は想定されているものであって,被控訴人らが本件事務室部分を組合事務所として5年以上使用,利用していたことに照らせば,不許可により受ける不利益は無視できるほどに小さいものともいえない。他方,被控訴人らは,平成24年不許可処分がされた後も,本件事務室部分から退去せず,その使用を続けていたことも認められるのであって,これらの事情等も考慮すると,平成24年度不許可処分により被控訴人らが被った損害は各10万円,弁護士費用相当損害は各1万円と認めるのが相当である。
オ前示のとおり,平成24年度不許可処分は違法であって,取り消されるべきものであったところ,控訴人は,平成24年4月1日以降の同年度の使用料相当損害金の請求をしているので,この点検討するに,被控訴人らにおいては,違法な平成24年度不許可処分がされなければ,許可処分により適法に本件事務室部分を占有使用できたと考えられるから,控訴人の上記使用料相当損害金の請求は,権利の濫用に当たり許されないというべきであり,その結果として,被控訴人らは,同年度について本件事務室部分の占有権原を有しているのと同様の状態にあるといえる。
3 平成25年度不許可処分の違法性について
(1) 認定事実
前提事実,前示認定事実,証拠(甲86,乙61,104,原審証人P15,後掲の書証)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められ,この認定を左右するに足りる証拠はない。
ア被控訴人らは,平成24年度不許可処分を受けたものの,同年4月1日から現在に至るまで,本件事務室部分から退去せず,これを組合事務所として占有使用している。被控訴人らと同様に本庁舎の地下1階に組合事務所を設けていたP9ほか5団体は,同年2月20日に平成24年度につき使用不許可処分を受けて,同年3月31日までに本庁舎地下1階から退去し,その退去後の行政事務スペース(別件事務室部分,合計面積712.29㎡)には,同年4月1日に総務局監察部(旧情報公開室監察部,配置面積223㎡)及び危機管理室(配置面積357㎡)が入り,同年5月21日に行政委員会事務局選挙部(旧選挙管理委員会事務局,配置面積223㎡)が入った。(乙26ないし28の各2,29の1ないし11,乙55)
イ第三者調査チームは,平成24年4月2日,調査報告書を提出したが,その要旨は次のとおりである(乙30)。
a 大阪市政をめぐる違法行為の背景には,労使癒着の構造があると考えられる。その元凶は,管理職職員の管理能力の乏しさに起因して生じた労働組合による人事介入である。また,官民癒着の構造がある。
b 例えば,次のような事例がみられた。交通局,こども青少年局,環境局,水道局による労働組合へのヤミ便宜供与(備品類,会議室等の利用),区役所におけるヤミ便宜供与の疑い,実質的ヤミ専従(市バス営業所),違法な政治活動の疑い,健康福祉局,ゆとりとみどり振興局,環境局,建設局,水道局,教育委員会における勤務時間内の政治活動,現業職の採用における口利き,昇進等の人事異動に対する関与,本件市長選挙をめぐる大阪市役所での違法・不適正な政治活動の疑い(協働まちづくり室及び各区役所が行った地域団体支援活動について,選挙を目的とした利益誘導,候補者アピールのための活動の側面を否定できないこと,政策企画室(企画部),情報公開室が行った政策広報活動について,選挙広報活動,候補者への選挙対応アドバイスの側面が否定できないこと,政策企画室(秘書部)が行っていた現職市長補助の業務について,候補者としての活動の補助の側面も否定できないこと,建設局,交通局,水道局,教育委員会,区役所における一般職職員による現職候補者を支援する活動への関与)等。
c 第三者調査チームは,提言の一つとして,「職員の政治活動に関するグレー・ゾーンを解消するために,現職市長・副市長の側の留意点や,行政行為と政治活動を区別するためのルールなどを策定することが必要である。併せて,それを担保するための仕組み(事前にチェックする組織など)を設けることも必要だろう。」としている。
ウ控訴人においては,P10市長の指示で,平成24年1月から労働組合等に対する便宜供与を禁止する条例を作成する準備が始められ,総務局は,同年6月6日,条例案を作成し,財政局での稟議,副市長の訂正,承認を経て,同月27日P10市長が決裁した。
この間の同年2月頃には,控訴人の担当職員は,協力関係にある法律事務所から,これまで認めていた便宜供与を認めないことにすると労働組合等への不当介入に当たるのか等の問題がないかチェックを受けた。同事務所では,合理的な理由なくこれまで認めてきた便宜供与を制限することはリスクはあるが,だから当然使用させなければならないという理屈もないとの回答であった。
また,内部検討段階では,憲法との関係は議論の対象にはならず,地方自治法上の問題があるとの指摘もなかった。
当初被控訴人らに示された条例案(同年6月4日時点。甲56)は,「労働組合等に対する便宜供与は,適正かつ健全な労使関係が確保されていると認められない限り,原則として行わないものとする。」(12条)というものであったが,同年6月20日,P10市長の指示により「適正かつ健全な労使関係が確保されていると認められない限り,原則として」という文言が削除され,成立した本件条例12条のとおり「労働組合等の組合活動に関する便宜の供与は,行わないものとする。」と修正されている(甲57,79)。
この変更の理由は,適正かつ健全な労使関係が確保されていると認められれば便宜供与が許されると理解されかねず,いったん全てをリセットするというP10市長の方針と矛盾することになるというものであった。
上記のとおり修正された条例案は,同年6月22日,被控訴人P2に示されたが,被控訴人P2は,本件条例は支配介入に当たり労組法に違反しており,認められないと主張して抗議し,同月27日には控訴人側との間で交渉が行われたが,平行線のままであった。控訴人側は,被控訴人P2に対し,条例案は同年7月の市議会に上程する旨通告した。(甲54,57,79)上記の修正された条例案は,同年7月6日,市議会に上程され,同月13日,18日,19日及び20日に財政総務委員会において審査され,同月27日,同委員会において原案のとおり可決され,同日本会議において賛成多数で原案どおり可決された(乙34,35)。こうして可決された本件条例は,同月30日の公布を経て,同年8月1日施行された。
エ平成25年2月21日の総務局局議(P27総務局長,P28行政部長,P24総務課長,P29総務課担当係長,P15総務課長代理出席。以下「平成25年2月の局議」という。)において,同年度の組織改編による行政事務スペースの配分について確認決定がされた(乙63ないし65)。改編対象は,以下のとおり,都市制度改革室から大阪府市大都市局への改編,財政局分室(税務部)の設置及びこども青少年局の強化であった。また,全労働組合等からの目的外使用許可申請も認めないことが確認された。(甲86,乙49)(ア)大阪府市大都市局は,市長直轄組織であり,重要施策に位置付けられる事業を行う部署であった。職員数は,平成25年2月の局議時点では,34名から96名に増員見込であった(実際には102人になった。)。身分は全員大阪市職員となるものであった(乙62)。都市制度改革室は,同24年4月1日現在で,本庁舎5階に位置し,職員数34名,基準面積328㎡,配置面積200㎡とされていたが,同25年3月6日現在では,配置面積が296㎡に増えていた(乙49)。同25年4月1日現在では,職員数102名,基準面積1001㎡,配置面積296㎡,同年同月30日現在では,配置面積は547㎡に増えたが,基準面積に対して大幅に不足していた(乙47,48)。平成25年2月の局議時点においては,大阪府市大都市局は,同年4月1日時点で配置面積は296㎡しか確保できない予定であったので,不足分は急きょ本庁舎5階の大応接室及び従前の都市制度改革室の会議室を一時的に潰して作ったが,狭隘のままだった。同年度途中でレイアウト改修工事を行い,547㎡までは確保されたが,それでも狭隘なのは上記のとおりである(乙48)。
(イ) 財政局事務室(乙63)については,平成24年12月13日の総務局局議で話し合われ,平成25年2月の局議で決まった。同年の組織改編に伴い,分散配置されていた固定資産評価に係る路線価の付設に関する事務及び土地評価に関する企画事務を行う組織を本庁舎内に集約することになった。必要面積は88.8㎡(5%加算前)で本庁舎地下1階の第9共通会議室で110㎡を当てることとされた(乙64)。集約化することで大阪市全体で行われている人員削減を実現するものである。最終的に増減を入れると9名減となった。(乙49,63ないし65)(ウ)こども青少年局については,待機児童の解消のための施策を進めるため,組織の拡大が図られることになった。この点は,大阪市の重要施策の一つであるとともに,本庁舎内の関係部署との間で密接な連携が必要な部署であったことから,本庁舎内に事務スペースを確保する必要があった。しかし,余剰スペースがなかったことから,組織の一部が本庁舎外に移転する計画調整局(後の都市計画局)の事務スペースの一部(274㎡)を新たにこども青少年局の事務スペースの一部とすることになった。しかし,これでは足りず,計画調整局の会議室なども一部明け渡してもらうこととし,同年7月に移転を完了した。
同24年5月1日時点では,職員数206人,基準面積1465㎡,配置面積1761㎡であったが(乙17),同25年4月19日時点では職員数257名,基準面積1813㎡,配置面積1708㎡となっている。なお,平成25年2月の局議時点では配置面積は2035㎡になると予定していた(乙65)ので,実際には狭隘化している。配置面積が減少しているのは,こども青少年局の会議室を一部先行して都市計画局に移管したことによる。
オ被控訴人らは,平成25年2月18日,P10市長に対し,本件事務室部分につき,使用期間を同年4月1日からの1年間として,行政財産の目的外使用許可申請をしたところ,P10市長は,同年3月18日,平成25年度不許可処分をした。同不許可処分を告知した書面(甲71)には,理由として,①本件条例12条において,労働組合等の組合活動に関する便宜の供与は行わないこととしているため,②本申請の対象となるスペースについては,行政事務スペースとして利用する必要があるため,と記載されていた。(甲69ないし71)
カ被控訴人らは,平成25年3月22日,控訴人に対し,組合事務所の供与等についての協議等を求めて団体交渉を申し入れたが,控訴人は,同月28日,被控訴人らに対し,上記事項はいわゆる管理運営事項に当たるとして,上記申入れには応じられない旨回答した。(甲72,73,乙52)
(2) 検討
以上の認定事実を前提に,平成25年度不許可処分の違法性について検討する。
平成25年度不許可処分の理由は,これを告知した書面によると,①本件条例12条において,労働組合等の組合活動に関する便宜の供与は行わないこととしているため,②本申請の対象となるスペースについては,行政事務スペースとして利用する必要があるためとされている。
ア本件条例12条について
(ア) 本件条例12条は「労働組合等の組合活動に関する便宜の供与は,行わないものとする。」と定めており,その文言からして,労働組合等に対する便宜供与はほぼ例外なく行われないものと解される。被控訴人らは,前記認定のとおり,本件事務室部分について使用期間を同年4月1日からの1年間として,行政財産の目的外使用許可申請をしたところ,これが労働組合等に対する便宜供与に当たると認められるから,本件条例12条の下においては,同申請は不許可となるほかはない。
もっとも,地方自治法238条の4第7項は「行政財産は,その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができる。」と規定して行政財産管理者の広範な裁量により使用許可をすることを可能としているから,特別の事情がある場合には,本件条例違反として市議会による責任追及の可能性はあるが,行政財産管理者の判断で使用許可をする余地も法理論上は否定し得ない。
(イ) 被控訴人らは,本件条例12条は憲法28条に違反し違憲無効である旨主張する。
a 前記認定のとおり,大阪市においては,平成16年から同17年にかけて,カラ残業,ヤミ年金,ヤミ退職金,ヤミ専従など様々な職員厚遇問題が表面化した。これを受けて,各種改革が実施され,労使癒着の構造にメスが入れられ,時間内組合活動の適正化,本庁舎地下1階における組合本部への便宜供与の見直し,各庁舎における組合支部への便宜供与の見直し,組合との交渉内容の公表,組合に対する本庁舎駐車場の目的外使用の不許可等の施策が講じられた。
しかし,その後も,特に現業部門を中心とした労使癒着の構造は十分に解消されなかったほか,プール金等の不適正資金問題の発覚,重大事犯の頻発,職場規律の緩み,区役所と地域団体との不透明な関係,違法ないし不適切な政治活動の事象が見られた。
第三者調査チームの調査報告においても,大阪市政を巡る違法行為の背景には,労使癒着の構造があると考えられ,その元凶は,管理職職員の管理能力の乏しさに起因して生じた労働組合による人事介入であり,また,官民癒着の構造があると指摘されている。具体的事例としては,各所属での備品類,会議室等の利用形態での労働組合等に対するヤミ便宜供与やその疑い,交通局における実質的ヤミ専従や違法な政治活動の疑い,健康福祉局,ゆとりとみどり振興局,環境局,建設局,水道局,教育委員会における勤務時間内の政治活動,現業職の採用における口利き,昇進等の人事異動に対する関与,本件市長選挙を巡る大阪市役所での違法・不適正な政治活動などである。これらの事象は,発覚するたびにマスコミにおいて大きく取り上げられ,批判されている。
第三者調査チームは,提言の一つとして,「職員の政治活動に関するグレー・ゾーンを解消するために,現職市長・副市長の側の留意点や,行政行為と政治活動を区別するためのルールなどを策定することが必要である。併せて,それを担保するための仕組み(事前にチェックする組織など)を設けることも必要だろう。」としている。
これらの状況を踏まえ,「適正かつ健全な労使関係の確保を図り,もって市政に対する市民の信頼を確保することを目的」として(本件条例1条),本件条例が市議会において適法に可決成立されたものである。
以上の経過に照らせば,本件条例12条が制定されたことには,十分な理由が認められるといえる。被控訴人らは,「適正かつ健全な労使関係」の意味が一義的に明らかではなく目的自体の正当性が認められないと主張するが,立法技術上文言の意味内容が一義的に明らかになるよう規定することが常に要請されるということはないのであって,被控訴人らの主張は相当でない。
b 被控訴人らは,本件条例は、P10市長の組合弱体化意思に基づき制定されたものである旨主張するが,市議会での審議の上で適法に可決成立した条例について,市長個人の意思に基づき制定されたというのは,憲法上も認められている議会の条例制定権を正解しない見解であって採用できない。のみならず,前示のとおり,P10市長は,法律上認められる組合活動は保障するものの,労使癒着の構造は改め,組合の庁舎内における政治活動については,これを許容される範囲以外では認めない方向で対応し,組合活動に対する税金の投入(便宜供与)は止めることにして,市民感覚に合うように是正改善していくとの方針を示しているものといえ,P10市長が専ら組合を嫌悪し,組合に対する支配介入の意思を有しているとまでは認めることはできないから,被控訴人らの上記主張は採用できない。
c 被控訴人らは,本件条例12条は労働組合等に対する便宜供与を一切禁止しており,必要最小限度のものとはいえないことから,団結権等の保障を定めた憲法28条に違反するとも主張する。
憲法28条は「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は,これを保障する。」と規定しているところ,労働組合等が使用者から便宜供与を受ける権利を有するかどうかについて憲法自体は明文で規定しているものではないし,憲法28条の保障を具体化したものと解される労組法においても,後記(エ)bでも説示するように,労働組合等が便宜供与を受ける権利を有する旨を定めた規定はみられず,その他の法令においても,同様と解される。
d 以上によれば,本件条例12条自体が,憲法28条に違反し違憲無効であるとは認められない。
(ウ) 被控訴人らは,本件条例12条は,憲法14条に違反する旨主張する。本件条例12条は「労働組合等の組合活動に関する便宜の供与は,行わないものとする。」と定めており,その文言からして,労働組合等に対する便宜供与はほぼ例外なく行われないものと解され,労働組合等以外の者が地方自治法238条の4第7項による目的外使用許可を求める場合と比べて不平等となることは否定し得ない。しかし,前記認定のような大阪市における幾多の労使癒着の事象や違法・不適正な政治活動の事例の発生を防止し,「適正かつ健全な労使関係の確保を図り,もって市政に対する市民の信頼を確保することを目的」として,労使癒着の構造や違法・不適正な政治活動の温床となりかねない労働組合等に対する便宜供与を行わないとすることは,その目的において合理性があり,手段としても,法的権利とはされていない労働組合等に対する便宜供与を一律にしないこととするのは不相当とはいえないから,本件条例12条は,合理的な差別を設けるものとして,憲法14条に違反するとは認められない。不適正若しくは違法な活動を行っていない労働組合等に対する便宜供与まで認めないことは過剰であるとの批判もあり得るものの,各労働組合等において個別に取扱いを異にすることになれば,「適正かつ健全」かどうかは直ちに判断でき得るものではなく,不当な組合差別として不当労働行為であるとされる可能性も存在するから,労働組合等に対する便宜供与を一律にしないこととするのもやむを得ないというべきである。
(エ) 被控訴人らは,本件条例12条は,憲法94条,地方公務員法,労組法に違反する旨主張する。
a 憲法94条は「地方公共団体は,その財産を管理し,事務を処理し,及び行政を執行する権能を有し,法律の範囲内で条例を制定することができる。」旨規定し,地方公共団体の条例制定権は法律に違反することはできない旨定める。
本件条例12条は「労働組合等の組合活動に関する便宜の供与は,行わないものとする。」と規定するので,
b
c 地方公務員法(ただし,平成25年8月1日当時のもの)は,その1条で「この法律は、地方公共団体の人事機関並びに地方公務員の任用、職階制、給与、勤務時間その他の勤務条件、分限及び懲戒、服務、研修及び勤務成績の評定、福祉及び利益の保護並びに団体等人事行政に関する根本基準を確立することにより、地方公共団体の行政の民主的かつ能率的な運営並びに特定地方独立行政法人の事務及び事業の確実な実施を保障し、もつて地方自治の本旨の実現に資することを目的とする。」旨定めるところ,事務所の供与に係ることを規定しておらず,行政財産を組合事務所として供与することについては,もっぱら地方自治法238条の4第7項によって処理することを想定しているものといえる。そして,被控訴人らが指摘する地方公務員法13条,15条,27条,55条1項は,いずれも事務所の供与に関する規定ではないから,地方公務員法が本件条例12条が定めるような事項について何らかの規制を及ぼす趣旨のものとは認められない。
d 以上によれば,本件条例12条が労組法や地方公務員法に違反しており憲法94条違反になるものとは認められない。
(オ) 以上の次第で,平成25年度不許可処分の理由の一つとして,本件条例12条において,労働組合等の組合活動に関する便宜の供与は行わないこととしているため,とされているのは相当であると認められる。
イ不当労働行為について
被控訴人らは,団結権の侵害や不当労働行為が認められれば,それだけで平成25年度不許可処分は違法となる旨主張するが,前記1(2)で説示したとおり,採用できない。
ウ行政事務スペースとして利用する必要性等について
(ア) 前記(1)アの認定によれば,P9ほか5団体がした平成24年度の目的外使用許可申請が不許可となり,同労働組合等が退去した後の別件事務室部分は,いずれも同24年4月1日に総務局監察部(旧情報公開室監察部)及び危機管理室が入り,同年5月21日には行政委員会事務局選挙部(旧選挙管理委員会事務局)が入り,その後の同年7月17日には,危機管理室の使用スペースのうち177㎡が本庁外から移転してきた財務局の一部署に充てられた。
(イ) しかし,平成25年2月の局議までに,同年4月1日には都市制度改革室から大阪府市大都市局への改編,財政局分室(税務部)の設置及びこども青少年局の強化が予定され,これらのことにより行政事務スペースが新たに数百㎡不足することが見込まれたことから,行政事務スペースの狭隘は依然として変わりはなく,行政事務スペースは必要であった。
(ウ) 被控訴人らは,平成24年度不許可処分を受け,同年5月10日には第2事件が提起されていた(ただし,同処分が違法であることは既に説示したとおりである。)ところ,本件条例12条により,労働組合等の組合活動に関する便宜の供与は,行わないものとするとされていたことから,控訴人により平成25年度不許可処分がされるであろうことは,本件条例が公布された同24年7月30日以降は十分に予測できたのであるから,平成25年度の明渡しが求められることについて,被控訴人らが予想外の不利益を被ったということはできない。
エ行政手続法違反について
被控訴人らは,平成25年度不許可処分が不利益処分である旨主張するが,目的外使用許可申請に対する不許可処分は,不利益処分に当たらないから,その主張は前提において理由がない。
次に,被控訴人らは,本件審査基準の1(1)クは,どのような場合に使用許可がされどのような場合に不許可になるのかが申請人には全く理解できないから,審査基準として意味がない旨主張する。しかしながら,地方自治法238条の4第7項による行政財産の目的外使用許可は,行政庁に広範な裁量権が認められているから,その審査基準に求められる具体性の程度は,方針や考慮事項といった程度のもので足りると解され,本件審査基準1(1)クの「事務事業上やむを得ない」という基準は,十分なものといえる。よって,同基準は行政手続法5条1項及び2項には違反しない。
被控訴人らは,平成25年度不許可処分の通知書(甲71)には,当該処分がいかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して処分がされたかを明らかにし具体的理由が提示されているものとはいえないから,行政手続法8条1項,2項に違反する旨主張する。しかしながら,前記認定のとおり,上記通知書には,①本件条例12条において,労働組合等の組合活動に関する便宜の供与は行わないこととしているため,②本申請の対象となるスペースについては,行政事務スペースとして利用する必要があるため,と記載されているところ,これらの記載で足りるものというべきである。
オ以上によれば,平成25年度不許可処分は適法というべきである。したが
って,被控訴人らの国家賠償請求は,その余を検討するまでもなく理由がない。
4 平成26年度不許可処分の違法性について
(1) 認定事実
前提事実,前記認定事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められ,この認定を左右する証拠はない。
ア被控訴人らは,平成26年2月6日,P10市長に対し,本件事務室部分につき,使用期間を同年4月1日からの1年間として,行政財産の目的外使用許可申請をしたところ,職務代理者は,同年3月11日,平成26年度不許可処分をした。同不許可処分を告知した書面(甲105)には,理由として,平成25年度不許可処分の理由と同一の理由が記載されていた。(甲103ないし105)
イ被控訴人らは,同年3月12日,控訴人に対し,組合事務所の供与等について協議等を求めて団体交渉を申し入れたが,控訴人は,前記3(1)オと同様の理由で上記申入れには応じられない旨回答した(甲106,107,乙52)。
ウところで,平成26年度の行政事務スペースの確保に関しては,局議等の会議は開催されなかった(甲128)。
(2) 検討
以上の認定事実を前提に,平成26年度不許可処分の違法性について検討する。
ア平成26年度不許可処分の理由は,これを告知した書面によると,①本件条例12条において,労働組合等の組合活動に関する便宜の供与は行わないこととしているため,②本申請の対象となるスペースについては,行政事務スペースとして利用する必要があるためとされており,平成25年度不許可処分の理由と同じである。
イ本件条例12条についての判断及び不当労働行為についての判断は,前記3(2)ア,イと同旨である。
ウ行政事務スペースとして利用する必要性について上記(1)認定のとおり,平成26年度の行政事務スペースの確保に関しては,局議等の会議は開催されなかったところ,乙113によれば,大阪府市大都市局は基準面積1003㎡に対し配置面積は596㎡に過ぎないこと,こども青少年局の地下1階は基準面積529㎡に対し配置面積は491㎡であること等,依然として狭隘な部署があることから,行政事務スペースの必要性はいまだ存在するものと考えられる。
エ行政手続法違反について前記3(2)エと同様の理由により,平成26年度不許可処分を告知した書面(甲105)の記載で足りるものというべきである。
オ以上によれば,平成26年度不許可処分は適法というべきである。したがって,被控訴人らの同処分の取消請求,国家賠償請求及び本件事務室部分に係る目的外使用許可処分の義務付けを求める部分はいずれも理由がない。
5 控訴人の被控訴人らに対する本件事務室部分の明渡請求及び平成25年4月
1日以降の使用料相当損害金請求について
(1) 明渡請求
平成25年度及び平成26年度不許可処分がいずれも適法であることは既に説示したとおりであるから,被控訴人らは,本件事務室部分を権原なく占有しているというべきであって,控訴人の被控訴人らに対する本件事務室部分の明渡請求は理由がある。
(2) 使用料相当損害金請求
被控訴人らは,平成25年4月1日以降,本件事務室部分を権原なく占有しており,この間の相当使用料額は,大阪市財産条例7条に基づき算定すると,本件事務室部分の使用料は,1㎡当たり1か月3785.35円となり,これに被控訴人らが占有している面積44.49㎡を乗じ(円未満切捨て),消費税(5%で計算)を加えると,本件事務室部分の使用料は,1か月17万6830円となることが認められる(乙8)。
よって,被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して平成25年4月1日から本件事務室部分の明渡済みまで1か月17万6830円の割合による使用料相当損害金の支払義務がある。
第4 結語
以上の次第で,平成24年度不許可処分は違法であり,平成25年度不許可処分及び平成26年度不許可処分はいずれも適法である。そして,平成24年度不許可処分により被控訴人らが被った損害の国家賠償請求は,原判決が認容した限度で理由があり,その余は理由がない。平成25年度不許可処分及び平成26年度不許可処分はいずれも適法であるから,被控訴人らの国家賠償請求はいずれも理由がない。控訴人の被控訴人らに対する本件事務室部分の明渡請求は,平成25年度不許可処分及び平成26年度不許可処分がいずれも適法であるから,被控訴人らは控訴人の許可なく本件事務室部分を占有していることになるから,理由がある。控訴人の被控訴人らに対する使用料相当損害金請求は,平成25年4月1日以降被控訴人らは無権原で本件事務室部分を占有していることから,同日以降についての使用料相当損害金請求は理由があるが,同24年4月1日から同25年3月31日までの分の請求は,平成24年度不許可処分が違法であり,控訴人の本件事務室部分明渡請求が権利濫用として許されない結果,被控訴人らは本件事務室部分の占有権原を有しているのと同様の状態になるから,理由がない。
以上の次第で,上記と一部結論の異なる原判決はその限度で不当であるから,これを変更することとし,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第1民事部
裁判長裁判官志 田博文
裁判官下 野恭裕
裁判官土 井文美