大阪地判平成27年11月30日(刑事判例)

大阪地方裁判所(大阪府)

事件番号:平成26(わ)5542

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主文
被告人は無罪。
理由

第1    訴因変更後の公訴事実
訴因変更後の本件公訴事実(以下「本件公訴事実」という)は,「被告人は,A(平成22年8月11日生,以下「被害者」という)の実母であり,平成25年4月15日にBと婚姻して,大阪府茨木市a町b番c号の自宅において,両名と居住し,同月24日に被害者と養子縁組をしたBと共に親権者として被害者を監護していたものであるが,Bと共謀の上,平成26年4月頃,前記自宅又はその周辺において,幼年者であり,かつ,先天性ミオパチーにより発育が遅れていた被害者に十分な栄養を与えるとともに,適切な医療措置を受けさせるなどして生存に必要な保護をする責任があったにもかかわらず,その頃までに栄養不良状態に陥っていた同人に対して,同年6月中旬頃までの間,十分な栄養を与えることも,適切な医療措置を受けさせるなどのこともせず,もってその生存に必要な保護をせず,よって,同月15日,前記自宅において,被害者を低栄養に基づく衰弱により死亡させた」というものである。

第2    争点
本件の争点は,①被害者が,十分な栄養を与えられなかったために低栄養に基づく衰弱により死亡したものであるか,②被告人において,被害者が十分な栄養を与えられていない状態(生存に必要な保護として,より栄養を与えられるなどの保護を必要とする状態)にあることを認識していたかである。

第3    争点①について
証人C医師の供述等の関係各証拠によれば,被害者は,同じ年齢層の子供と比較して,軽い方の2.5%以下になる程に体重が非常に軽く,やせていたこと,皮下脂肪等の体内の脂肪が少なく,脂肪細胞も萎縮しており,脂肪の分解を示す尿中のアセトン濃度も基準値より高かったことに加えて,数か月間のストレス反応により出てくるホルモンの影響等によると考えられる胸腺の萎縮が見られることや,栄養状態の指標である血液中のアルブミン値が正常値よりも低いことなど,被害者が相応の期間の栄養不良状態にあったことを根拠付ける事情が多数認められ,窒息をうかがわせるような炎症等のその他の要因を示す所見も見受けられないことから,被害者の死因は低栄養に基づく衰弱死であると考えるのが合理的である。これに対し,弁護人は,被害者は,ミオパチーを原因とする何らかの呼吸障害等によって死亡した可能性がある旨主張するが,証人D医師の供述によれば,途中まで相応に成長していた被害者がミオパチーの影響のみで本件のような急激な体重減少となることは考えられないのであって,栄養不良状態による衰弱等の要素を加味しなければミオパチーのみを理由として突然に呼吸障害等を起こすものともいえず,弁護人の主張を採用することはできない。


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                        裁判所名

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