賍物収受

最高裁判所第二小法廷(東京都)

昭和28(あ)1342

1956年09月14日

目次

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    主    文

原判決及び第一審判決を破棄する。

本件を水戸地方裁判所に差し戻す。

    理    由

被告人本人及び弁護人安斎保の上吉趣意はいずれも単なる法令違反(採証法則違背)とこれを前提とする事実誤認の主張に外ならないから共に適法な上告理由に当らない。また、弁護人正木・、同遊田多聞の上告趣意第一点は違憲を主張するが、憲法三七条一項にいわゆる「公平な裁判所の裁判」の意味並びに同法七六条三項の法意について、従来当裁判所大法廷が屡々示した判例に照し且つ一件記録を調べた結果に徴すれば、所論の点で論旨を容認することは到底できないから所論は採用し得ないし、同第二点は結局単なる法令違反(採証法則違背)と事実誤認の主張をいでないものであつて適法な上告理由に当らない。

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    しかし職権を以つて審査するに、原判決は被告人に対する公訴事実中、食糧管理法違反と物価統制令違反の点については、第一審判決言渡後である昭和二七年四月二八日政令第一一七号大赦令により大赦があつたので、第一審判決を破棄して右各違反の事実について被告人を免訴したが、大赦にかからない賍物収受の公訴事実につき「被告人は昭和二十四年四月二十八日頃茨城県西茨城郡a町大字ab番地A方で同人から同人が横領したものであることの情を知りながら、昭和二十三年度の普通衣料切符用紙二千枚位を譲受け賍物を収受したものである。」との事実を認定した上、その証拠としてAの検察官に対する昭和二四年七月一日附第一回供述調書と同年七月一八日附第二回供述調書のみを挙げているのである。そして原判決は第一審公判廷における証人Aの証言(本件賍物収受の公訴事実に対応する当該衣料切符用紙譲渡の事実を否定しているもの)より検察官の面前における供述の信用すべき特別の状況たる事由を指摘し、且つその供述の任意牲を疑うべき点を記録上発見し得ないとしてその供述の信憑力、証明力について説明している。

    しかし本件記録を精査し、更に職権でAに対する業務上横領等被告事件の記録(第一審水戸地方裁判所、第二審東京高等裁判所昭和26年\(う\)3五八四号事件―以下単に別件と略称する)を取り寄せ同記録と併せて本件を検討すると、Aが検察官の面前においてなした供述のいわゆる信用性に関する原審の判断には、にわかに賛同し難い左記の諸点がある。

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      そもそも本件は、被告人において賍物の授受自体、換言すれば本件賍物収受の犯罪事実を全面的に強く否認している事案であるところ、Aが警察殊に検察庁においてその取調を受けた際間違いないと確言した事実が、その後同人の嘘言であつたことが判明しているのである。即ちAがBに本件と同様の衣料切符用紙二〇枚を譲渡した事実とCに一〇、〇〇〇枚以上譲渡した事実であるが、右Bに関するAの警察における供述が全く虚偽であつたことは第一審証人D(警察官)の証言によつて明らかであり、また右Cに関してはAが昭和二四年六月二二日の警察における取調において本件被告人Eに衣料切符用紙を譲渡した旨の従前の供述は虚構であつたといつてその供述をひるがえした際、取調官より「それではCに一万枚以上やつたという事実はどうか」と尋ねられたのに対し、Aは「それは絶対に間違いありません、Cさんが逮捕されても間違いないということを言明できます」と応答し、また、検察庁の取調においても「Cに一万枚以上やつたことは相違ない」旨供述して、同人に本件と同様の衣料切符用紙を譲渡した事実を不動のものの如く肯定していたのであるが、本件について事実の取調が進むにつれ、さような事実も全くなく、これまたAの嘘言に過ぎなかつたことが記録上明らかにされているのである。さればAから本件と同様の衣料切符用紙一二〇枚を譲受けたF及びそれよりも更に少い五枚乃至三五枚を譲受けたG、H、I、J、K、Lがいずれも別件で臨時物資需給調整法違反の罪として起訴せられているにかかわらず、一〇、〇〇〇枚以上の衣料切符用紙を譲受け従つて同人等より当然重い刑責に問われなければならない筈のCは遂に起訴されずに終つているのである。そしてAが警察において本件被告人にも衣料切符用紙約二、〇〇〇枚を譲渡した旨の供述をするに至つたのは、同人が実際に横領したと認められる衣料切符用紙の実数と同人の供述との間に計数上符合しなくなりその点を取調官から追求せられ、窮余本件被告人には約二、〇〇〇枚、Cには一〇、〇〇〇枚以上を譲渡した旨の供述をしてその枚数の不一致につじつまを合せようとしたことが記録上窺えるのであつて、その間の消息はAが第一審及び原審で証人として尋問された際の証言中に明らかに看取されるのである。またAは別件で起訴されているが、その第一審公判で「Eにはやつていないと記憶する」旨供述し、前記F外六名に対する衣料切符用紙譲渡の事実はすべて肯認しながら、本件被告人に譲渡した事実のみは否認しており、殊に前記Cに対し一〇、〇〇〇枚以上を譲渡して衣料切符用紙を横領した事実のみはAに対する起訴事実から除外されていること別件記録上明らかである。

      前記のようにAが横領したと認められる衣料切符用紙の実数とその供述との間の不一致につじつまを合せるため、本件被告人と前記Cにそれぞれ右用紙を譲渡した事実を供述するに至つたことが窺える本件においては、右両者に関する事実関係は或は不可分とまではいえないまでも、少くともこの間に密接な関連性のあることは否定し得ないところであると推認されるのであつて、若しCに関する事実についてその後その事実のなかつたことが判明し不問に付されたとすれば、本件被告人に関する事実のみが起訴され審判を受けていることはまことに不合理なことであるといわなければならない。

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        そして本件記録に徴すれば、Aは警察及び検察庁における取調において自己の弁解が到底容れられないことを思い、後日公判廷において本件被告人に関する事実の虚構であることを申し立てる考えで右尋問に応答したと思料される疑いがあり、また他方本件被告人は右Aが被告人に衣料切符用紙を譲渡した事実を警察で自供したことを、新聞紙上で知るや直ちにその事実の虚構であることを電話で警察に訴え、更にそれを明らかにするため自ら進んで警察に出頭している事実をも認められるのである。

        以上要するに、Aの本件被告人に対する本件衣料切符用紙譲渡の事実に関する警察殊に検察庁における供述には、にわかに措信し得ない前記のような諸点の事由があるにかかわらず、同人の検察官に対する第一、二回供述調書の信用性乃至証明力について更に一般の深い検討を加えず、これを証拠に採つて事実を認定した原判決及び第一審判決には、いずれもその判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認を疑うに足る顕著な事由があつて、共にこれを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。

        よつて刑訴四一一条三号四一三条に則り、原判決及び第一審判決を破棄し本件を第一審裁判所である水戸地方裁判所に差戻すべきものとし、主文のとおり判決する。

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          この判決は全裁判官一致の意見である。本件公判出席検察官神山欣治  昭和三一年九月一四日     最高裁判所第二小法廷         裁判長裁判官    栗   山       茂            裁判官    小   谷   勝   重            裁判官    藤   田   八   郎            裁判官    谷   村   唯 一 郎            裁判官    池   田       克

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